■プロローグ■
――バスティーユ監獄。
「おお、よく来てくれた我が友よ!」
フランシスコ・ピサロによる監獄爆破より時間大分遡る。
監獄深部の独房に囚われた
クリストファーの前に現れたのは、彼がよく知る男だった。
「よぉ、クリストファー。お前もずいぶんと酔狂なヤツだな。名前が同じ英傑を騙るとは」
黒コートの男はタバコを咥え、火を点ける。
「マヤのヤツに叩きのめされ、ここにぶち込まれた……お前、あの女とやり合ってよく生きてたな」
「なに、ワタシは強いからね。勝てずとも負けないように立ち回ることくらいできるさ。
それよりもキミ、わざわざここまで来てくれたということは、ワタシをここから出してくれるんだね?」
「ああ、そのつもりだったが……」
男は大きく息を吐き、首を横に振った。
「気が変わった。お前、もうこのままそこにいろ」
「おいおい、ひどいじゃないか! ワタシの力は間違いなくキミの役に立つ!」
「そうだ。お前は強い。センスもある。特異者として、申し分ないほどにな」
「だったら……」
男の冷めた視線が、コロンブスに刺さった。
「それだけしかねぇんだよ、お前には。
マヤに負けたことで少しは学んだと思ったんだがな」
クリストファーに背を向け、男は監獄を去ろうとする。
「待ちたまえ! キミが言ったんじゃないか! 『地球人こそが三千界の支配者』だと。
それ以外の世界の者たちなど取るに足らない存在――我々の想像が生んだ紛い物に過ぎないと。
だからワタシはそれを証明するため、その力を示して“支配”したんじゃないか!
それの何が悪い!」
「はぁ……分かってねぇな、クリストファー。
確かに俺はそう言った。その言葉に、嘘はねぇ。委員会の連中も“神のアバター”の力もあってか、それを真に受けて図に乗ってやがる。
お前はあの間抜け共と違って、ちゃんと自分の力を――地球人特異者としての利点を十分に使い、力を伸ばした。
だがな、強いだけじゃ本当の意味で支配することなんざできねぇんだよ。
お前は力を誇示するだけで、“理解”しようとしてねぇ」
「分からないなぁ。自分より劣る者の考えなど理解する意味などないだろう!?」
このクリストファーの言葉が、決定的な友との――実際は彼が一方的にそう思っていたに過ぎないが――決別となった。
「断言してやる。もしお前がここを出たしても、その先に待つのは“お前にとって耐え難い、屈辱的な敗北”だ」
クリストファーと最後まで目を合わせることもなく、男――
トラヴィス・フューリーは監獄を出て行った。
■目次■
プロローグ・目次
【3】染められた沼で
【3】現れるヒーロー
【3】相棒
【3】敷かれた布石
【3】重なる脅威
【3】巻き戻される傷
【3】惨劇の予感
【3】異端者と呼ばれても
【3】乙女という秘宝を
【3】防衛戦の始まり
【3】取り戻された拠点
【3】集結する力
【3】闇という光を
【3】壊滅の沼
【3】枯れてしまえ
【3】光を捥ぎ取り
【4】三つ巴の始発点
【4】方舟の守護者達
【4】アークディフェンサー その1
【4】アークディフェンサー その2
【4】アークディフェンサー その3
【4】絆の一撃へ繋げるために
【4】絆の一撃を沈めるために
【4】超越者との戦い その1
【4】超越者との戦い その2
【4】抱きしめる!
【4】三つ巴の結末
【1】人間の防壁
【1】虚空の兵士
【2】狂信の守護者(1)
【2】狂信の守護者(2)
【2】許されざる者(1)
【2】許されざる者(2)
【2】グリムとアデル
エピローグ