三千界のアバター

≪ワールドピース≫セーフ・オブ・チルドレンズ・トイ

リアクション公開中!

≪ワールドピース≫セーフ・オブ・チルドレンズ・トイ
リアクション
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7  Next Last


【1】ビル防衛 その一




 ブランクという過酷な世界において、一瞬の判断ミスは命取りだ。ましてや、逃げるべき場面で後ろ髪を引かれるなど、あってはならない。スーベニアの子供たちはそのことをよく理解していたはずだった。
 しかしやはり、つまらない人生に娯楽が提供されると、心は緩んでしまうもの。どんな世界のどんな人間でも娯楽に依存してしまうというのは起き得ることではあるが、スーベニアの子供たちの場合は特に大きく依存してしまったのだろう。このような世界なのだろうか、仕方無いのかも知れない。
「クソッ! 完全にミスったな……!」
「言っても、もう遅いわ。ここで何とか耐え凌ぐしかないわね」
 同情すべき点はあるが、それでも子供たちの判断は誤りだった。大量のテュポーンを前にして、タクミとランファはビルに立て籠もると言う悪手を踏んでしまったのだ。ここは一目散に逃げなければならなかったというのに。
 タクミは判断ミスを悔やみ、奥歯を軋ませながら子供たちをビルの屋上と導く。もう、逃げ場はそこしかないのだ。
 周囲にはビルを取り囲むテュポーンの群れと数体のギガンティック。とてもではないが、自分たちだけで対応できる数ではない。これでは、ビルが崩れるまでの時間だけ、無意味に延命しただけだ。ネガティブに考えれば、恐怖する時間が増えたとも取れる。
 しかし、間に合った。
「まったく……こんなに集まってゲームの邪魔とか、本当に無粋な連中ね」
「ただ生き抜くことしか考えられなかった子供たちが、ゲームを楽しめるまでになったんだ。数少ない楽しみは守ってやらないとな!」
 そう言って現れたのは、アリーチェ・ビブリオテカリオ世良 潤也の二人だった。二人は戦況を確認するとすぐに『誘引のファミリア』を出現させ、テュポーンたちの後方から注意を引き付け始める。
「とにかく、これ以上ビルには近づけさせない! アリーチェ、そっちは任せたぞ!」
「わかったわ。やれやれ……さっさとこいつらを片付けて、あたしもRWOやりたいわ」
 潤也とアリーチェは二手に分かれ、より多くのテュポーンを引き付けることでビルへの侵攻を防ごうとする。テュポーンは二人にターゲットを変えると、まずは突如現れた敵の排除に動き出した。
「ほら、来いよ! 俺はこっちだぜ!」
 その言葉に反応してか、テュポーンは躍起になって潤也に追い縋る。潤也もまた、距離を取り過ぎることで注意が逸れないよう気を遣いながら丁寧に立ち回り、敵を集め続ける。
(そろそろだな……!)
 いよいよこれ以上は抱え込めない数だと判断した潤也は、テュポーンの攻撃を躱しながら『チャージ』を実行、力を溜める。
 そして次の瞬間、テュポーンの群れに向けて『フレイムディザスター』を放った。
 突如出現した火炎の渦に多くのテュポーンが巻き込まれ、焼き尽くされていく。また、火の粉が広範囲に撒き散らされたことで潤也を向いていなかったテュポーンも後方に注意を向けだした。
 集敵と殲滅、そこから更なる集敵。これを繰り返せば、ビルへの負担はかなり減らせるはずだ。
 アリーチェもまた、潤也と対になるよう彼とは逆の方向に敵を釣り出していた。それ以外の行動も潤也と同様だ。
「あたしも、行くわよ!」
 潤也の放ったフレイムディザスターを合図に、『トランス』で高めた魔力を使用した『天階』を実行。アリーチェの真上に発生した雲間から放たれた光は多数のテュポーンに降り注ぎ、次々に消滅していく。
 二人の大規模な攻撃でテュポーンの群れの中に大穴が空き、ビルまでの道が開かれた。今こそビルに近付く好機。ビルの防衛を行おうとする他の特異者たちは、テュポーンを薙ぎ払いながら猛進する。
 夏輝・リドホルムもその中の一人だったが、彼のビルの前ではなく、『スカイブラスター』を用いて屋上を目指す。
(まずは子供たちを安心させなければ)
 屋上というこれ以上逃げ場のないところで敵に囲まれていては、いくらスーベニアの子供たちであっても精神的に耐えられないだろう。そんな子供たちに希望を与えるため、夏輝はビルの屋上に降り立った。
「タクミ、ランファ嬢、無事か? 子供たちに怪我人はいないか?」
「す、すまねぇ、助かったぜ! 俺たちは無事だ。今のところ欠けも怪我人もいねえ」
「もっと安全な場所に避難したいところだけど、こう囲まれてちゃ身動きも……」
 最悪の場合、子供たちだけでもコロニーに連れて行くことも考えていた夏輝だったが、事態は想像以上に悪い。子供の数は多く、敵の数も凄まじい。やり過ごしてコロニーへ向かうというのは不可能だろう。また、一部の子供たちがRWOにログインしたままという状況では、おいそれとビルから離れるのは危険だ。やはり、防戦以外にない。
「……わかった。オレたちが何とかする。皆も最後まで希望を捨てないでくれ」
 それだけ言うと、夏輝は再び上空へと飛び上がった。その背中で希望を自ら示すように。
 上空に陣取った夏輝は『ステルスダスターコート』で気配を消し、『GEファミリア“T.LB”』と『蒼炎の生存本能』による高速思考を用いた戦況の把握に努める。
 夏輝が子供たちと接触している間に、彼の仲間たちは既に決めてあった配置につき、ビルに迫るテュポーンの迎撃をしているようだった。敵の動きは単純。ビルの破壊を目指しているようだが、その前に特異者が立ちはだかれば、そちらを優先して攻撃するといったものだ。
(狙いはビルの破壊、だけなのだろうか)
 夏輝はあまりにも単純なテュポーンの動きを訝しみ、『コールドリーディング』で行動予測を立てる。テュポーンの狙いはもっと具体的なもの、例えばRWOのサーバとなっているピュータがメインターゲットなのでは、と夏輝は考えていた。
 しかし、どうシミュレーションしても、テュポーンの動きはビルの破壊を目指したものにしかならない。既に子供たちやピュータが屋上にいることは気配などから察してはいるはずなのだが。
(まぁ、ビルを壊せばピュータも子供たちも同時に仕留められる……合理的ではあるが)
 夏輝は一応の結論を出し、上空に潜みつつ好機を待つ。
「数が多いですね……でも、落ち着いて」
 夏輝の仲間である砂月 秋良は、潤也やアリーチェの猛攻に構わずビルへ突進してくるテュポーンの対処に当たっていた。『絶獅子の咆撃“凛々の獅子咆”』のファミリアアビリティによって伸びた髪を振り乱し、近接攻撃で確実にテュポーンを仕留めている。
 加えて『ライグナイト“ライグナイトAS”』のファミリアアビリティと『SUファミリア“導きの燈火”』で攻撃性能を引き上げられているため、秋良の攻撃を受けたテュポーンは掠った程度でも破裂するかのように倒れていく。
 圧倒的な数を前に、実に丁寧で手間のかかる立ち回りだが、ビルを背に戦っている以上、仕方のない立ち回りだ。ここで大規模な攻撃を行えばビルが倒壊する恐れがある。無駄のない最低限の攻撃で敵を倒す必要があるのだ。
 とは言え、やはり数の差は無視できない。あまりにも多数の敵が他の特異者たちの間を抜けてきた場合は『ファミリア【レベル5】』と凛々の獅子咆のファミリアアビリティを発動し、テュポーンをその場に縛り付ける。そして『カルペディエム』を使用し、自分と付近の特異者たちの力を更に引き出すことで対処に当たる。
 秋良の更に後ろには、『炎印の包帯“蒼炎の籠手”』で炎の精霊と化した『ファミリア【レベル5】“キョク”』を『グロースリンク』で纏った水瀬 悠気が立ちはだかっている。
 悠気は基本的にはビルの入り口を守る門番のように構えているが、秋良や他の特異者たちが漏らしそうになった敵をグロースリンクによる第六感でいち早く察知し、素早く対応できるようにもしてある。近づいてくる敵に対しては『プラーナシールド“手甲盾[雪陽炎]”』でしっかり防御し、炎を纏った拳で迎撃。離れた敵に対しては火球を飛ばしたり『ファミリアブリッツ』を放ったりして、秋良と同様、丁寧な立ち回りでビルを守る。
 テュポーンは仮に秋良という攻勢防壁を突破できたとしても、その次には悠気という炎の壁を超えなければビルには届かない。数の優位はあれど、この二段構えがある限りあまり美味い侵攻ルートとは言えないだろう。
 しかし、そう言った戦略的なものなど考えていないのか、テュポーンの群れは次々に襲い掛かってくる。確かに、圧倒的な戦力差がある攻城戦においては、策など必要ないとも言う。命を顧みなければ、一点に集中攻撃をかけることは合理的とも言えよう。また、テュポーンはどんなに迎撃されようと、戦意は落とさず、疲れも知らない。最終的にジリ貧になるのは、特異者たちのほうだ。
 状況は、変わらず良くはない。ビルの前に到達こそしたものの、辛いのはここから。
「……やはり、ビルの前が危険ですね。自分も防衛に注力します」
 そんな戦況をビルの屋上から見ていた小山田 小太郎が動く。
「優さんと蓮花さんは所定の位置に。タクミ君とランファさんは、このまま子供たちをお願いします」
 小太郎はパートナーの八代 優八葉 蓮花に指示を出し、タクミとランファには引き続き子供たちを任せると、屋上からビル前に飛び降りた。
「うるさくしたなら謝りますが……しっかり言っておきますので、どうかお帰りを」
 小太郎は『荼枳尼槍“辰狐槍”』から発した風の力で地上に軟着陸すると、即座にテュポーンの迎撃を始める。開始から周囲360度を囲まれた状態という不利をものともせず、槍捌きと風の力を巧みに操りテュポーンを次々に撃破していく。
 ゲームで遊びたい。ブランクに住まう者たちは、そんな子どもらしい欲求すらこれまで許されていなかったのだ。ここで娯楽を奪われてしまうようなことがあれば、子供たちは今度こそ絶望してしまうかもしれない。人生には、もはや自分たちが楽しめることなど一切ないのだと、変に達観してしまうことも考えられる。
 生きながらにして未来を閉ざされるなど、あってはならない。子供たちのために、小太郎は奮闘する。
「……小太郎、それ以上前には出ないで。左から新手……」
 ビルの屋上では優が戦況を読み続け、得た情報は逐一『チャネリング』で小太郎と蓮花に伝達することで効率よく対処に当たらせている。優は言わば、司令塔的な役割だ。
 また、小太郎や蓮花、他の仲間たちでも対処できない敵に対しては『歯車の弓』による『ロングレンジアロー』で優が直接迎撃し、万に一つもレモラのような地形を無視して移動できるテュポーンの接近は許さない。
「……ランファさん、何かあったらチャネリングで教えてください……」
「えぇ、わかったわ……こっちも気は抜かないわよ」
 同時に、空中からの奇襲に備え、ランファとも素早い情報のやり取りをできるようにしておく。今のところテュポーンはビルへの攻撃に集中しているようだが、いつ屋上に直接攻め入ってくるかわからない。その瞬間のために、優に抜かりはない。
「悪いけど、通すわけにはいかないの。子供たちの遊戯を邪魔する輩には、お帰り願うわ」
 その空中には蓮花が構えている。蓮花は『ステルスダスターコート』を用いて気配を消しつつ『スカイブラスター“六翼・迦楼羅”』で空中を飛び回りながらテュポーンの迎撃に当たっていた。優からの情報を受けた上で『蒼炎の生存本能』による冷静な判断力を活かし、最も効果的な位置に『ファフロツキーズ』を降らせたり、『インパルスバンド“天狗の頭襟”』による衝撃波を急所に命中させたりして確実に敵の数を減らしていく。
「……小太郎の近くにテュポーンが集中してる……蓮花」
「了解よ、すぐに行くわ」
 大立ち回りを見せる小太郎は、動くたびに敵を引き付けているため息をつく暇もない。それは流石に危険だと判断した優は蓮花に援護の指示を出す。
 指示を受けた蓮花は『ファミリア【レベル3】“心眼のパドマ”』を用いて小太郎の背後から迫るテュポーンの弱点を見抜くと、そこ目掛けて衝撃波を放って撃破する。
「後ろは私に任せなさい」
「助かります、蓮花さん。ですが、先は長そうです。集中して参りましょう」
 小太郎の言う通り、先は長いだろう。終わりが全く見えてこない。まさにブランクという世界を象徴する戦いと言えよう。
 そんな中、テュポーンの群れが大きな動きを見せる。これまで攻める足を止めていたギガンティックの内、一体が多数のテュポーンを伴って前進を始めたのだ。それも、かなりの速度で。
「……ギガンティック、来た……真っ直ぐ、ビルを目指してる……」
 優が指示するまでもなく、ビル前で戦う特異者たちはその動きに気付いている。テュポーンの群れならば水際での防衛で事足りるのだが、ギガンティックだけはそうもいかない。崩れかけのビルなど、ただの一撃で倒壊させられる程度の破壊力を持っているのだ。
 ビルに接近する前に、倒してしまわなければならない。そう考え、真っ先に動いたのは空中で気配を消していた夏輝だった。
「今だ……!」
 夏輝は機と見るや否や、『フォールシュタイン』を実行。ギガンティックの足元の瓦礫を操り、バランスを崩させた。そして間髪を入れず、操った瓦礫を降らせ、追撃に『ファフロツキーズ』を見舞う。
 不意を打った連続攻撃だが、やはり瓦礫や岩をぶち当てるだけでは頑丈なギガンティックの撃破には至らない。
「行きますよ……」
 瓦礫が乱舞するエリアに、小太郎が構わず踏み込む。夏輝は仲間を巻き込んではまずいと思い攻撃を取りやめようとしたが、小太郎が上手く瓦礫を躱しながらギガンティックに仕掛ける様子を見て、取りやめる必要はないと判断。一連の攻撃に小太郎を組み込むつもりでより一層激しく瓦礫を乱舞させる。
 小太郎は『蒼炎の生存本能』に加え、『無我の境地』を用いてギガンティックだけでなく夏輝の意図までもを読み取ることで、降りしきる瓦礫の中でも戦うことができていた。その姿はまるで風に舞う木の葉だ。
 その調子でひらひらと近づいてくる小太郎を見て、ギガンティックは気味が悪くなったのか夏輝を無視して小太郎を迎撃しようとする。が、その不用意な初撃を小太郎は見逃さず、『蒼炎の生存本能』と『紅炎の生存本能』を組み合わせた回避を実行。カウンター気味に放たれた無我の境地の一撃は、深々とギガンティックの腹部を抉った。
 ギガンティックは大きく身体をくの字に曲げ、苦しむ。これだけの重撃を加えても撃破には至っておらず、踏ん張っている。
「まだまだです……!」
 呼吸を整えさせるわけにはいかない。ここは畳みかけるべき場面だと判断した秋良が、夏輝と小太郎に合わせて『七色の靭翼』で飛び上がり、ギガンティックまでの距離を一気に詰めた。そして、自身のレンジに標的を収めるや否や、拳による『極彩の瞬き』を実行。華々しくも激烈な連続攻撃を受けたギガンティックは大きくバランスを崩す。
 確かな手応えを実感した秋良だが、同時にまだ撃破には至っていないことを察し、更に追撃をかけようとする。
 しかし、ギガンティックもただやられているわけではなかった。バランスを崩しつつも、その尾で秋良に反撃していたのだ。
「っ!?」
「させんっ……!」
 そこへ、この間にトドメの準備していた夏輝が『レイジングレイ“メビウスリング”』のファミリアアビリティを発動させ、光の柱でギガンティックの尻尾を迎撃する。強烈な光線を浴びたギガンティックの尾は消滅し、秋良は何とか距離を取ることに成功した。
「今しかないな……!」
 夏輝は尚も攻撃の手を緩めない。複数のメビウスリングを操作し、同時に複数の光線をギガンティックに向けて放った。バランスを大きく崩していたギガンティックは多方向から放たれたメビウスリングの光線をどうにか防ごうとしていたが、その防御さえも貫通する圧倒的な火力を前に、身体を削られるかのように消滅していった。
「よし、まずは一体だ!」
 テュポーンは未だ無数にいるが、ギガンティックは数えられるほどしかいない。その内の一体を倒したのだ、これは大きな戦果と言えよう。特異者たちはますます戦意を上げ、ビルの防衛に尽力する。



1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7  Next Last