■誰もが誰かを思い合っている■
「敵が互いに潰しあってくれるってのはありがたいな。便乗させてもらおう、この機会に教団の戦力を一気に削ぐぞ」
よい機会だと思った
朝倉 蓮だったが……ソロモン派、ゴモリー派と共に戦おうとする特異者がちらほら見える。
彼にとって、開いた口が塞がらない事態である。
「今回のお仕事は魔人の抹殺、ですか……」
頭を抱えている朝倉に、行動指針の変更しますか、と
クロノス・アルハザードは聞くが。
しない、とキッパリ返事が返って来る。
「了解です、マスター。全てはあなたの仰せのままに……」
朝倉の一歩後をついていくクロノス。
「……や、魔人教団の味方するとか無いわ」
そして朝倉と同じ気持ちで頭を抱えるのは
柊 恭也だ。
「派閥毎に手段と思想は違えど、サタン降臨という到達点は同じなんだ。なら皆殺しだろうが」
どれだけ綺麗事を並べても、結果としては同じ。
島風【エンジェリックブーツ】で移動速度を上げて柊は建物の間を走っていく。
柊の前には
エンジェリック・ドレス。エンジェルガードで身を守り、激しい戦いの中、盾になるべく前に出ていた。
白銀の錬金術師は、錬成【銀槍】で銀製の槍を生成し、敵へと投擲する。
「今回偶々派閥で内部抗争してるけど、ぶっちゃけそもそもが敵なんでどんなお涙頂戴であろうとそれは何の理由にもならない」
柊達と一緒に魔人達を倒しに来た
メソスケール・スローテンポだが、現在の状況に呆れた声を上げる。
その隣を走る
アリス・セカンドカラー。
「さぁ、ご照覧あれカミサマ、敬虔なるあなたの下僕が、イヤッッホォォォオオォオウ、カァァァルマノハァァァァ!」
イチジクの葉【パンキッシュゴシックドレス】……一枚のみを身につけたアリスはハイテンションだ。
一度見た教皇様(エマヌエル二世)の姿に敬意を表したその姿。
見られて危険! な場所は、随時フューリーオパール【幻創の魔石】で触手の幻影を出現させて隠し隠しで動いている。
「おう、そこの痴女、その格好は見なかった事にするがちゃんと働けよおい。出落ちとか止めろよ?」
「変態? 変態で悪いかね? 訓練された変態ですが何か?」
呆れた柊に、にこーっと笑顔で返すアリス。
「あっさりやられる気もないしね」
んー、と、ちょっと考えた……らしいアリスの笑顔が、ピンクの空気をまとう。
「しかし、あれね、敵側にかわいい女の子いたらお持ち帰りして
ピ――――したいわー♪ 悪魔の尾でれっつ触手プレイ♪ ぐらいは試したいわねー☆」
「……お前、相変わらずだな」
「ネタに生き、ネタに死す、その生き様になんの後悔があろうか? 自重? なにそれおいしい?」
ふふふ、と楽しそうなアリスを死んだ魚のような目で見る
桂 真白。
(聖騎士とはいったい……わたしは経験が足りないってなれなかったのに、なんであんなのが……)
「さぁ、
性騎士アリスの
性遺物の力、とくと味わいなさい☆」
アリスからエンジェルレイが放たれる……何故か、股間から。
意気揚々と戦うアリスの『せい』の言葉が微妙に強調されている。
(……違う、聖、じゃない、聖じゃ……)
さめざめと泣く桂。アリスが聖騎士を勘違いしているのか、わざとかはともかく、いや、わざとだろうが。
その『せい』じゃない、と泣けてくる。
月光翼で上空から急降下した朝倉は、エンジェリックハルバードで魔人達を横なぎにした。ソルトブレイクでの効果付きだ。
朝倉を援護するようにクロノスも練成【剣の雨】で複数の剣を発生させ、モロク派はもちろんソロモン派、ゴモリー派の魔人達へ攻撃を開始する。
錬成【戦輪】でチャクラムを二つ作り出し、魔獣の首、足を狙い操作する。
そして、注意深く仲間達を狙っているような人がいないか、視線を走らせた。
生体エアバイク-鉄鬼-【生体エアバイク】に乗ったメソスケールの不協和音の効果付きの唄は、敵の精神にダメージを与える。
それから界霊獣ラブを召喚し、仲間達の身体能力を上げて、回復を伴う歌を唄う。
サブアバターにアーライルを持つメソスケールの綺麗な歌声が、歌劇「魔弾の射手」を唄う。
ソロモン派、ゴモリー派の援護に回るという特異者達の目の前に、
納屋 タヱ子は立つ。
「ゴモリー派の魔人クロリスさんって以前、聖遺物の取り合いをして教会側の私達と対立しましたよね? セフィロト教会の権威を失墜させるために臨海地区を崩壊させて、30万人の市民を殺そうとした張本人ですよね? それが少し強い魔人が出たからって、手を組んで。心底見損ないました。そんなことではいつまでたっても三千界の救世を行うことなんてできません」
魔人教団は戦う相手であって、共闘するべき相手ではないと、強く言う。
「今は内輪揉めしてるがそれも手段の相違からだ。サタンに恭順しているとうこと自体は変わらない。それをわかった上でソレらに味方すんのか?」
大きな溜息をワザとらしく付く朝倉。
問題は、どの派閥の魔人達もサタンという絶対的な力を持った悪魔の王のために活動している事である。
悪魔の王が魔人に従うのか。
呼び出してしまえば、結果は同じだと朝倉は熱く語る。
最上 結卦が静かに頭を振る。
「『魔人達の楽園を目指す』というゴモリー派の願いは詰まるところ、この世界に彼女達を受け入れる場所が無かったという事。その事に悲しさを覚えつつもその意思に共感しました」
今後の局面においての教会への協力を交渉しようとも思ってはいるが、それは口にしなかった。
魔人達を援護ことに反対する特異者に向けるべきなのは、自分の心の在り処。
柊達――ローグのメンバーの見解は解る。それに、その意見はこうしてゴモリー派・ソロモン派の援護をしようとしている特異者達も充分に解っている事だろう。
「魔人教団は社会から弾かれた魔人の寄る辺として存続させるべきです。しかし、その勢力図が過激派のグリゴリ派で塗り潰されるのは望ましくありません。此度の戦は比較的、話の通じそうなゴモリー派に助力して、魔人教団の勢力の極端な偏りを防ぎます」
サタンは倒すべきだという朝倉の意見に、
松永 焔子は同意見なのだろう。
結果的には教会側が勝利を収めた後の話を口にした。
「私はこれまでの戦いで、魔人教団の各派閥と実際に接触し、対話を行ってきた。グリゴリ派のキマリスと名も知らぬリーダー、ゴモリー派のクロリス、ソロモン派のセバスチャン……その中でも、ソロモン派は最も『まとも』な組織のようだった」
そう口を開くのは
ディミトリオス・カポディストリアスだ。
「魔人教団の最大勢力はソロモン派のような派閥であるべきだ。グリゴリ派やモロク派の台頭を許してはならない。でなければ、魔人教団はより危険な集団と化してしまうだろう」
ソロモン派の援護に回るというディミトリオスも、教会が勝った後の事を口にする。
とはいえ、未来がまだ決まっていない現在だ。
「己が身命を賭し悪魔を挟み結果的にセフィロトを2分する事に加担しているなら、だ」
しているつもりはないようだけど、そういう事だよ、と。メソスケールは諭す。
「僕達はどの派閥の魔人も等しく捌くよ?」
否を言わせない強い言葉でメソスケールはそう言った。
モブ山 地味子の静かな溜息。
「一先ずはこの混乱を治めることを第一としましょう。そのためならばゴモリー派ソロモン派の双方に協力するのも構わないでしょうが……」
そう思えば、ソロモン派、ゴモリー派に付く特異者の行動も気にしないで済む。
「その逆にこの混乱に乗じ混乱を治める妨げになるのであれば、何れの派閥であろうとも叩かせてもらいます」
あんまり特異者同士戦わせたくないんですよ、と、ディミトリオス達に行って下さい、と手を振った。
一気にソロモン派・ゴモリー派の援護へと走った特異者の背中。
追いかけるように、柊の声が響く。
「今回の内輪揉めだって民間に被害が出てるから鎮圧の為に派遣されたんであって、ゴモリー派とかの援軍って訳じゃない。故に俺達はゴモリー、ソロモン派の処理に当たる。――――モロク派は他の連中が処理するだろ」
これで俺達は敵同士だ、との宣言。
片っ端から魔人を倒すぞ、の、柊の声に再び激しい剣のぶつかり合いが始まった。
今回はともかく、後々モロク派だけでなく、ソロモン派・ゴモリー派魔人達とも戦う時が来るかもしれないのが教会側の特異者だ。
どれだけ情が湧こうとも、魔人の言い分が間違ってなくても。
倒すべき現実は変わらない。変わるかもしれないが、現状、僅かな希望だ。
大局をみろ――その言葉は、情が移った相手を殺さねばならない未来を持つ特異者がその時に少しでも悲しまないようにと――出た言葉なのだろう。
彼らが魔人の援護に回る特異者達に刃を向けるのも――――想いの深さにあるのだろう。生半可な心構えで出来る事ではない。
ソロモン派、ゴモリー派の魔人達の目の前で、自分たちに共感し一緒に戦ってくれる特異者と、特異者の未来を想った特異者の戦いが繰り広げられた。