三千界のアバター

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【1-1】

 ――エリア15。
 屋外特設会場では新バトルフィールドがオープンする記念すべき日を祝して、一大イベントが行われようとしていた。
 軍事基地では観艦式の準備が着々と進められ、多くの人々で賑わう。

「えーと、垂れ幕OK、テープカット用のリボンOK。ハサミ……あれ、どこいった?」

 観艦式の準備を手伝っていた紫月 幸人は、進行用のチェックリストを1つ1つ確認していた。
 備品用の箱の底に埋もれていたハサミを発見し、すべてチェックを終えた幸人はようやく一息をつく。

「後はコイツを飛ばせば、任務完了っと!」

 撮影用に飛ばした【1/15『雲雀』SOカスタム 】は、陽の光に晒されて煌めいていた。
 そして、少し気だるそうな様子で伸びをするアドルフ・ワーグナーに近づくと、
 
「アドルフ大将、お疲れ様です。栄養ドリンク、飲みます?」

 幸人は【WH製栄養ドリンク】を差し出した。

「おー、気が利くな。サンキュ」

「この後の段取りについて少し確認があるのでお時間頂けますか? こちらです、ご確認下さい」

 進行予定表と編隊飛行の飛行プランをアドルフに渡す。
 その一番後ろには、聞きたい事を書いたメモを忍ばせていた。

「あぁ? 男からのラブレターならお断りだ」

「違いますから!!」

 メモの内容は、「キョウ・サワギがこの世界に来る事が出来ない理由と、その制約の解除方法に心当たりはないか」といったものだった。

「心当たり……ねぇ」

 アドルフは頭をかきながら、まじまじとメモを見つめる。

「彼女がどう思ってるかは分かりません。ですが、ゼストは彼女の生まれた世界です。僕にできることがあれば、何とかしたい。生まれたところに帰ってこれないなんて、そんなのは駄目だと思うから……!」

「……そう熱くなるなって」

 幸人の肩を叩いてからメモを折りたたみ、ポケットの中にしまい込む。

「今のところ、アイツはここに帰るつもりはないだろうよ」

「……え?」

「確かに、キョウ・サワギとして生まれた、という意味ならこの世界だ。
 だが、アイツの正体……つーか“前世”はお前も知ってるだろう。まぁ男なら、ホレた女が決めたことは最後まで見届けてやれ」

「ホ、ホレ……? いや、まぁ……」

 大将とは思えないほど気さくな笑顔を見せたアドルフに、幸人はそれ以上、何も言えなかった。
 ……待つことも、大事な役目の一つだろう。
 そして観艦式のスタートまで、あと5分。
 ルナ・セルディアがアドルフに歩み寄り、テープカット用のハサミを渡した。

「そうそう、アドルフさん……市長とは、おめでとう?」

「ん? どうした突然。今更、労いの言葉なんて気ィ遣わなくていいぞ」

「おめでとうなんて、言う機会も中々ないから……一応、言っておくわ……」

「なるほど」

 穏やかな海風が、ルナとアドルフのやわらかな髪を揺らせていた。
 遠くで船の汽笛が聞こえたのと同時に、ルナがアドルフの方へと向き直る。

「……アドルフさん、私は、神の領域を目指すのは……やめようと思う……。別に、怖くなったわけじゃないんだ……神に縛られている事が……辛く苦しい事だって……教えてくれた人がいるから……」

 そこまで言って、ルナは俯いた。
 自分なりの決意を告げたつもりだが、アドルフにその思いは届いたのだろうか。

「……そうか。それがおまえの決めたことなら、おまえのやりたいようにやれ。俺にできることがあるなら、何だって協力してやる」

「……ありがとう……」

「今日はおめでとうやらありがとうやら、感謝の言葉のオンパレードだな」

「もう……茶化さないで……」

「はいはい」

「あともう1つは私個人のお願い……神を超える方法…っていうのが最初の提示だったけど……神のアバターを使う人を……助けたい……神としてでなく、人として……世界に向き合って欲しいから……その為に、何かあったら教えて欲しい……」

 束の間の時間ではあったが、今なら、ルナはアドルフに何でも言える気がした。
 やっとたどり着いた自分の中での境地。
 ここまで、ルナが一体どれほどの思いを馳せてきたことか計り知れない。

「それを知ってりゃ、俺たちだってエステルを救えるんだが……神のアバターには、確実に“穴”がある。それをどうにか付けりゃ、“人に戻せる”と思う。……癪なことに、恭耶のヤツの方がその手のには詳しそうなんだがな」

「……それが分かっただけでも……今日、ここであなたと話した甲斐があったというもの……」

 観艦式の開始を告げるファンファーレが高らかに鳴り響く。

「じゃ、また後でな」

 空母へのタラップを上がってゆくアドルフの背中に、ルナは再び「ありがとう」と小さな声をかけたのだった。

 観艦式の進行を指揮しているのは焔生 たまだった。
 各方面に観艦式の開催を通達し、アドルフ・ワーグナーをここまで引っ張りだしたのはたまの功績だ。
 【グラシアール】に乗艦した叉沙羅儀 ユウが、ゆっくりと会場に艦船を移動させて来た。

「……あの戦いで死んでいった人の分も、前を見て歩かないと……それが、私達に出来る事なんですから」

 空母の先端に立つたまとアドルフに、ユウは敬礼して姿勢を正す。
 粛々とした雰囲気ではあったが、それは決して重苦しいものではなかった。
 若干、言葉をかんでしまったものの、アドルフによる開会の挨拶と先の戦いで命を落とした犠牲者への黙祷は和やかに終了した。
 観艦式に参加した特異者たちは、それぞれの思いを胸にゼストの空を仰ぐ。

「お疲れ様です、アドルフ大将」

「ったく、開会の挨拶なんて、ガラにもないことさせやがって」

「なかなか決まってましたよ?」

「あんなこっぱずかしいこと、もう二度とやらないからな」

「あはは……そういえば、今後のゼストについてなのですが……兵士たちのアフターケアは万全なのでしょうか? スポーツに転化したりと、すでに手は打っているようですけれども」

「さんざん戦場で血を見てきたヤツらだからな~。体力も持て余してるだろうし。はい終了って一言だけで、そう簡単に平穏な生活が送れるようになるわけもないだろう」

「そうですね。軍という管理社会から突然自由にされても、なかなか野生の社会へと順応できるものではないですからねぇ。元軍人が治安を脅かすなど、あってはならないことです」

 たまはアドルフを真っ直ぐに見据え、彼女なりの正論を言った。
 アドルフはフッと笑みを浮かべると、軍服の襟を緩めて空母を見つめている人々の方へと視線を向ける。

「……今の連合軍の雰囲気を感じ取ることも、観艦式を開いた目論見のひとつですね。少将などといっても戦争バカの私にできることは多くありません。平時であれ、緩み過ぎないよう、せいぜい気持ちだけでも引き締め直せるようにしなくては、です」

「……おまえのそういうところ、嫌いじゃないよ。この後の演武、せいぜい楽しませてくれ」

 歴戦の猛者とは思えないほどの穏やかな表情で、アドルフは空母を降りて行った。
 開会式の幕開けは、これからが本番だ。
 ユウが大砲を使って、次々と祝砲を上げていった。
 それは今は亡き戦士たちへの弔いと、そしてゼストに訪れた平和を慈しむ思いをこめて。
 ボン、ボン。
 タイミングを合わせて、どんどん祝砲が上げられていく。

「たまさん! きっちり上げさせて貰いますよ! 今後、この船の出番がない事と、戦いの終結を祝いまして……!」

 胸の底にまで響き渡るほどの爆音だったが、なぜか心地よい。
 いくつも打ち上げらる祝砲を見上げて、ユウは頬を緩ませる。

「ゼストの平和が、どうかこのままずっと続きますように……」

 やっと訪れた平和は、いつまで続くか分からない。
 アクティベート技術の民間転用による悪用も、今後は出てくる可能性は大いに考えられる。

「なーんて、今は悪い事を考えてる場合じゃないんでした、あの戦いを勝ち抜いた人達です。たとえ何があったとしても、きっと、乗り越えれるでしょう……」

 自分たち特異者にできること、それは常に状況に応じたベストを尽くすことだ。
 祝砲を打ち上げた時の白煙が、少しだけ目にしみた。

「ユウさん、お見事でした!」

 すれ違いざま、ジャガーノートに乗り込もうとしたたまがユウに声をかけた。

「ふふ、さあ他の皆さんの演目も楽しみです。この観艦式にふさわしい派手なのを期待してますよ、たまさん?」

 やがて艦船パレードが始まり、ユウは艦船が会場からよく見えるよう、位置取りに気を付けながら操縦した。
 役目を終えた艦船は、やがて新たな任務を全うするために機動するだろう。
 次に駆り出される時があるとすれば、それは決して戦いのためではないことをユウは切に願わずにはいられなかった。
 続いて、たまが艦上で盾とショットガンを用いた銃闘術を披露すると会場は大歓声に包まれる。
 銃声は爆竹のごとく軽快に弾け、たまは格闘系IF開発者として機体の魅力を存分にアピールしたのだった。

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