三千界のアバター

≪メトロポリス≫維国星導学園物語 1

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≪メトロポリス≫維国星導学園物語 1
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・学園生活の始まり


 『地獄のガイダンス期間』が終わり、シャーロット・アドラーの推薦で入学した特異者たちの“本当の”使用人学生としての日々が幕を開けようとしていた。
 学業と仕事の両立。表向きの仕事は学園の雑務だが、実際にはそれだけではない。

 ――A級ウィザード候補生。
 
 それが使用人学生の本当の姿であった。
 A級はB級までと違い、国家間の交渉事に携わる、植民地や自治領に派遣され軍事顧問を務める、といった国レベルの仕事を行う。
 異間戦争を経てライセンス制度が正式に施行されて十年が経った現在でも、A級到達者はほんの一握りである。
 一般にエリートとされるB級には、依頼の数をこなし、目立った功績を一度でも上げればなることができる。
 しかしそこから先が茨の道だ。事務所の開業と経営、依頼の調達、抱えるウィザードの教育を満遍なくこなせるほどの手腕があり、かつ個人だけでなく集団を統率して大きな成果を得る。
 それができなればA級になるのは夢のまた夢だ。
 現在は「A級の制約」もそれなりに知られており、現場で依頼をこなし続けたいウィザードはとりあえずB級になって、自分の安息の地を確保してしまえばそれでいい、という者が多い。
「A級ウィザードというのは大袈裟な言い方になるが、一国を傾かせる力を持つ。そんな者がそう簡単に増えては困る。
 とはいえ、目指そうとする者がいないのも問題だ。
 だからギアーズ・ギルドは秘密裏に、A級に相応しい人材の育成に取り組むことにした」
「それがわたしたち、ということですか?」
 すっかりヴィクトリアンスタイルな給仕服が馴染んだノエルフレッチャー教授を見上げた。
 連合王国の女性としては長身ながらも、緩く巻いた髪に裾の下だけが広がったタイトスカートと、女性らしい格好をしている。
 一見身体を動かすには不向きなようだが、彼女はこの姿でギア・アーツの授業で調子に乗った男子生徒をまとめて“お仕置き”し、彼らを震え上がらせた。
「そうだ。改めてになるが、このことは他の生徒たちは知らない。教職員の中にも知らぬ者は多い」
「……しかし、使用人学生の実態を知る前に辞めた生徒ばかりとも限らんだろう。情報が漏れとらんというのも不思議でな」
 ロウレス・ストレガは教授に訊ねた。
 “任務”の最中よりも、聞けることは使用人学生がこの秘密の一室に集まっている時がよい。
「確かに、ただ隠すだけではどこかで足がつく。ならば逆に、噂を流してやればいい。
 『メトロポリスのどこかには秘密の区画があり、そこでギルド総本部は専属のエージェント養成している』と。
 それに合わせて、ダミーも複数用意した。
 当然証人も現れるが、それらには食い違いが生じることとなる。
 噂そのものは真実だ。だがその一の真実も、百の嘘偽りで塗り固めればただの妄言となる。
 たとえ真実をありのままに告げる者がいたとしてもだ」
 彼女は無表情を崩さぬまま続けた。“養成所”自体は他国にも存在するため、それが秘密裏に設立されたこと自体は何もおかしなことではない。
 それがこのメトロポリス星導学校と結びつかないよう、メトロポリスが完成した時から根回しは行われているとのことだった。
「なるほど。そもそも信憑性を持たせないようにしてきた、というわけか」
「だが、物好きというのはいるものだ。今のところ、お前たちではなく“ラウンズ”がそうだと考えているようだがな」
 入学試験の上位十三名の特待生。通称“ラウンズ”。真実を知らぬ者は、彼らこそが将来のA級ウィザード候補生だろうと睨んでいた。それもまた、フレッチャー教授らの策略である。
「でも実際、エリート君たちは卒業したら引く手あまたなんだし、間違いでもないよね?」
 セレス・ラスフォルトの言葉に、教授は頷いた。
「……確かに普通に考えて、“使用人”がそうだとは思わんよな」
 そう言って、ロウレスは自分と戒・クレイルの衣装へと目を遣った。
 男性使用人である二人は、膝丈の半ズボン、黒のストッキング、ブーツ、テーラードジャケットという組み合わせである。
 長身ですらっとした体型に合うフットマンらしいものであり、ロウレスには似合っていた。
 学園の使用人としても馴染んでいたが、フレッチャー教授と同世代なこともあり、しばらくは同級生にも教職員にも生徒だとは認識されていなかった。
 入学してからの日々を思い出した後、こほんと咳払いし、ロウレスは教授への質問を続けた。
「そもそもの話になるが、『総代表の暗殺』が秘密結社の目的だとどうして分かった?」
「先日、ミス・ブランが襲われたことは知っているだろう。その時の襲撃犯から聞き出した。
 組織の名前や誰が構成員かは最後まで口を割らなかった……いや、本当に末端として利用されただけらしく、大した情報は持ってなかったがね」
 ノエルと目が合った。
 彼女が襲われたことは既に使用人学生たちの間にも知れ渡っている。
「あの時の連中か……」
「いずれも“留学生”だった。当然ながら、然るべき対応をした上で退学処分とした」
 詳細は語らないが、ギルドを介して本国に送り返したとのことだった。
「出身はラインとパダーニャ。二人とも、学費の援助を受ける代わりに協力したと供述した」
 二人は最近まで、互いが“仲間同士”だと知らなかったという。
「……今の時点で分かっていることは少ないけれど……いくつかの事は導けるわね……」
 ルナ・セルディアが教授の情報を元に、三つの事柄を導いた。
 
 1.秘密結社の末端は、味方が誰かを完全には把握していない。
 2.秘密結社は中産階級以上の身分の者を支援できるだけの資金力を持つ。
 3.学園の関係者に、“連絡役”がいる。結社と直接の繋がりを持っているのはその人物。


「スパイか、その協力者が内部にいるなら……生徒に違和感なく接触でき、秘密裏に指令を渡せる人だよね。
 それこそ、授業を担当している教授とかも」
 ミズ ポーの疑念に、フレッチャー教授は「当然その可能性はある」と応じた。
「自国の者。それもかなりの権力者が何らかの理由でギアーズ・ギルドのトップを排除したいと考えている。
 そのために情報を流すべく動いている、ということも十分あり得るわけか」
 と、ロウレス。
「あくまで民間組織でしかないギルドにでかい顔をされるのを嫌がっている者が国内にもいるのは事実だ。
 言った通り、まだ我々には情報が少ない。
 “総てを疑え”。
 その上で、利用できそうなものは上手く活用しろ」
 そこには当然、教授自身も含まれる。しかし彼女が敵なら、最初からこの任務は成り立たない。
 それでも、教授が知らず知らずのうちに利用されていることは懸念される。
「以上だ。今日はもう休め。
 任務以外の学生生活はこれまでと変わらないということを忘れるな」
 そう、敵を知るためにも、使用人学生は“これまで通り”を演じ続ける必要があるのだ。

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