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エルベ砂漠の戦い

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エルベ砂漠の戦い
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【敵部隊を突破せよ! 1】




「マリィ隊長!」

 夏輝たちがマリィの輸送を終え、エアロシップへと辿り着いたその時、ちょうど舞花たちが送り届けた隊員がエアロシップへと乗り込むところであった。

「みんな無事で良かったわ。
 隊員たちを送り届けてくれてありがとう」

 負傷者こそいるものの、特異者たちの早急な救助作業により、死者はいない。
 マリィは心を込めて、舞花たちに隊長として礼を述べる。

「春那さんたちもありが……っつ」

 Sacred Forceのメンバーにも礼を述べ、エアロシップへと乗り込もうとしたところで、マリィたちは息を飲む。

 わらわらと敵の部隊が現れたのだ。

 確かに、こんなに目立つエアロシップがここまで長時間見つからない方がおかしいとも言える。

 マリィを捕まえるために、待ち構えていたのかもしれない。

「くっ……ここまできたのに」

 マリィがエアロシップに乗ろうとすると、ファントム隊が立ち塞がる。

 さらには上空からエアロシップ目がけてスカイライダーたちが攻撃を仕掛けてくるではないか。

 これ以上損傷してしまえば、エアロシップは飛行不能になってしまうかもしれない。

 そんな中、どこからか【支援砲火】が飛んでくる。

「上空からの支援を要請するわ」

 デストロイヤー級エアロシップに搭乗し【支援砲火】を行いながら通信宝珠で援護を要請しているのは姫宮 徒花だ。

 徒花は【支援砲火】の届くぎりぎりの距離を保ち、少し離れた所から攻撃を仕掛けているようだ。

 徒花は味方の弱点を埋めるように立ち回ろうと考えていた。その中で最も攻撃を受けるであろう瞬間と場所を予想し、撤退の開始時期が危ないと考えたのだ。

 徒花は【支援砲火】の手を緩めなかった。【弱点察知】を巧みに利用し、敵を倒し切るのではなく、起動力を削ぐようなイメージで攻撃していく。狙うは陣を作っている中でも一番動きの鈍い敵からだ。
 損傷し、1機の動きが遅れれば、それだけで陣が崩れやすくなるだろう。

 撤退戦で重要なのは勝つ事ではなく、撤退完了まで負けない事。これを意識しながら、仲間が動きやすくなるように支援を続けていく。

 そして、この徒花の働きかけは他の特異者たちの反撃のチャンスを作った。

 救出、輸送を行ってきた特異者たちは十分に動き、疲弊している。けれども、徒花のおかげで敵が混乱し始めている。
 マリィをエアロシップに乗り込ますだけの隙を作るには十分であった。

 マリィは数隊に及ぶファントムが群がる中、特異者たちが作った僅かな隙間を見逃さずにエアロシップへと飛び乗る。



 無時に乗れたとはいえ、発進しようとするエアロシップを敵のファントム隊、スカイライダー隊が野放しにする筈もない。

 引き続き上空からスカイライダーが攻撃を仕掛け、ファントム隊が追撃を行ってきている。




「コマンダールドの言う通りになったな」

「僕に任せれば、万事大丈夫なのです」

 そんなファントムの部隊に奇襲を仕掛けたのは島津 正紀ルドルフ・キューブである。

 マリィの移動時に敵の追撃部隊が襲い掛かってくる、ルドルフはそう考え、事前に【土地鑑(スフィア)】で周囲の地形を大雑把に正紀へと伝え、様子を覗っていたのだ。

 輸送時はマリィの居場所を隠していた為、敵に気づかれなかったようだが、マリィの居場所が分かった今、まさに格好の餌食となってしまっていた。
 抜群のタイミングでの援護である。

 まずはルドルフがファントム隊の背後を取り、空挺戦車を【旧時代技術】にて効率よく運転しつつ、自動擲弾銃で撃ちまくる。

 一方の敵も、背後をやられた1機と位置を入れ替えてながら、盾の陣を保ったまま、ファントム隊がルドルフの方を振り向く。

 と、そこに横からサイフォス先行型に搭乗した正紀が飛び込み、先ほど下がった負傷したファントム目がけて王者のカルタリで【ファストスラッシュ】を見舞う。

 そのまま残りの2機と【インファイト】による格闘での近接戦を開始する。

 この近接戦では攻撃を仕掛けることではなく、敵の相手をしつつ、耐えることが正紀たちの重要なポイントであった。

 敵も2機同時に【ヤブサメ】や【ヘヴィスラッシュ】で攻撃をしかけてくる。もちろん、1人で2機を相手するとなれば負傷も避けられないだろう。
 けれども、回避やホライゾンガントレットでの防御で致命傷を負わないように注意して立ち回る。

「正紀、今です」

 そこに、引き続きルドルフが自動擲弾銃で撃ちまくり誘導したファントム隊も正紀に向かって攻撃を仕掛けてくる。

「よし、チャンスだな」

 敵がこちらへと集まった瞬間を狙って【空間知覚】で敵との位置をしっかりと計りつつ、急ぎ10メートル以上の距離をとる。

 そして、正紀を狙おうと、集団で追いかけてきたところを狙って王者のカルタリを地面に叩きつけたのだ。

「な……!?」

 すると、地面から王者カルタリによる衝撃波の柱が噴出し、ほとんどの敵が足元を奪われ体勢を崩す。

「撤退です」

 そこにすかさずルドルフが【砲撃支援】を行い、多くの敵を足止めして正紀とルドルフも撤退していった。





 正紀たちと同時に上空のスカイライダー隊を相手にしていたのが九鬼 苺炎ナンテス・フラワーポットゴルデン マリーである。

「お待たせ!
 わーっと蹴散らすよ」

 先ほどの徒花の援護要請を通信宝珠で受けて駆けつけたようだ。

「同じ名を持つものとして、助太刀に参りましたにゃ。
 邪魔なアレらを倒し、道を開きます」

 デストロイヤー級エアロシップに乗り、マリーが苺炎とナンテスに指示を出しながら出撃する。

「マリー、最初に狙う敵は?」

「あの隊を潰せれば、次手も開けましょう。
 手始めに苺炎にゃん達。行ってらっしゃいませ」

 マリーの指差す隊目がけて、苺炎がペガサスに騎乗し、【僚機】ペガサスリッターと共に向かっていく。

 それに合わせて、ナンデスがエアロシップの近くをホライゾンホバーボードで飛行しつつ、【全方位索敵】で敵の位置を伝える。

「右側に注意ですわ」

 それを聞きながら、苺炎は回避しつつ、スカイライダーとの距離を詰めていく。

 その間、マリーのエアロシップも攻撃を受けるも、それは【全速回避】でかわし、隙をみて【弱点察知】で敵の弱点を探る。

「小隊のウィークポイントは、その機体の損傷ですにゃ」

 こちらと同様、敵もずっと戦ってきたのだ。その機体に損傷があってもおかしくはない。

 損傷部を見つけては苺炎は接近して【ヤブサメ】で攻撃をしていく。

 もちろん、航空機とペガサスでは威力やスピードでは航空機の方が上かもしれない。
 しかし、ペガサスだからこそ、上空でもここまでピンポイントに接近できるのだ。

 苺炎は接近して攻撃を仕掛けては離れて、というのを繰り返し、敵の目を慣らす。

 そして、次にマリーからエンジン部分を狙うように指示を受け、再び攻撃を仕掛けにいく。

 一方の敵も先ほどからの苺炎の攻撃をただ黙って受けていた訳ではない。
 回避しつつ、機体をぶつけようとしていた。

 再び近づいてきた苺炎をかわすために機体を傾け、反撃しようとするも――……。

 機体の傾け具合が足りなかったようだ。苺炎のストームソードがエンジン部分に衝撃を与える。

 というのも、苺炎は敵の目を慣らし、ペガサスと油断していることを利用して【揺らし】を使って上手く軌道を勘違いさせたようだ。
 もちろん、ストームソードによる一撃だけでエンジン部分の破壊は厳しい。
 けれども、苺炎に気をとられている隙にペガサスリッターがまわりこんでいたのだ。
 今度はペガサスリッターが攻撃をしかけ、機体を揺らす。

 そして、その攻撃に合わせて苺炎が【ファーント】をねじ込む。

 集中的にエンジン部分をやられ、とうとう操縦が利かなくなってしまったようだ。あえなく敵の1機が離脱していく。

 しかし、まだまだ苺炎たちの攻撃は終わらない。
 そこに畳みかけるようにもう1機の死角に回りながら、ペガサスリッターと【小隊陣形】シュツルムアタックを仕掛けたのだ。
 素早い連続攻撃を見舞い、もう1機もバランスを崩す。

 こうして要となっていた小隊1機をほぼ機能しない所まで追い込んだ。

 すると、マリーのエアロシップを攻撃し、援護に回っていた周りの小隊までが前に出てきたのだ。
 囲まれるといくら機動力があるとは言え、苺炎が逃げ切るのは難しくなるかもしれない。

「どうしたらいい?」

 しかし、それに合わせてマリーもまた動く。

「ナンテスにゃん、少し手助けしてらっしゃい」

「苺炎様、聞こえておりました?
 そんな訳で、マリー様の指示でそちらに向かいますわ。お待ちくださいませ」

 苺炎は一旦、敵と距離を取り、囲まれないように回避に専念。そして、ナンテスが駆けつけた所でマリーの指示の元、再び動き出す。

「ここでボクがいきますにゃ」

 ナンテスと苺炎は敵と左右に分かれ、敵とある程度距離を取りながら、引き続き回避に専念し、敵の注意を引き付ける。

 そして――……

 殆どの小隊が前に出てきている所目がけてマリーがエアロシップにて【【夜】ボディアタック】を見舞う。

 それにあわせて素早くナンデスと苺炎は離脱、マリーもまたマジックグライダーにて脱出。

 もちろん、多くのスカイライダー隊は避けたのだが、これにより固まっていた小隊を蹴散らすことができた。


 ファントム隊を正紀たちが、上空のスカイライダー隊を苺炎たちが追っ払ってくれたことにより、マリィたちのエアロシップが離陸し始める。


「これより撤退を開始する――!!」




 マリィの指示が無線を介して響き渡る。



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