三千界のアバター

維国星導学園物語 4

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維国星導学園物語 4
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・講師ロイドの中身


「フレッチャー教授のお見舞いに行きたい?」
 使用人学生の指導を担うフレッチャー教授は中間試験の最中、生徒たちを庇って“敵”の攻撃を受けた。
 ロウレス・ストレガはまさにその場にいた者の一人だ。
 一命を取り留めたとは聞いているが、やはり心配になる。
「今はとても人に会える状態じゃない。気持ちは分かるが、こればかりはどうにもできないよ」
 ヒルダが残念そうに首を横に振った。彼女とウェンディの二人で外出届を出し、入院先に向かったとのことだが、先輩たちも直接会うことは叶わなかったらしい。
「面会謝絶か。聞きたいことがあったんだが……」
「総代表の正体とか、かい?」
 ギアーズ・ギルドの総代表、シェリー・バイロンはこの学園にいる。しかし、公の場に現れるシェリーは影武者であり、本人の顔を知るのはギルドのごく一部。
「ロイド先生が総代表だと思っているのなら、その可能性はないよ。
 ただ、あの人はうちらや総代表に近い位置にいる。他の教授たちよりもね」
 ロイド教授の正体は、小柄な、少女と見紛う女性だった。
 さすがにミセス・スイートピーほど幼くはないが、身体を汽化してアーマーと繋いでいる。
 偽総代表の足が不自由なことが本物を模しているのだとしたら、アーマーは歩行補助のために用いているとも考えられる。
 車椅子の生徒――ラブレスも候補の一人だが、直接の関わりがないロウレスとしては、ロイド先生の方が疑わしかった。
 もしかしたら、フレッチャー教授は自分たちではなく、総代表を庇おうとしたのではないか、と。
 しかしその可能性を、ヒルダは否定した。
「うちらも総代表の正体は分からない。気になって、前に教授に訊ねたことがあるんだ。
 まぁ、教えちゃくれなかったけどね。
 ただ、シェリー・バイロンの正体はギルドの最高機密で、それが公になったら世界がひっくり返りかねない、と警告されたよ」
「ギアを、ウィザードを統括する組織の頂点にいるのが人間ではない、とかか」
「それが汽人なら、騒ぎにこそなれ、ギルドらしいで終わるだろうさ。
 だからきっと“逆”なんだろう。黒薔薇はシェリー・バイロンのことを“裏切り者”だと思っているのか、それとも“ギルドに縛られているなら解放する必要がある”と思っているのか。
 どっちにしても、オリヴィエと戦うんなら、かえってあたしらは知らない方がいい。
 知らない相手からは情報も掴めないからね」
 仮に敵が勘付いていたとしても、証拠はない。ただの物好きの噂話だと思われるのがオチだ。
「……感謝する、先輩」
 暗殺対象の正体を知らぬままに護衛しろ、というのも元々無茶な話だが、今は対オリヴィエに意識を集中した方が良さそうだ。
 ロウレスは軽く礼をして、使用人学生の仕事に戻った。

☆ ☆ ☆


「ロイド先生、授業の質問があるのじゃが……」
 冬休み前の講義を終えたロイド教授の元を、六道 凛音は訪ねた。
「お加減を崩したと聞いておりましたが、お身体の方はいかがですかの?」
「問題ナイ。生徒諸君ニハ迷惑ヲ掛ケタ」
 続けて、今度はロイド以外には聞こえないよう、耳打ちする。
「あの屋上での事をお聞かせ願いたいのですが。お人払いをよろしいですかの?」
「シバシ待テ」
 使用人学生として準備室への器材返却を行い、少し時間を空けた上で、凛音はロイドの研究室へ向かった。
 敵は学園内にいる。もし、少しでも不審な動きをしているように見られたら、勘付かれかねない。
 そうでなくても、ロイドはフレッチャー教授と違って復帰しているのだ。敵――オリヴィエ博士がマークしていても不思議ではない。
 そして他ならぬロイド自身、その自覚はあったのだろう。
 ロイドの研究室には、様々なギアやメンテナンス用の機械が並んでいた。
 彼女はアーマーのマスクを外し、半身を晒した。
「……恥ずかしいから、あまりまじまじと見つめないでくれ」
「しかし驚きましたの。まさか先生が女性じゃったとは……」
 ロイドが呼吸器を引っ張り出し、口に装着した。
 アーマーを着ていると窮屈なようだが、ないと日常生活もままならないようだ。
 何でもマナのバランスが崩れた“汚染体質”となり、身体を汽化することで命を繋ぎ止めたという。
 彼女曰く、身体の成長もその時に止まってしまったらしい。
「先日、先生はフレッチャー教授と一緒に屋上で倒れていたのを発見された、と伺いましての。
 妾は性格的に腹芸とか苦手でして……ストレートに聞かせて頂きますが。
 ――ロイド先生は総代表ではありませんのかの?」
「私がシェリー・バイロンか。なかなか面白い冗談だ。ハリエットさんに呆れられるぞ?」
「では、違う……と?」
「警備課は毎年この時期になると、夜間特別演習を行う。ハリエットさん……フレッチャー教授はギア・アーツが専門なこともあって、警備課の指導も担当している。
 ただ、あの人は容赦がない。だからここに赴任して以来、私は事故に備えて本校舎に待機するよう頼まれているんだ」
「なるほど、そういう理由でしたかの……」
「しかし教授から聞いてはいたが、“ブラック・ローズ”に襲われてしまうとはな……我ながら情けないよ」
 警備課は使用人学生の戦闘訓練や警備任務を隠すための、書類上だけの存在だ。
 だが、ロイドはそれを知らないようだった。
 少なくとも、こうして話している限りは。
「ロイド先生……黒薔薇との事が起きた場合、この学園の生徒たちを守るために、そのお力を妾達にお貸し貰えませんかの?
 直接対決は、妾達使用人学生が請け負いますじゃ。
 フレッチャー教授が動けぬ今、一人でも信頼出来る方の協力が必要なのですじゃ……」
 凛音は深く頭を下げた。
「伏してお願い致します!!」
「顔を上げてくれ。おかしなことを言う。確かに使用人学生はある程度護身用に、戦闘技術も教わっているだろう。
 だがそれは、自ら打って出るためのものではない。
 君たち使用人学生で教授の敵討ちでもしようというのか?」
「それは……」
 使用人学生の正体は、決して知られてはならない。しかし先ほど言ったように、凛音は腹芸が苦手だ。
 ウィザードとしての及第点には届かないが、今、多くの力を得るには誠意を見せるしかない。
「少し、意地悪だったかな。生徒に無理をさせては教師失格だ。万が一の時は任せてくれ。
 アーマーも強化してある。こういう時、レンフィールド校長やラブレス理事長は頼りになる」
 ロイドも使用人学生のことを深くは追及しない。あくまで一人の大人として、子供たちを守る、そう約束した。
「ありがとうございます!!
 ……ロイド先生。今、ラブレス理事長って言いましたかの?」
「ああ、うちの校長も影が薄いが、理事長はほとんど書面に名前があるだけだからな。
 オーガスタ・ラブレス。この学校を影から支えている方だ。私も、一度もお会いしたことはないがね」
 凛音は思いがけないところで、謎の生徒の正体を知ってしまった。

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