三千界のアバター

維国星導学園物語 2

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維国星導学園物語 2
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・シェリー・バイロンが来る理由


 今回の任務は教えられた。しかし、使用人学生たちがシェリー・バイロンについて知っていることは少ない。
 知りたければ自分で調べろ、ということなのかもしれないが、何とも不親切なものである。
 もっとも、フレッチャー教授の無茶振りは今に始まったことではないが。
「教授ー、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
 セレス・ラスフォルトはある疑問を抱き、教官のフレッチャー教授に聞いてみることにした。
「どうした、ミス・ラスフォルト?」
 寮監室に通されたセレスは椅子に腰かけ、教授と向かい合った。
「ハロウィンパーティには偽総代が来るんだよね? なら、別に本物が来る必要ないんじゃないの?」
「その疑問はもっともだ。身代わりがいるなら、わざわざ本人が危険に身を晒す必要はない」
 教授がカップの紅茶を啜り、ふぅ、とため息を吐いた。
「……総代表は普段この学園にいる。
 パーティに参加するのも、『学園関係者として、その場にいない方が不自然』という理由からだ」
「たまに学園に顔を出しているんじゃなくて、学園にいるのが普通ってこと?
 そうなると、いつも総本部でシェリー・バイロンとして振る舞っているのは……」
「それも偽者だ。就任以来、ずっと本物の代わりを務めている。
 本物が自分がそうだと名乗り出たところで、信じる者の方が少ないはずだ」
 しかし、敵は総代表の正体を掴んでいる可能性がある。他ならぬフレッチャー教授が示唆したことだ。
「それにも関わらず敵が――薔薇の連中が正体に勘付いているとしたら、奴らは相当深くこの学園に根を張っていることになる。
 思いがけないところから情報を掴んだとも考えられなくはないが……まぁ、それはそれでシェリー本人が囮になるから問題ない」
「えっ? それ、大丈夫なの?」
「私とスーさん……ミセス・スイートピーがいる。それに、シェリー自身も万が一の事態には常に備えている。
 彼女の存在も敵を誘き出す罠の一つ、という認識でいい」
 カップを置いた教授が遠い目をした。
「今年の使用人学生たちの仕事ぶりが見たい、などとあの人は言っていたが、少しは自分の立場を考えて頂きたいものだ。ただでさえ、“A級ウィザード候補の養成”は秘匿事項だというのに……仕事が増える」
 そしてそのしわ寄せがまさにセレスたちに来ている。
 しかし、余計なことを言って、さらなる無茶振りをされてはたまらない。
 セレスは苦笑いをもって応じるだけにとどめた。
「あ、そういえば薔薇の連中って……教授、何か心当たりがあるの?」
「ブラック・ローズ。その名の通り、黒い薔薇をシンボルとする秘密結社だ。
 その昔帝国に存在したという『薔薇十字団』の流れを汲んでいる、と言われている。
 薔薇十字団は『失われた叡智を結集し、人類を次なる段階へ導く』ことを目的に活動していたらしいが、その後継組織や団員を称する者はいても、組織の拠点は確認されていない。
 伝説を信じた者たちが薔薇の名を冠して勝手に活動している、というのが実態だ」
 ブラック・ローズの教義は不明だが、源流からすれば、ギルドが実質的に支配する今の世の中に不満を抱いていても不思議ではない。
「いずれにせよ、敵の目的を含め不明なことは多い。くれぐれも油断はするなよ」
「もちろんっ。ありがとう、教授!」
 椅子から立ち上がり、セレスは頭を下げた。
 知りたいことは分かった。本物シェリーについてはおおむね心配ないことも。
 当日は何が起こっても使用人としての仕事に集中し、下手なことはせずちゃんと会場を確認できるようにしよう。
 寮監室を出たセレスは気持ちを切り替え、いつもの生徒の顔に戻った。
「さて、派閥はどうしよっかな」
 織羽}と凛音が金枝の会に誘われたことは聞き及んでいる。
 ただ、セレスはどうにも肌に合わなそうだと感じていた。
「ちょっとハードル高そうだけど、彼に近づいてみよっか」

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