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エルベ砂漠の戦い

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エルベ砂漠の戦い
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【砂漠での攻防戦】


 エルベ砂漠。マリィ・ヤンを逃がすべく部下が“戦争屋フォルティス”を相手にしている。しかし、フォルティスの乗る“新型”によって足も手も出ない状況だった。
「ふむ……そろそろ終わりか――ん?」
 この状況を見て目の前にいるサイフォス先行型を撃墜し、マリィを追おうと考えている時だった。そこに敵影の姿を発見する。
 相手側の救援だろう。それを見たフォルティスは正面にいるすでに大破し、動かなくなるのも時間の問題である機体を横目にニヤリと笑う。
「面白くなってきたな」
 そう一言呟くと一緒に連れてきている僚機に指示を出す。
 救援にきたのは連絡を受けてやってきた特異者達。そして、それを助けるために天都 恵人がサイフォス先行型を操り突貫してくる。
「エース機を狙えば相手も退くはずだ……!」
 そうして全速力でフォルティスがいる所まで向かおうとした時、距離が離れているにも関わらず凄い速度でこちらへやってくる相手の新型。
(は、速い……)
 新型とはいえこれ程速いのは予想外だった。相手の機体はこの砂漠に合わせてあるのか、この足場でもホバー移動を使って一気に距離を詰めてくる。
 気付けばフォルティスは目の前。恵人は2本ある剣の内、ストームソードを投げつける。
「やぶれかぶれか、何かを企んでいるのか――」
 恵人の動きにフォルティスは楽しそうにここから先の事を予測をし始める。そして、投げつけられた剣を盾で弾く。
「でやぁっ!」
 剣を投げるのと同時にチャージにて力を溜めた恵人はもう1本の剣――バーンソードを抜き、盾で弾いている瞬間を狙って素早いの刺突を繰り出す。意表を突くこの攻撃に相手は避けられ――。
「ぐっ……!」
 機体に衝撃が走り、その瞬間にフォルティスには距離を取られてしまう。
 恵人の周辺には囲むようにしてフォルティスの僚機であるキャヴァルリィ部隊が一斉にこちらに向けて射撃をしてきていた。そして、フォルティスが一歩踏み込んでくると自身の剣を振り上げて恵人のサイフォス先行型の腕を切り落とした。
「良い突撃だったが……囮としてはまだ一歩及ばずと言った所か」
 フォルティスとのやり取りの間にフォルティス隊のキャヴァルリィが追い付き囲まれてしまっていたようだ。そこを狙われ恵人の機体は大破。動けなくさせられてしまう。
 止めを刺すのかと思いきやフォルティスは大破した機体に乗る恵人をそのまま放置、すぐに移動を始める。
「連携がしっかりして……何よりあの機体の速度が尋常じゃないですね。あれが新型……」
 先程の戦いを遠目で見ていたルキナ・クレマティス。見ていた事を言葉に出しつつ頭で整理をしていた。しかし、ルキナは少しずつ大きくなるその影に気付く。
「こちらに来ましたか。動きを可能な限り観察していたかった所ですが――」
 こうなっては戦わなければならないだろう。
 ルキナは自身の乗るエアロシップの『黒』を全速前進させて高速で移動するフォルティスへと突撃していく。
「”戦争屋”のフォルティス氏とお見受けします。私はルキナ・クレマティス、僭越ながら”黒き流星”を自称しています。いざ尋常に勝負!」
「エアロシップに乗って口上とはな。面白い!」
 フォルティスは一太刀浴びせるために剣を振り上げ、そのまま接近。ルキアはそれをどうにか回避をする為にエアロシップの舵を取る。
 最初の一撃は空振り。ルキアはどうにかフォルティスの一撃を回避する事に成功する。全速回避にてフォルティスの見え方をぶれさせる事で初撃を回避する事は出来たが、相手は戦争屋とも言われるエース。すぐにそのぶれは調整してくるに違いない。
 一撃でも与えられれば味方への援護になるのかもしれない。しかし、レーザーガトリングで連射し狙うがそれを横移動によって外されてしまう。そして、気付けばフォルティス隊のキャヴァルリィに囲まれている事に気付く。
(なるほど……隊長自らが突撃。そして、皆で取り囲んで撃破ですか……)
 そうなると先程の恵人を見ていての自身との共通点。それは2人とも僚機を連れていなかった事。フォルティスは僚機のいない者を最優先して倒し、確実に数を減らそうとしているのかもしれない。
 エアロシップに被害を受けながら冷静にルキアはそう考える。そして、やはりここでもフォルティス達はルキアの乗るエアロシップを轟沈させる事なく、相手が動けないと言う事を知るとすぐに移動をし始めた。
 そして、一番近くにいた相手。鳳仙 奏の乗るサイフォス先行型。
 奏は那須野 結月による指示でルキアの乗るエアロシップに向けて歩を進めていたのだ。
「相手は“戦争屋”のフォルティスです。見ていて分かったとは思いますが、やはり1機だけで戦況を覆すだけの機体と臨機応変にすぐ対応出来るだけの戦闘センスを持っている様です」
「油断をする気はないけれど……正直私達だけじゃ勝てる相手ではないですわね」
「はい、勝てないと思います」
 結月の言葉に逆にすがすがしささえ奏は思う。
「すでに周辺には他の特異者の方々が来ています。と言う事は――」
「このまま囮になるのが皆様のお役に立てる……という事ですわね」
 結月の指示に静かに頷くと近づいてくるフォルティスへと一気に歩を進める。そして、生身である結月は指示を出した後に、危険がないように下がっていく。
(右から……!)
 先の先を用いてフォルティスの動きを読み取ろうと考え、右からの攻撃に備える。しかし、その予備動作はその動きを誘う為だったらしくフォルティスは盾を持ったまま奏へと体当たりをする。そして、後ろに吹き飛ばすのと同時に一気に接近。そして、一太刀を浴びせる。そこからすぐにフォルティスは僚機へとバトンタッチするかのようにして目視にて発見したエアロシップに向けて旋回をした。
 囲まれた奏はそのまま大破まで追い込まれる事になる。
 ここまで僚機がいない者を狙って撃墜されてきていたが、その者達のお陰でフォルティス隊を大きく包囲するかのようにして近付く事が出来た。
 逆を言えば囮として考えていた者達にとってはここまで囲まれて撃墜をされていた相手を逆に包囲する事が出来たと言ってもいいだろう。
 フォルティス隊はフォルティスを含めて7機。その数を包囲するには十分な数の救援が来ていた。
 そして、フォルティスがすぐに攻撃をしようとしたのはそれもあった。目視でありながらすでに自分達は大きく囲まれているのだと気付き、自分が大きく先行する事で連携を強くするという指示を部下たちに与えていた。
「こっちにきた……!」
 フォルティスが向かうライトクルーザー級エアロシップにはアリーチェ・ビブリオテカリオが搭乗していた。
「俺がフォルティスに当たる。アリーチェはそのまま援護を頼む!」
 アリーチェを先行するようにしてサイフォス先行型を操縦する世良 潤也がそう指示を出す。そして、速度を上げて潤也はフォルティスへと対面する。
「悪いが、仲間はやらせないぜ!」
 潤也はロングレンジライフルを構えるとフォルティスの乗る新型へ向けて射撃を開始する。しかし、それを左右に交わしながらこちらへとフォルティスは向かってくる。
「流石新型ってところか……!」
「良い狙いだが、貴殿の相手は後回しにしよう」
 そう言ってフォルティスは速度を上げると潤也とすれ違うようにして一気に進み、アリーチェの乗るエアロシップに距離を詰めていた。
「狙い通りね」
 こちらにやってきたフォルティスを見てアリーチェはそう呟く。そして、潤也とアリーチェの間に入った瞬間に支援砲火をフォルティス向けて放ち始める。
「このタイミングでか……!」
 支援砲火をどうにか回避をしようとフォルティスは旋回。しかし、アリーチェの攻撃はフォルティスを倒すものではない。
「……反対側がお留守だぜ」
 ここまで神経を研ぎ澄まし、ライフルを構えてフォルティスを狙っていた潤也。この瞬間を待っていたのだ。
 空間認識でフォルティスの場所を正確に把握し、ロックオンで狙いをつける。そして、その狙いを定めた一撃をフォルティスの胴体狙って一射。
「……外れた!?」
「ふぅ、危なかった。ホバーで移動できる機体じゃなければ直撃だったな」
 フォルティスはホバーが出来る事を利用し、足では両足をついた状態でなければ出来ない大きく距離の取るバックステップを、片足のホバー機能を思い切り吹かす事で回避をする事に成功していた。
「ちっ……それでも掠ったか……」
 直撃は免れた物の潤也の一撃はフォルティスの乗る“イーグルデザート”の膝部分へとかすっていた。フォルティスが機体の現状を確認している間にもう一発の銃弾が飛んでくる。
「弾は一発じゃないんだぜ」
 多少掠った右ひざの反応が遅い気もするが回避するには問題がないようだ。
「よくも隊長を!」
 その時フォルティスが攻撃されて膝を掠っていた所を見ていたフォルティスの面々が潤也を囲う。その攻撃は先程までフォルティスを援護していた時の様な動きではなく、襲い掛かると言った方が近い形で攻撃をしてきた。
(それだけフォルティスの事を信頼しているのかしら……)
 その状況を見ながらアリーチェはそう思う。しかし、このままでは潤也が撃墜されてしまう。支援砲火を更に強めて潤也から離れるようにするようにして狙う。しかし、フォルティスは潤也の機体へと体当たりをして体勢を崩させるとそのままアリーチェの乗るエアロシップへと距離を詰める。そして援護を受けながらビームナイフで一撃を入れる。
「なかなか楽しませてもらった」
 そうフォルティスは呟く。
 その上空では1人の男性がその様子を見ていた。
「良い具合に足を止めてくれているな」
 コトミヤ・フォーゼルランドはそう呟くと狙いをつけて行動を開始する。
 ここまでの者達はフォルティスを狙っての攻撃だったが、コトミヤは違った。一緒にいるフォルティスの僚機。彼等の乗る機体もまた通常のキャヴァルリィとは違うのは見て取れた。それを見ていたコトミヤは思ったのだ。「これは解体し甲斐がある」と。
 潤也を狙ったフォルティス隊の1人を狙って一気に自身の僚機ファントムRVerと一緒に接近していく。フォルティスを攻撃された事により、フォルティスを攻撃していた者に注意を向いている今がチャンスだろう。
 コトミヤは敵ファントムへと真っ直ぐ突っ込んでいく。それに気付いた相手はこちらに向けてメックマシンガンを構えた。しかし、コトミヤに気付くのが遅れた為に引き金を引く前に攻撃を受けてしまう。
 すれ違いざまに籠手「クリア・スカイ」の一太刀を腹部へと浴びせ、そのまま後方へと回り込もうとUターンをする。そして、コトミヤの後方からは僚機のファントムが先程コトミヤが攻撃したファントムへとビームガンにて攻撃。シュツルムアタックによる連続攻撃が成功する。
 この時点でフォルティス隊の狙いはコトミヤへと向けられる。
「流石に俺だけ狙ってればいい訳ではないことは分かってるようだな」
 コトミヤへ向けてフォルティスが一気にホバーを全速力で近付こうとした時。彼等の間に入るメタルキャヴァルリィの姿があった。
「やらせない」
 太刀――虚刀“叢雲”を持つキャヴァルリィを操る桐ヶ谷 遥がフォルティスの攻撃を受け止める。
「今度は我々が囲まれてるという事か。面白い!」
 鍔迫り合いから弾いてお互いに距離を空ける。
 遥がこのタイミングで出てきたのはレベッカ・ベーレンドルフの指示があったからだ。
「これ以上の敵増援はないみたいだ。それに加えて“戦争屋”はやはり僚機のいない者を最優先に狙うみたいだな」
 デストロイヤー級エアロシップに乗るレベッカが遥とフォルティスの戦いを見ながらそう言う。
「索敵はこのまま続けますか?」
「いつ、どのタイミングで敵援軍が来るとも限らんからな。このまま続けてくれ」
 戦闘開始からクラリス・アーデットは敵が他にいないかを確認すべく、全方位索敵を行っていた。現状では敵の援軍が来る気配はないが、レベッカの言う通り絶対来ないとも限らない。
「あの、少し気になった事があるんです」
 レベッカに向かってクラリスがそう言う。クラリスもまたレベッカと同じく索敵をしながらこの戦いを見ていた1人。何かを感じた事があったんだろう。
「どうした?」
「敵であるこちらを破壊しないのは何故でしょう? ここまででも大破させられた味方機やエアロシップがありますけど……」
 確かにフォルティスは撃破した者には止めを刺さずにそのまま次の敵へとすぐに移動していた。そのまま敵を撃破してしまい、敵を殺してしまった方が敵である特異者達にとって大きな痛手になるはずなのにだ。
「……それ以上戦う必要がないと認識したのか、それとも――」
「それとも?」
「もしかしたら今までの様子から見てこの戦いを楽しんでいるのかもしれんな」
 そうフォルティスはこの戦いを楽しんでいた。
 ここまででも彼は「面白い」という言葉を言っているが、それは特異者達には伝わっていない。しかし、戦況を分析をしていたりこの状況を冷静に見ている者にとってはフォルティスの戦い方は普通の戦い方とは違うように見えるのだ。
「まあ、やる事は私達は変わらない。このまま遥や仲間の援護を続ける」
「はい、了解です」
 エアロシップからの支援砲火は彼等に向けて放たれる。そして、それを受けて攻撃を受けた潤也やアリーチェは後退。コトミヤはそのままフォルティス隊の1対と対峙。遥はそのままフォルティスの相手を続けている。
(相手は遠距離武器は持っていない。なら、わたしが大きく動けば……)
 ここまで戦ってフォルティスが持っている武装はバーンソードとビームナイフ。そして、左手に構えている盾。接近戦重視の武装であることが分かる。
 遥は大きく動く事でフォルティスやコトミヤに行った者以外のフォルティス隊の注意を引く。流石の遥も自身の乗るファントム、陽炎では彼等を全てさばききる事は出来ない。メイン火力は一緒にきている彼女の僚機。
 遥が注意を引く事で僚機のファントムRVerに攻撃を集中させる事が出来る。フォルティスは近接武器のみであり、フォルティスを攻撃するものを邪魔しに来る敵の僚機であれば、こちらの僚機を狙わせないようにするのも容易ではある。
「こっちは俺1人で相手をする。お前達は向こうを頼む」
「そ、それでは隊長が!」
「俺は大丈夫だ。きちんと仲間を守る事も大切だと言っているだろう」
 フォルティスはその状況をすぐに把握をし、隊の者達へとすぐに指示を飛ばす。その対応によって遥が連れている僚機が囲まれる事になってしまう。
「誘い方は上手いが、まだまだだな」
 フォルティスは遥に向けて剣を振り上げて攻撃モーションを取った。砂漠で足が悪い中、砂漠仕様になっている機体とは機動性が違う。この一撃は食らってしまうだろうと遥は判断した。しかし、これはある意味チャンスでもある。
 一撃を受けた遥の陽炎は後ろへと下がってしまうが、この距離ならば届く。遥は自身の刀を思い切り相手の頭部目掛けて振り切った。
 ここまで観察してたからこその回避が出来ない間合いというものを掴んでいた。一撃は食らってしまったがその攻撃を直撃を受けないように避けた上でのカウンター攻撃。
「くっ……!」
 その一撃はイーグルデザートの盾にて防がれていた。そこを狙ってシュツルムアタックの陣形を取っていた僚機のビームガンがフォルティスを狙うが、それも盾で防がれてしまう。しかし、その攻撃で盾に損傷が出ている事が似て取れる。
「肉を切らせて骨を断たれるところだったな」
 フォルティスは体勢を整えると肩からタックルをして遥との距離を空ける。そして、そこに遥の僚機を狙っていたフォルティス隊のファントムが今度は遥を狙った。
 その時だった。1機のファントムRVerが割り込むようにして突っ込んでくる。
「わたしも混ぜてもらうよ!」
 入り込んで来たのはテスラ・プレンティスだった。凍槍【Stream】を振り回してその場をかき乱していく。
「もう別の奴らが来ていたか」
 もう少し時間が掛かると思っていたフォルティスだったが、思っていたよりも早くこちらへ来ていた。それともここで戦っていた時間が長かったのか。
「こっち!」
 テスラはフローティングを使い砂によって足を取られないようにしながら移動をしつつ、敵僚機を撹乱していく。攻撃も交えつつも回避をメインとして動く。ただ、こちらも悪い足場を緩和させてはいるが向こうはこの砂漠に適応させた機体。徐々に追いつかれているのもテスラにも分かった。
 この場所はテスラの乱入につき混戦に陥っていた。フォルティスも彼等を倒すべく僚機と連携して当たっているが、なかなかもう1つの決め手がない。
「良い感じに混戦になったよ」
 テスラはスロートワイヤレスから一緒にきているパートナー達へと連絡を取る。最初は先行をしているものや、フォルティス隊が特に誰も狙っていない状況であれば僚機の連れていないテスラが囮になる予定であったが、こうして混戦状態の所へと入り込んだ事で考えていた事よりもいい形となっている。
「了解や。情報から砂漠仕様になっている敵僚機はもちろんやけど、新型で砂漠仕様の新型、エースであるフォルティスにはもっと気をつけや」
「うん、大丈夫!」
 連絡を受けたアルヤ モドキがテスラへとそう返す。
 ここまで戦っている者達からの情報は連絡手段を持つ者達の間で共有されている。すでにフォルティスの戦い方や新型、その僚機の性能がどのくらいなのかというのは大よその情報がきていた。しかし、ここまで戦って来てフォルティスには大きな損害だけではなく、新型の膝にかすり傷を負わせただけで大きく戦況が動いている様子はない。
「アドキ、テスラからは何だって?」
「良い感じに進んでるって話や。事を進めても大丈夫やろ」
 同じくライトクルーザー級エアロシップに乗っているアルヤァーガ・シュヴァイルが先ほどの連絡がどういっただったのかを聞く。
「それならアドキはそのまま他の特異者達に俺達が今後やる作戦を伝えておいてくれ」
「了解や」
 アルヤァーガはそうアドキへと伝えると準備の為に外へと出る。。
 彼らが乗るエアロシップはテスラが真っ直ぐ向かった所を確認して、少し大回りになるようにして混戦地帯をぐるりと90度方向へと来るように移動をしている。アドキによる土地勘で可能な限り見付からない様に移動はしているが、フォルティス程の者であれば気付いている可能性がある。しかし、この状況でこちらを狙ってくる事は出来ないだろう。
「聖」
 アルヤァーガは船橋にいる灰崎 聖の場所へと立ちよる。
「回り込んでいるって言う事は――」
「ああ、いつでも行ける準備をしておいてくれ」
「はい、分かりました」
 それだけ伝えるとアルヤァーガ自身は甲板の方へと回り込む。
 聖は言葉を交わした後に船橋に待機させている空挺戦車へと乗り込む。この作戦で聖の役割は小口径艦砲を装備させているこの戦車からの砲撃支援。もちろん、支援だけではなく上手く敵が密集すればその艦砲を使っての攻撃も出来るようにしている。
「こっちは準備出来てる」
「分かった」
 エアロシップに合わせて進んでいるサイフォス先行型からシュナトゥ・ヴェルセリオスがアルヤァーガに向けてそう言う。
 先程の通信はスロートワイヤレスを持つシュナトゥにも伝わっていた。その為、いつでも攻撃が出来る準備を進めていたのだ。
 そして、ここからエアロシップからの攻撃が始まる。
 アルヤァーガはクロニカマーカーを使ってこれから行う攻撃の威力を上げるために使用する。そして、自身の魔力を上げるためにテンパランスと同化させる。
「行くぞ!」
 プラズマウェイヴをフォルティス達がいる場所へと放つ。威力が大きい物ではないが、敵の電子機器への損傷を与える事でこちらからの攻撃を回避しにくくするための一撃だ。
「隊長、レーダー等の機器が……!」
「回り込んでいると思ったら、そういう事か。なるほど……今は機器に頼るな、目視で当たれ。お前達なら出来る」
 冷静にフォルティスは落ち着いた口調で部下たちへとそう言った。
 そしてアルヤァーガのプラズマウェイヴを放った後にシュナトゥは弓兵の構えの基本的な構えからホライゾンブラスターを放つ。狙いはテスラや味方機が攻撃している相手へ。連続で攻撃をされるとなると目視で避けるとなると難しくなってくる。
 フォルティスの武装は近距離専用の為に彼等が乗るエアロシップには僚機がマシンガンで狙おうと考えるが、聖による砲撃支援によってなかなか上手くいかない。
「今は目の前の状況の打破からだ。回避優先でいい、今は死なない事だけを考えろ」
「はい!」
 フォルティスの指示に僚機からの返事が聞こえてくる。
「やはり一筋縄じゃいかんな」
 様子を見ながらアルヤァーガは呟く。しかし、ここで手を止めるつもりはない。シュナトゥや聖へと指示を送る為に慧眼を用いて観察を続ける。
 やはりフォルティスが遠距離武器を持っていない事が功をそうしているのだろう。思い切ってこちらへやってくる様子は見受けられない。
 ならば遠距離へと攻撃が出来ない隊の一番上の立場の者を狙うのが一番だろう。
 アルヤァーガはフォルティスをメインに狙うように皆へと指示。総攻撃を狙う。しかし、ここで予想外の事が起きる。
「隊長! 避けてください!」
 フォルティスに向けられた攻撃をフォルティス隊の僚機が庇うと言った様相を見せた。ここから僚機を潰していけば確実にフォルティスを狙う事が出来るのだが――。
「……距離を一気に開ける。全速力で距離を取れ!」
 僚機の1つがダメージを負った事で完全にここから距離を取る事にしたフォルティスはそう指示を出すと皆で一気に離脱を試みる。
「おっと、ここは貴方だけでも行かせないよ」
 フォルティスの邪魔に入ったのは天廻 陽樹。僚機のサイフォス先行型と一緒に囲むようにしてフォルティスの邪魔をする。
 陽樹は炎を纏わせた猛き炎の剣を振り上げて攻撃。それを盾で防がれるが連続して僚機が攻撃を仕掛ける。受ける事が出来ないと分かるとすぐにフォルティスはホバーを吹かして距離を取る。
 戦場の足法にて砂に足を取られないようにしつつ動くがやはり新型の速度は恐ろしい物がある。先程は攻撃を受け止められ、連続して入った僚機の攻撃も避けられてしまった。
 一気に畳み込まなければ勝機が見えないと考えた陽樹は剣を使って高速の連続突きを繰り出す。そして、それに続くようにして僚機も魔法の大剣を振りかざして攻撃。
「隊長だけは残せません!」
「先に行けと言ったのにな」
 そこへフォルティス隊の者達が陽樹を狙うようにして銃撃を行ってくる。このままでは形勢は逆転してしまうだろう。
 先程混戦だった場所から離れてはいるが、味方がくればまた足を止める事は出来るかもしれない。しかし、こうして隙が出来てしまっては再び距離を取られてしまうかもしれないと考えて陽樹はフォルティスへと言葉を投げかける。
「こちらに寝返る気はないか?」
「まさか、そんなつもりはない」
「まあ、そう言うと思った。命と引き換えにって考えたが拒否をしたなら処分だ」
「どちらにしろ我々が負ける前提ということか。その自信は買ってやろう」
 陽樹の言葉にフォルティスはニヤリと笑うと砂煙を巻き上げるほどのホバーの出力を上げて後方へと下がっていく。それによって正面が一瞬見えなくなった陽樹は追う事が出来ずに距離を離されてしまう。
 同じくしてフォルティス隊が距離を離していくのを見ていたデストロイヤー級エアロシップである六出に乗っているユキノ・北河はすでに出撃の準備が完了しているジャンヌ・アルタルフへと話しかける。
「フォルティス隊は現在混戦してた場所から一時離脱をしています。皆さんがそれを追いかけていますが、流石のスピードに追い付けていません」
「私達の船は幸いな事に逆側に回ってこれたという訳ね」
 2人が搭乗しているエアロシップは別の方向から向かってきていた事もあり、フォルティス隊へと近い位置まで来る事が出来ていた。
「そちらはお願いします」
「ええ、任せておいて」
 そうユキノへとジャンヌは返すと僚機であるファントムRVerとグリフォンリッターと一緒に出撃をする。
 ユキノはジャンヌが彼等の場所まで到着するまでの間の牽制として砲鮮火を敵側へと向けて照準をつけると、支援砲火として放つ。その爆発によって敵達の足並みが少しだけ崩れるのが分かる。
 それを確認したジャンヌは速度上げてフォルティス隊へと近づいていく。3機が近付いてくるのに気付いたフォルティス隊もまた展開をする事で彼女達の相手をする形を取る。
 ジャンヌはオフェンスシフトを取って僚機を後方へと位置を取らせる。相手側はフォルティスを含めて7機。その内1機はフォルティスを庇った事で機体が損傷して動きが鈍くなっているようだ。
 それでもこちらは3機で相手は7機。しかも機体性能や乗っている人達もフォルティスもその僚機の者達も戦闘慣れをしているのは見て取れる。
「遠距離攻撃が出来るのは僚機だけ。グリフォンに続くようにして私達も少し離れて当たるわよ」
 そうジャンヌは指示を出す。
 ユキノからの援護があるので相手側も大きな一手を撃ってくる様子もなく、こちらの攻撃をフォルティスが相手をしながら敵の僚機はこちらへと牽制の様にしてマシンガンを撃ってくる。
(援護だけなのかしら……多少攻撃へ来ても良いと思うのだけれど……)
 ジャンヌが思っている通りにこちらを撃破するような動きをしてこない。一体何を考えているのか、と思った瞬間だった。
「散開しろ!」
 フォルティスがそう指示を飛ばすと3機を包囲の陣を使って囲んでいた状況からそれぞれ一気に離れていく。そう、フォルティスは最初からジャンヌとまともに戦おうと考えていなかったのだ。
「最初から態勢を整える事だけを考えていたって事ね……やられたわ」
 相手の考えている事に気付く事が出来なかったとジャンヌは悔しがる。この状況から彼等に追いつく事は出来ないだろう。
 一度補給をすべくジャンヌはユキノが乗っているエアロシップへと戻っていった。
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