【負傷した隊員たち 1】
同じころ、マリィ隊のメンバーの救出作業も着々と進んでいた。
損傷したメタルキャバルリィとマリィ隊隊員が2名程いることを
佐藤 七佳が発見する。
その周りにはつい先ほどまで激しく戦っていたのであろう、損傷した敵のファントムの機体と負傷した敵隊員が倒れていた。
「大丈夫ですか……?」
マリィ隊の一人は意識を失い、もう一人もひどく負傷しており、気力のみで保っているようであった。
「うわぁああ、来るな」
意識を失っている仲間を庇うかのようにもう一人が七佳に向かって叫び威嚇する。どうやら、負傷してパニックに陥っているようであった。
「わたしは治療をするだけです」
そう微笑みながら告げ、七佳は【ハートケア】で落ち着かせる。
意識を失い大けがを負っているのはメタルキャバルリィに搭乗していたトルーパー、負傷しているのは生身で逃げていたオペレーターのようだ。
まずは急ぎ、【大地母神の祈り】でトルーパーを回復させていく。
しかし、いつ敵が来るか分からない状態。治療の合間に【聞き耳】でしっかりと周りの音を拾い、警戒することを怠らない。
そこに通信宝珠で七佳から連絡を受けた
真毬 雨海が駆けつける。
「私も協力します」
雨海は東雲の衣で飛行し、【広角視野】にて360度に近い視野を持って、捜索していたようだ。たまたま近くにいたこともあり、早くに合流することができたのだ。
雨海もまた、【大地母神の祈り】でオペレーターを回復させていく。
そのことにより、手に余裕のできた七佳は倒れていた敵のファントム隊員の治療も開始する。
「……俺たちは、敵だぞ?」
弱々しく掠れた声で、不思議そうに敵が七佳に質問する。
「侵略戦争ですが、敵国の兵士も命令に従っているだけで、戦闘の責任はありません。
ですから、きちんと助けます」
その様子をオペレーターは複雑そうに、雨海は何かを考えるかのように見守っていた。
雨海もまたどちらが正しいのか分からず、分からない以上は深入りはしまいと考えていた。今回はたまたまラディア軍に協力を頼まれ、自身の出来うる限りのことをしようと思い、ここに立っているのだ。
「それに……
軍人の戦死は親しい人にとって敵国への憎悪の温床になり、それは和平が困難となる事に繋がります」
「…………」
七佳の言葉を聞き、敵ファントム隊もオペレーターも押し黙ってしまった。
しかし、その沈黙を破るかのように、七佳は【聞き耳】で何やら音を拾い、警戒を強める。
「負傷者がいます。援護をお願いします」
最悪の場合に備え、雨海が通信宝珠で味方の援護を求める――……。
そこからわずかばかり離れた所にいたのは
ルイーザ・キャロルだ。
事前に用意した遺跡の写真を用いて、ネックレスを振り子に【ダウンジング】で捜索。そしておおよその位置に近づいてからは【聞き耳】を頼りに人の隠れそうな箇所を探してこの辺りへと辿り着いた。
僅かな緑の中で、微かに葉の揺れる音がする。
そっとそこをのぞき込むと、酷く疲れた様子のマリィ隊の者がいたのだ。
「助けに来ましたよ……もう大丈夫……お怪我は……ありませんか?」
「助け……? 本当に? ……うっ」
よろける隊員をさっと支え、怪我を【大地母神への祈り】で治療していく。どうやらトルーパーらしく、生身で逃げていたようだ。
動けるようになった隊員に安心しながらも、次の隊員を救うべく、ルイーザは真剣な眼差しで切り出す。
「捜索のお手伝いを……お願いしたいのです。
どこに隠れて居るか……知ってたらお話して欲しいです」
「実は……」
かなり心苦しそうに、敵に見つかった自身を助けるために味方のメタルキャヴァルリィが囮となり逃がしてくれたことを明かしてくれた。
その胸中を察し、ルイーザは【ブレイブハート】で励ます。
そしてそのメタルキャヴァルリィを探そうと【ダウンジング】を始めようとしたその時、運悪くも敵のファントム隊に見つかってしまう。
咄嗟にルイーザが構えたその時、ファントムの1機が急に膝をつく。
「せいやっ!」
よく見るとファントムの背後にはペガサスに騎乗した
フューラ・フローレンティアの姿があった。
太陽を背に、逆光を利用して近づいてきたようで、ファントムの関節部を狙い、【ヤブサメ】で奇襲をかけたのだ。
「大丈夫ですか、味方です! 助けに来ました!」
ルイーザとトルーパーは安堵の息をつき、コクリと頷く。
とはいえ、この状態・人数で小隊を組んだファントム3機を相手にするのは無謀と言えるだろう。
「オオカミ乗りさん、お願いします」
ルイーザたちと共に逃げながら、追いつかれそうになっては【僚機】オオカミ乗りの機動力を活かして敵の注意を引き付けてもらいつつ、その隙に関節部を狙ってフューラが攻撃を仕掛け、敵を足止めさせていく。
これを繰り返し、何とか撒くことが出来たようだ。
引き続きルイーザの【ダウンジング】で味方メタルキャヴァルリィを目指す。
一方の七佳たちは敵らしき音を感じ、じっと身を潜めていた。
けれども、メタルキャヴァルリィは目立つ。トルーパーは依然、気を失っており、誰も動かすことができずにいた。
それ故に上空のスカイライダー隊に見つかってしまったようだ。
敵が手当たり次第に攻撃を仕掛けてくる。
「くっ……」
何とかそれを雨海が氷雨の楯ことホライゾンシールドと【盾のルーン】で防ぐも、いつまでもつか分からない。
「私だって……少しは皆さんを……護れますっ!」
と、そこに駆けつけたルイーザが飛び込む。
回避しつつ、負傷したマリィ隊を庇うようにホライゾンシールドとエネルギーシールドで防御しながら。
すると、急にピタリと敵の攻撃が止む。
「こちら……ファントム隊。負傷者あり。先に救護を求む……」
先ほど助けたファントム隊がすっと七佳たちの前に出たのだ。それにより、味方に攻撃があたるのを恐れ、スカイライダー隊も一度攻撃をやめたようだ。
気まずそうに敵が視線を逸らし、ぼそりと告げる。
「嘘は言っていない。俺たちはこれ以上戦う力は残っていない」
「…………」
全員が驚きながらも、いつここに敵の仲間が駆けつけるか分からない。
「移動しましょう」
フューラの声を合図に、負傷者をフューラのペガサスに乗せ、ルイーザと共にやって来たトルーパーがメタルキャヴァルリィに搭乗し、その場を後にする。
「……応急処置ですので、後できっちりと治療して下さい」
七佳の声が戦闘中とは思えない静けさの中、響いていた。
「まだ無事ならば味方のエアロシップが2隻ほど残っている。
そのどちらかへ連れて行ってほしい。
皆きっとそこを目指すと思う。
そこでマリィ隊長の撤退の指示を待ちたい」
マリィ隊の一人がそう告げる。
コクリと頷き、エアロシップの隠れていそうな場所をルイーザが【ダウンジング】し、雨海が【広角視野】で敵を警戒しながら進んでいく。
しかし、敵の数はかなり多い。どれほど警戒していても、やはり遭遇してしまうというもの。
前方に敵のエアロシップが迫って来ていたのだ。
メタルキャヴァルリィを動かせるといっても、損傷しており防御は出来たとしても、戦うのは無理だろう。
全員が息を飲んだその時、雨海たちを庇うようにライトクルーザー級エアロシップが敵エアロシップとの間に割り込んでくる。
「迎撃戦闘用意……撃ち方始めッ!」
エアロシップを操縦しているのは
八上 ひかりである。
遺跡の外縁部の上空に位置し、味方の護衛のために援護を行っていたのだ。
そこに先ほどの雨海の援護要請を
川原 亜衣がヘッドセットにて受け、駆けつけたのである。
「了解!」
そして、ひかりの号令にあわせて亜衣が固定銃座を用いて、撃ち始める。
その亜衣の攻撃を敵エアロシップも【簡易防御】にて防いでくる。
さらには盾の陣を保ったまま、両端のエアロシップが【ストーンバレット】にて反撃。
それをひかりは【全速回避】にてかわしていく。
「紅蘭麻、お願い」
「任せて下さい」
そして、ひかりの指示を受け、敵エアロシップの死角に回りこもうとしているのは
内川 紅蘭麻である。
サイフォス先行型に搭乗し、【僚機】サイフォス先行型と隊を組んで動いているようだ。
事前に亜衣が装備しているトルーパーライフルを【ウェポンチューン】にて強化してくれている。
さらには負傷時は【簡易処置】にて最低限ではあっても必ずサポートしてくれるはずだ。
紅蘭麻にとってはかなり心強いだろう。
一方のひかりも先ほどから何も考えずに【全速回避】していた訳ではない。
回避しながら、紅蘭麻の攻撃が届くようにと敵を降下させ、誘導していたのだ。
さらには亜衣の攻撃に対する【簡易防御】や敵のかわし方をみて、【弱点察知】にて敵艦の防御の薄い場所に目星をつけていた。
しかしながら、敵の1隻が紅蘭麻の動きに気づいたのか、こちらに向けて攻撃を仕掛けてくる。
「くっ……」
それを何とかかわすも、このままでは死角に入れない。
「援護するわ」
と、それに気づいたひかりも負けじと【支援砲火】にて敵を牽制していく。
その隙に紅蘭麻が死角へとまわりこみ、ついに敵が紅蘭麻を見失う。
そして、射程圏内に入った所でトルーパーライフルによる【エイムショット】で紅蘭麻が狙撃していくのだ。
1隻が狙撃により損傷し、飛行が少し乱れる。
「一気にいくわ」
それを亜衣が見逃すはずはない。飛行が乱れたエアロシップを集中的に固定銃座にて撃ちつける。
一方の敵も仲間の1隻が庇うように前に出て【簡易防御】しようとした所で――……
「これより、十字砲火に入る!」
亜衣の攻撃に気をとられている隙に【僚機】スカイライダーRVerが敵の真横に付けていたのだ。
【小隊陣形】十字砲火にて攻撃し、敵の1隻を離脱させる。
そして忘れた頃に紅蘭麻の狙撃が入り、同じ要領で攻撃を繰り返し、敵を撤退させることに成功した。
「こちらフューラ。
援護感謝します。全員無事です。
引き続き、撤退に向け、移動を続けます」
そこにフューラたちから無線に連絡が入り、彼女たちが無事に逃げ切ったことに安堵する。
ひかりたちもまた警戒し、更なる援護に備えた。
こうしてひかりたちのサポートを受け、隊員を連れた一行は、味方のエアロシップの姿を捉えた。
しかし、近づくには敵のファントム隊を越えなければならない。
また、見つかればエアロシップもすぐさま標的にされてしまうだろう。
様子を覗っていると、敵ファントム隊の前にサイフォス先行型と【僚機】オオカミ乗りが向かっていったのだ。
そのサイフォス先行型に搭乗しているのは
ヒビキ・ヒカリである。
すると、雨海の通信宝珠に
飛鳥 玲人から連絡が入る。
「こちらで時間を稼ぐので撤退の準備を」
「……! 助かります」
玲人遺跡到着時――……
「マリィもしくはマリィ隊、気がつけば応答を……」
実は玲人は遺跡付近についてすぐ、スロートワイヤレスにてマリィと連絡が取れないか試みていた。
そして幸いにもマリィと移動中の春那のスロートワイヤレスと繋ぐことができたのだ。
「こちら春那よ。
夏輝とマリィさんを送迎中。
マリィさんに代わるわ」
春那の【ステガノグラフィー】でのサポートもあり、敵に知られずに、マリィと密に連絡をかわすことに成功した。
「残っているエアロシップに分譲して全員の搭乗を確認次第、撤退を開始するわ。
もう1隻のサポートを頼みたいの」
「こちらでエアロシップ付近の地上部隊を相手しよう」
「ありがとう」
こうして、玲人たちはエアロシップ付近にて、マリィ隊のサポートのため、待機していたのだ。
敵に悟られぬよう、あえて返事をしていなかったのだが、フューラはマリィ隊発見時、移動時、常に無線で報告を行っていた。
それを聞いて準備をしてくれていたようだ。
ヒビキはオオカミ乗りと共に移動しつつ、敵のファントム隊3機を相手している。
とはいえ2対3、敵の攻撃をかわすことで精一杯だ。
敵の【ヤブサメ】による攻撃を【アームディフェンス】で防ぎつつ、時折ビームソードを振りかざし、反撃することで、敵を牽制している。
「ヒビキ、こっちは準備完了よ」
と、そこに玲人と共にいる
飛鳥 クロエから連絡が入る。
ヒビキは器用に敵の【ヘヴィスラッシュ】を【アームディフェンス】で防ぎつつ、押されているかのような素振りをみせ、後方へと下がる。
そして今度は自身から思い切り斬りかかりに行く。
剣が激しくぶつかり合い、互いに1歩後退。そこに感情的になっているように見せかけて、【カモンベイビー】で挑発し、指をくいっと掛かってこいと言わんばかりに数回動かしてみせる。
逆上した敵がこちらに走り来て、3機一気に剣を振りかざす。
すると、そこに玲人が栄光の小瓶を3機に向けて投げつける。
眩さに敵の動きが一瞬止まり、その隙にヒビキが真正面にいる敵の1機に【イラプションブロウ】を見舞う。
両端の敵が慌てて反撃に出ようとするも、今度は横からサイフォス先行型に乗ったクロエが【僚機】ペガサスリッターと共に奇襲をかける。
狙うは敵の視界。ヒビキの戦闘を観察し、【弱点察知】を行っていた玲人は2人に機体のカメラを狙うように指示したのだ。
ペガサスリッターとオオカミ乗りに背後から攻撃を仕掛けてもらい、その隙に畳みかけるかのように動きだす。
ヒビキは【フェイクモーション】を交えながら、混乱させつつ、3機で固まる敵を引き離していく。
一方のクロエは【ラピッドアタック】で素早い突きを見舞い、敵がよろけた所に【チャージ】で力を溜めた一撃を叩き込む。
そこに玲人がホライゾンカービンで【支援砲火】し、敵が反撃できないように援護。
こうして2機程を倒した所で、敵の1機が逃げて行った。
ちょうどその頃、マリィ隊もエアロシップに無事に乗り込んだようであった。
玲人はそのことをマリィたちに報告し、引き続きエアロシップ付近の警後を務めた。