【マリィを探せ 1】
「……何とか撤退に持ち込まないと」
上空を飛び交う敵のエアロシップの動きに警戒しつつ、マリィはじっと身を潜める。現在も逃走を続けているであろう、他のマリィ隊の身を案じながら。
何とか気づかれずにエアロシップをやり過ごした、そう思った所にその次に来たエアロシップに気がつかれてしまう。
「くっ……!」
再び生身で命がけの逃走が始まる、そう思った所にイカした仮面をつけたデストロイヤー級エアロシップが列を成して敵のエアロシップへと突っ込んでいったのだ。
「いくぞっ!」
それは
弥久 ウォークスたちであった。
列の先頭にいるのが
弥久 佳宵、そのまま順に
日長 終日、
雨月 碧玉斎、
太郎・マーグヌムと続き、最後尾をウォークスが務めているようだ。
「儂の名指揮を皆に見せ付けるのが目的じゃ!」
「…………」
佳宵の無言のツッコミと共に、碧玉斎をスルーして皆が決意を語り出す。
「民間人を襲う様な軍隊は許しては置けません!」
「エアロシップが無ければ避難民やマリィ隊の輸送は出来ないしな」
「うん! ささっと、全力攻撃して素早く倒そう!」
「じょ、冗談じゃ! ちゃんと本当の目的は敵艦の撃破じゃぞい、本当じゃ!」
まだ会話をする余裕のあるウォークスたちだが、しっかりと視線は目の前のエアロシップに向いていた。
そう、ウォークスたちが真っ先にエアロシップを狙ったのは敵の輸送手段を断つためである。
「派手にやっちゃいましょう!!」
射程圏内に入った所で、まずは佳宵が追突の隙を作るため、牽制として【ストーンバレット】で攻撃を仕掛けていく。
それを敵も3隻動きを合わせたかのように盾の陣を保ったまま、回避。さらに1機が【簡易防壁】で防御係を努めながら、今度は両端の2隻が同時に【ストーンバレット】を仕掛け始めた。
縦一列になっている分、攻撃が佳宵に集中してしまう。
「くっ……でも、無防備に突っ込んでる訳じゃないですよ」
しかし、佳宵たちもまたそれを予想していなかった訳ではない。多少の負傷は覚悟の上、なんとか【簡易防壁】による防御し耐え忍ぶ。
さらに後方から終日が【支援砲火】で援護し、敵の攻撃を遮らせる。
「敵艦にアタックです!!」
その攻撃に合わせて佳宵がぶつかりに行く。その艦首下部には破城槌を取り付けているようだ。
けれども、それに気づいた敵艦もまた簡単にぶつからせてはくれない。突撃してくる佳宵たちの動きに合わせてエアロシップを上昇させるようにしてかわしていく。
続いて終日もまた同じく破城槌を取り付けた戦艦をぶつけに行くも、そのまま斜めに上昇されて、かわされてしまう。
もし静止している敵に対してであれば有効な一撃であったかもしれない。
むしろ、注意がそちらの1隻に向いているうちに、残りの2隻に挟み込まれてしまう。
佳宵、終日は何とか抜け切るも、縦一列に並んでいる分、碧玉斎、太郎、ウォークスはすれ違いざまに集中的に攻撃を浴びてしまう。
それをウォークスが【境界の結界】で防ごうとするも、ここでは効果は薄いようだ。
さらには先ほど攻撃をかわされたエアロシップまでもが背後を取ろうと旋回し始めている。
「くっ……全員で攻撃だ」
ウォークスは【アクティベート・ヘヴィアームズ】で召喚したDD:レーザーガトリング撃ちまくり、太郎と碧玉斎も【ストーンバレット】で対抗する。
なんとかこちらも抜け切るも、次に集中攻撃を受ければどうなるか分からない。
そのまま背後についた1隻が追撃を開始し、残りの2隻もまた盾の陣を立て直そうとしていた。
敵の追撃をかわしながら、すかさず碧玉斎が【火炎咆哮】を放つ。
しかし、それは敵に対してではない。佳宵への合図だ。
「転舵を頼むのじゃ!」
どうやら、進行してほしい方向の指示だったようで、【火炎咆哮】の放たれた位置目がけて、佳宵が弧をかくように旋回していく。
「もう一度アタックです!!」
そして、敵艦が体制を立て直すより先に、横から再びぶつかりにいったのだ。
「ちっ……!」
それを回避せざるを得なくなり、戦艦を傾けながら敵が背後から一旦離れる。
残りの2隻もそれに続くが、そこに終日が先ほどのウォークスたちの反撃により破損した部分目がけて【水計】で攻撃していく。
そこに3番手の碧玉斎が突撃。
「侵略軍って言うのが嫌いでの、派手にぶっ飛ばしてやるわい!」
他の2隻も無論、牽制攻撃を行ってくるが、それは太郎とウォークスが【支援砲火】で妨害する。
程無くして敵の1隻が墜落を余儀なくされた。
「敵の1隻が墜落する。気を付けてくれ」
それをウォークスがエアロシップの無線で近くに仲間がいないかを確認する。
「この辺りは大丈夫です」
【空間知覚】で戦場を把握しながら、冷静に応答したのは
綾瀬 智也だ。墜落の爆発に乗じて、遺跡付近に自身の搭乗しているサイフォス先行型ごと身を隠す。
智也は自身と同じサイフォス先行型を探していた。すると、マリィ隊のメタルキャヴァルリィであろう1機が逃げていくのを発見したのだ。
しかし、そのすぐ傍には敵のファントム隊が迫っていた。救出は他の仲間がしてくれるだろう。
それならば、時間を稼がねばならない。
「配置完了。これより作戦を開始します」
そのために策を講じ、智也が動き出す。
「十字砲火、撃て!!」
先ほどの墜落による爆発で起こった砂埃。それが止むと同時に智也の合図を確認し、攻撃を仕掛けたのはライトクルーザー級エアロシップに搭乗した
エレナ・フォックスだ。
上空から【僚機】マジックグライダーと連携し、【小隊陣形】十字砲火で敵を攻撃していく。
その攻撃に対し、上空への対抗手段がないのか、ファントムの小隊は防御しつつ逃げ回っている。
エレナは【戦況分析】をし、さらには【位置把握】で自身はもちろん、味方や敵部隊の正確な位置関係をしっかりと把握している状態だ。
攻撃を仕掛け敵を負傷させつつ、智也には近づけさせない絶妙な位置を保っている。
「敵戦力を排除します」
そして隠れたまま、エレナの攻撃に気をとられているファントムを優先に、銃形態のトライアルベイオネットに取り付けたホライゾンオプティカルサイトの望遠機能を用いて、【エイムショット】で狙撃していく。
狙う個所は関節などの装甲の薄い部分だ。
1機が膝をつき、盾の陣が大きく崩れ始める。
そこに畳みかけるようにエレナが集中的に十字砲火を行う。
引き続き智也が狙撃し、2機目を負傷させる。
しかしながら、その一撃で智也の居場所がもう1機にバレたようだ。
すかさずこちらへと距離を詰め、【ヤブサメ】で攻撃を仕掛けてくる。
一方の智也もトライアルベイオネットで牽制しながら、距離を詰めていく。
その隙に【僚機】ペガサスリッターが上空から周り込んで背後から攻撃。それに合わせて、距離を詰めきった智也がトライアルベイオネットを今度は剣形態にし、斬りつける。
こうして1機の撃退に成功する。
しかし、すかさず残りの1機が【ヘヴィスラッシュ】で斬りかかろうとするも、倒し終えたエレナが再び援護に入る。
そして、その隙を見逃さず、智也がトドメの一撃を見舞い、小隊を1つ撃破した。
再び智也は隠れられる箇所をみつけ、次の小隊を討つための機を待つ。
このエレナとの連携はかなり効果的で、救出の時間を稼ぐのに貢献した。
同じく地上で敵のファントム隊と戦い、時間を稼いでいたのが
草薙 大和と
草薙 コロナである。
「テルスでの初陣、メタルキャヴァルリィを使った初めての戦いだ。コロナ、気を引き締めていくぞ」
「はい! 夫婦ならではのコンビネーションを見せつけてやるです!」
2人はそれぞれサイフォス先行型に乗り込み、【僚機】グリフォンリッターを1機ずつ連れている。
まずは同時に目の前のファントムの小隊へと真正面から攻めに行く。
2人が振りかざしたビームソードとバーンソード。真正面の敵が大和のビームソードを同じく剣で受け止める。
そして、コロナのバーンソードはというと、真正面の敵に突き刺さるより前に、もう1機がすっと前に出て、受け止めたのだ。
しかし、これこそが大和たちの戦略の第一手であった。
2人は互いに頷きあい、ぶつかりあう剣に力を入れ、敵を押しやっていく。コロナは右側へ、大和は左側へと。
無論、残るもう1機が大和を挟みこむように背後に回ろうとするも、グリフォンリッターが割り込み、それを妨害する。
こうして、コロナ側に1機、大和側に2機へと分断させることに成功した。
分断されたことに気づいたのか、敵が再び合流しようと大和に一気に攻撃を仕掛けてくる。
敵が斬りかかって来るのをかわしながら、【ヤブサメ】で牽制し、時間を稼ぐ。
しかし、グリフォンリッター1人でファントムの相手はきつかったのか、グリフォンリッターが【ヘヴィスラッシュ】を喰らい、投げ飛ばされる。
その隙にもう1機が大和の元へと走り来て、2対1を余儀なくされる。
引き続き【ヤブサメ】で牽制しつつ、時折【ラディア式戦闘技】の体裁や足の運びで立ち回って回避に専念する。
けれども、間に挟まれた敵から同時に【ヘヴィスラッシュ】が襲い掛かる――……。
「くっ……!」
「大和さん!」
そこに敵を倒し終えたコロナがそのうちの1機に横から【ラピッドアタック】を見舞う。
それにより、1機の【ヘヴィスラッシュ】は逸れ、もう1機の攻撃は大和が何とか避けきってみせた。
逆に敵はコロナの一撃を避けきれず、よろける。
そこにコロナはグリフォンリッターと共に【小隊陣形】シュツルムアタックによる連続攻撃を行う。
先ほど右側へと誘導した敵も同じ展開で撃破したようだ。
しかし、大和に攻撃をかわされたもう1機が標的を変え、コロナの背後から斬りかかろうとする。
「君の相手は僕だ」
そこにすかさず大和が【ラピッドアタック】で素早い刺突を見舞う。さらにそのままビームソードで斬りかかる。
「コロナ!」
気がつくともう1機をいつの間にか倒し終えたコロナが再び背後に迫っており、大和の声にあわせて、斬撃をくらわす。
こうして連撃をくらう形で最後の1機も倒れ、こちらもまたファントムの小隊を1つ撃破した。
そしてウォークスたちはというと、残りの2隻と引き続き交戦していた。
先ほどの衝突の影響で碧玉斎は緊急脱出装置で既に離脱している。列は4隻になっていた。
同じように佳宵が体当たりを行おうとするも、やはりかわされ残りの1隻に集中的に攻撃を浴びてしまう。
「仕方ありません……! 離脱します」
それにより、佳宵もまた先ほどからの損傷も重なり、墜落へと持ち込まれてしまった。緊急脱出装置にて、脱出する。
先頭の佳宵がいなくなる。それは終日にも動揺を与えたが、【エビルハート】で平静を装い、佳宵の離脱に合わせて、その背後から急上昇し、不意を突いて体当たりを仕掛ける。
しかし、体当たりをするのは終日ではない。終日は囮だ。牽制に破損部目がけて【水計】で攻撃。そこに2番手となった太郎がぶつかりに行く。
とはいえ、太郎は緊急脱出装置を持ち合わせていない。無理は禁物だ。
敵艦を揺らす程度を目標にぶつかりに行く。
そして敵艦が揺れた所にウォークスが【支援砲火】を浴びせて敵艦を撃破。
これによりもう1隻も飛行が厳しくなり離脱を余儀なくされたようだ。
残りは1隻。しかしながら、3対1は無謀だと悟ったのか、2隻目の離脱と共に残りのエアロシップは撤退してしまった。
しかし、ウォークスたちももはやボロボロである。深追いは出来ない。
脱出した佳宵と碧玉斎を拾いにその場を後にした。