【敵部隊を突破せよ! 2】
そして忘れてはいけないのが、マリィ隊のエアロシップがもう1隻あるということだ。
マリィの指示を受け、もう1隻も離陸を始める。
しかしながら、上昇し始めた所で、地上からファントム隊、上空からは敵のエアロシップによる攻撃が容赦なく撃ち込まれていく。
撤退を成功させるのはマリィ隊のもう1隻のエアロシップにとっても、この敵エアロシップは最大の壁とも言えるだろう。
このままでは撤退できない、そう思った所に援護に入ったのは「願いの教団」白兎隊のメンバーだ。
ライトクルーザー級エアロシップの操縦を行っているのは
北条 命である。
そこに一緒に搭乗しているのは
ジン・ラミィと
イヴ・リバースだ。
イヴが【エスケープセンス】で戦闘の気配を感じ、駆けつけたのだ。
命たちは上空のエアロシップを、そして地上のファントムは同じくメンバーの
キャスケット・モンガーと
一浜 ローゼットが相手をするようだ。
「1人で2つのメタルキャヴァルリィの整備をしたのじゃ」
キャスケットは幻影の天使ことファントムRVerに、ローゼットはクリムゾンローズことファントム強化型RVerにそれぞれ搭乗している。
2人がエアロシップから降下し、敵のファントム隊を倒しに向かっている様子を見守りながら、ラミィは満足そうに呟く。
実は2人が降下するその直前まで、GC:汎用ツールボックスで【簡易処置】にて砂漠特有の熱や砂埃にも耐えられるように、ラミィが調整を試みていた。
さらには【ウェポンチューン】でローゼットは連射性を上げるように、キャスケットは斬れ味を増すよう整備も済ませてある。
後は2人の勝利を信じるのみ、そう思っていたのだが……
「敵の位置の確認をお願いしますわ」
「整備が終わっても、戦場でお仕事がある……?
オペレーター業も大変なのじゃ」
すぐさま次の仕事を頼まれる。ラミィに休憩する暇はなさそうだ。
言われた通り、ラミィは【全方位索敵】で敵の位置を探っていく。
それをすかさず、ヘッドセットで地上のキャスケットとローゼット、エアロシップを操縦している命に伝えるのであった。
「了解よ!
メタルキャヴァルリィとやらの性能を確かめてくるわ」
「まずは私達小隊がまるごと囮になりましょう」
そう返事をすると、キャスケットはなるべく目立たないように、ローゼットは【僚機】ファントム強化型RVerと共にあえてマリィ隊を攻撃している敵の目の前に割り込んでいく。
ローゼットたちに気づいた敵のファントム隊はそのまま標的を変え、こちらに襲い掛かって来る。
それを走りながらかわしつつ、つかず離れずで振り返りながらロングレンジライフルにて狙撃を開始。
もちろん、移動しながらなので、そこまで細かい狙撃は出来ない。当たりやすさを優先に的の大きい所を狙って撃ち抜いていく。
けれども、これにより十分に時間を稼ぐと共に、敵のファントム隊に隙を生じさせた。
そのまま横から今度はキャスケットが斬りかかる。
ローゼットに注意が向いていたことに加え、静穏の天使こと静寂のカツガで音を消しながら接近したため、敵ファントム隊は直前までキャスケットの奇襲に気づかなかったようだ。
キャスケットの斬撃に敵がよろける。
そこにすかさず、ローゼットが僚機と共に【小隊陣形】シュツルムアタックで連撃を行い、まずは1機を撃破する。
一方の敵も隊を組んでいる。2機が同時に斬撃を終えた所のキャスケットに向けて【ヤブサメ】で攻撃を仕掛けてきたのだ。
そのうち1機の攻撃を【レイダースウェイ】で回避し、もう1機の攻撃を剣で受け止める。
剣と剣がぶつかり合い、押し合いが始まる。
と、そこに先ほどの攻撃をかわされたもう1機が横から【ヘヴィスラッシュ】を仕掛けてきたのだ。
キャスケットは剣を交えたまま、もう1機に対して、【蹴破り】で壊れやすそうな部分目がけて蹴りを見舞う。
1機を蹴り飛ばすと共に、【僚機】オオカミ乗りに合図を送る。
それと同時に背後からローゼットが急所目がけて狙撃し、キャスケットと剣を交えていた1機が倒れ込む。
一方のオオカミ乗りはキャスケットの指示の元、足元を救うように動き回り、敵を錯乱させていく。
そして、そのまま突如関節部に噛みつく。
そこに解放され、回り込んだキャスケットが斬りかかり、素早い連続攻撃を行う。そう、【小隊陣形】シュツルムアタックだ。
最後の1機も倒れ、見事1隊の撃破に成功。しかし、すぐさま次の隊が現れる。
「いきましょう」
キャスケットとローゼットはそのまま敵隊を同時に迎え撃つ。
まずキャスケットは間合いを詰めるフリをして静穏の天使で喰らった音の塊を衝撃波として撃ち出す。
その予想外の攻撃が直撃し、敵のファントムがよろける。そこにさらにオオカミ乗りが攻撃をしかけ、その隙に今度こそ間合いを詰めたキャスケットが、1機の関節部に斬りかかり、機動力を削ぐ。
一方のローゼットも攻撃を仕掛けると見せかけて、敵の【ヤブサメ】をかわし、ワンスマニューバで一時的に飛行。そして頭上から射撃する。
予想外の動きに敵はもちろん避けきれなかったようで、そのまま倒れ込む。
すかさず、着地と共にキャヴァルリィストライクで強烈な追撃を見舞い、敵にトドメをさす。
残りの1機も数の不利を感じ取ったのか、隙をみて、逃げ去ってしまった。
同じころ、命もまた敵エアロシップと交戦中であった。
イヴの【土地鑑(スフィア)】の地理知識では、この付近からラディア領まではそう遠くない。
3隻のエアロシップを相手にするのは少々困難だが、時間を稼ぐことならば可能だろう。
イヴが固定銃座で援護射撃を開始する。
一方の敵もそれを両端のエアロシップが【簡易防壁】で防ぐ。
さらに中央の1隻が【ストーンバレット】でこちらを攻撃してきたのだ。
それを命は戦艦の高度を上げて回避。さらにこの援護射撃に紛れて【僚機】スカイライダーRVerを送り込む。
「私のエアロシップを甘く見ないでくださいませ」
命はエアロシップに携行式無反動砲を積んでいる。右端のエアロシップに向けて砲弾。
さすがにそれは【簡易防壁】では防ぎきれず、戦艦が大きく傾く。
そして携行式無反動砲の最大のメリットは反動を相殺すること。すぐさま次の攻撃体勢に入ることができるのだ。
「十字砲火ですわ」
送り込んだスカイライダーRVerと挟み込み、【小隊陣形】十字砲火を浴びせる。
これにより、右端のエアロシップは操縦が困難になったようで、降下していく。
残りは2隻……。ここですかさず、命が通信宝珠にて撤退を試みるエアロシップに連絡を入れる。
「ここはお任せください。足止めしますわ」
地上のファントム隊はキャスケットたちにより何とかなったが、上空の敵エアロシップは命を信じるしかない。
その連絡を受け、マリィ隊の乗るエアロシップは一気に高度とスピードをあげて進み始める。
敵もやはり、隊員の乗るエアロシップを狙ってくるも……
1隻をイヴが固定銃座で撃ちつけて牽制し、味方エアロシップが敵エアロシップとのすれ違い様に、命が【プラズマウェイヴ】を放つ。
威力こそ高くないものの、動きを一瞬止めるには十分であった。さらには電子機器の誤作動が起こるかもしれない。
こうして、「願いの教団」白兎隊のメンバーの援護もあり、マリィやマリィ隊を乗せるエアロシップは無事に離陸し、進み始めた。
何とか離陸し、撤退を開始したマリィ隊のエアロシップ。
撤退開始時に多くの敵を突破したものの、やはりスカイライダーとファントムの隊が背後から追ってきており、追撃を受けていた。
しかし、この辺りはグランディレクタ領とラディア領の境目付近。この追撃さえ撒いてしまえば、何とか逃げ切れるかもしれない
とはいえ、この2隻のエアロシップは損傷がひどく、攻撃は出来ない状態だ。
特異者のサポートを受けながら、何とか回避と防御をするのがギリギリだろう。
そんな追撃から逃げ切るため、サポートを買って出てくれたのは
桐ケ谷 彩斗と
藍澤 一だ。
エアロシップを追いかけるスカイライダーの背後から彩斗の指示を受け、【僚機】ファントムRVerが援護射撃を開始する。
これにより、スカイライダーは回避に追われ、エアロシップへの攻撃に対する牽制になると共に追跡速度が遅くなる。
そして、一方の彩斗はシャドウことファントムRVerに搭乗し、ファントム隊を相手していた。シャドウは【無毀なる黒】を纏っており、防御力は多少落ちるものの、攻撃力を高めている。
「救出ができてもその後やられてしまっては元も子もない……
撤退完了まで襲ってくる敵は撃退しないとな……」
射程圏内をスカイライダーが脱してしまい、【僚機】ファントムRVerも彩斗の援護へと戻って来た。
それを見計らって彩斗が【疾風】の如く駆けながら敵に近接戦を仕掛けていく。
敵もそれに対して【ヤブサメ】で対抗してくる。それを僚機が援護射撃で遮る。
すると、今度は小隊の後ろに控えていた1機が前に出て彩斗に向けて【ヘヴィスラッシュ】を見舞う。
すかさずそれをワンスマニューバを用いて一時的に飛行し、敵の頭上を飛び越えて回避。
そしてそのまま背後から【キャヴァルリィストライク】による強烈な1撃でまずは1機を倒す。
これにより、敵の陣は崩れた。
引き続き僚機が援護射撃を行い、敵の攻撃をビームソードでいなしつつ、隙をみて【雷切】による鋭い突きを行う。
狙うはコクピットだ。
「うっ……」
それが命中し、2機目も十分に動けなくなってしまったようだ。引き続き僚機が援護射撃を行っており、残る1機が動けなくなったファントムを庇うように防御をしている。
振り返ると、エアロシップはかなり進んでいた。
「ま、これはあくまで撤退戦なんだ……深追いはしないようにしないとな……」
折りを見て、僚機に牽制のため射撃を続けてもらいつつ、少しずつ距離をとって彩斗も撤退していった。
そして、しつこく追いかけて来るスカイライダー隊の足止めに動いてくれていたのが一だ。
【僚機】グリフォンリッターと共にグリフォンに騎乗し、迎撃に向かっていた。
「撤退の邪魔はさせないさ」
彩斗の【僚機】ファントムRVerの牽制攻撃に敵が気をとられているうちに接近。
敵はスカイライダー3機、まともに正面から当たれば確実にこちらが不利である。
航空騎兵ならではの機動力を活かし、スカイライダーの真下から潜り込むようにしてウィスパードで攻撃する。
もちろん、それだけでスカイライダーに致命的な損傷は与えられないものの、機体を揺らし、不意打ちの攻撃に動揺させることが出来たようだ。
すかさず今度は一の指示でグリフォンリッターが攻撃を仕掛け、盾の陣が少しずつ乱れ始める。
しかし、一たちに気づいた1機がこちらに向けて攻撃を仕掛けてきたのだ。
それをエネルギシールドを展開しながら防御しつつ、距離をとり、敵の攻撃の回避に一旦専念する。
とはいえ、一も闇雲に飛行していた訳ではない。
しっかりと、エアロシップを守るために、【クールアシスト】で2隻の間を埋めるように位置取りをしている。
そして回避しつつ、隊を組むうちで動きの鈍いスカイライダーを炙り出していた。
それをグリフォンリッターに目配せで伝え、一は【疾風】でスピードをあげてスカイライダーの前に出る。
それに気をとられ、一に集中的にスカイライダー隊が攻撃を仕掛けていく。
しかし、一は囮であった。グリフォンリッターが位置取りをした所で、突如【疾風】を緩めて失速し、一番動きの遅い機体の後ろへと回る。
騎兵とは違い、いきなりスカイライダーは失速ないし止まることは難しいだろう。
そのまま背後からエンジン部分目がけてグリフォンリッターと共に【小隊陣形】シュツルムアタックによる連続攻撃を見舞う。
これにより、1機が飛行不能となり、離脱。2機となったスカイライダーも陣が崩れ、攻撃の手が緩まる。
そこからは一たちも無理をせず、エアロシップに攻撃がいかないよう牽制攻撃をしかけつつ、回避を徹底していく。
すると、程無くして、マリィ隊が2隻ともラディア領へと入ることに成功する。
その様子をみたスカイライダーはそのまま旋回し、撤退していった。
「マリィ隊、無事にラディア領に帰還!
撤退完了!!
援護に感謝します」
特異者たちの懸命な救出、撤退支援により、喜ばしい報告が無線へと入った。