三千界のアバター

ラディア連合王国軍兵器開発意見会

リアクション公開中!

ラディア連合王国軍兵器開発意見会
リアクション
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7  Next Last

■プロローグ■


 ――シャイニング・キャニオン、ヴァルナ城塞、???

 陸奥 純平からの連絡を受け、5人の特異者が通されたのは、重厚感のあるアンティーク調の調度品が置かれたシックな部屋だった。
 室内には、芳醇な紅茶の香りがほのかに漂っており、部屋の中央に設えられた円卓に座る数多彩 茉由良の鼻孔をくすぐっている。

「美味しそうな香りですね~」

 一方で、戒・クレイルフォーゼル・グラスランドは、部屋の主に待たされている間、部屋の中を見て回っていた。

「いい風が入ってきますね。渓谷ですから風の通り道だと思いますが、岸壁をくりぬいて造ったとしたら、相当計算されていると思いますよ」
「この家具、一見地味そうだけど、高そうだな」
「ああ、それ、地球だと国宝級だぞ」

 戒は大きく取られた窓から入ってくる風を目を細めて感じながら、独りごちる。
 その横でフォーゼルが家具を何気なく見ていると、ライオネル・バンダービルトがしれっと答えた。
 性格からかもしれないが、値踏みしていたようだ。
 その言葉にフォーゼルは慌てて手を引っ込めてしまう。一見地味だが、落ち着いた佇まいの調度品は、決して自己主張することなく、部屋のそこかしこに置かれている。これがすべて国宝級だとしたら……。

「この場所、隙がねぇな。おそらく外からは見えないように造られているんだろう。案内無しに帰れ、と言われても、出口に行ける自信がねぇ。かといってここから飛び降りても命はねぇしな」

 柊 恭也はつまらなそうに言った。窓からは雄大な渓谷の風景が広がっているが、これだけ見通しが良いにもかかわらず、おそらく外からこの場所を発見するのは困難だろう。
 加えて、恭也たちはここまで案内人に連れてこられたが、上下移動が多く、現在位置が把握できないでいた。

「それは誉め言葉として受け取っていいかしら? お待たせしたわね」

 そこへこの部屋の主である、“哀涙の聖母”ナティスが銀のトレーを持ってやってきた。
 その上には人数分のティーカップと茶請けのクッキーが置かれている。
 彼女はそれを円卓に置いていき、戒たちに座るよう促した。

「美味しいですね~」
「お口に合ったようで何よりだわ」

 早速、茉由良が紅茶を飲んで感想を述べる。苦みの少ない、まろやかな舌触りは、誰でも飲めるように茶葉をブレンドしているようだ。

(隙がねぇのはこいつも一緒だがな)

 恭也はナティスの一挙手一投足を見ながら、心の中で舌打ちした。
 ナティスの行動一つ一つが洗礼されたもので、訓練されたものなのか、地なのかがまず分からない。
 人間、行動のちょっとしたところに、「個性」や「地」が出るものなのだが、それが無いのだ。

(表情から考えが読めないってのも恐ろしいな。宰相の片腕らしいが、それなりに歳食ってるはずだろ。見た目は二十代だが、三十か、下手をすれば……)
「何か?」
「……いや、クッキー、悪くないと思ってな」
「それはよかったわ。手作りだから、トクイシャの皆さんのお口に合うか心配したの」

 ライオネルもナティスの人となりを見ているが、彼の場数をもってしても推し量るのは難しかった。
 相当折衝などの修羅場を潜り抜けているのかもしれない。
 うっかり年齢に踏み込もうとして、笑っていない笑みを向けられ、彼はクッキーを食べることにした。

「ナティスさんの手作りでしたか」
「今は忙しいから、こうしてお客様をもてなす時くらいしか作らないわね。美味しい食事は兵站の基本だもの」

 言われて戒は、『イルメナウ城塞防衛戦』に参加した際、ラディア連合王国軍兵が普通に食事を採っていたことを思い出した。

「勘違いして欲しく無いのだけれど、私たち連合王国軍も普段から贅沢をしているわけではないわ。この部屋は迎賓用のものだし、下士官も上官も食べているものは変わらないから」
「先程の言葉はそういう意味か……」
「そう。リリアスティアから話は聞いたけど、私はあなたたちトクイシャをもっと早く重用すればよかったと後悔しているわ。これはその表れだと思ってもらえると嬉しいわ」

 フォーゼルの言葉に、ナティスは微苦笑しながら言った。
 彼女が初めて見せる、人間らしい表情だったかもしれない。

「それでは、そろそろ皆さんの忌憚ない意見を聞かせてもらえるかしら?」

 ナティスは再び感情の読めない笑顔に戻ると、円卓に座る茉由良たちにそう告げたのだった。

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7  Next Last