救う者たち 2
千桜 一姫と
小山田 小太郎は、市民の収容されたモロク派のトラックを発見した。
それは小太郎が逃げてきた人々から聞き出した場所だった。
彼は民から話を聞き、トラックが隠れている場所を見つけたのである。
「ん……潜入……開始」
と、そう呟いたのは一姫だ。
彼女はトラックの近くにいた魔人へと近づき、その背に声をかけた。
怪訝に思い、振り返る魔人。
だが、その次の瞬間には、魔人は一姫の【テンプテーション】にかかっていた。
「おお……さすが……! すごいですね」
素直に喜ぶのは小太郎である。
「ん……」
一姫はそれに最低限の返答しか返さず、【テンプテーション】をかけた魔人を伴ってトラックへと向かった。
それは一種の傀儡状態である。
魔人は一姫の意思に従ってトラックのドアを開け、そこにいた収容者たちと魔人の仲間を驚かせた。が、次の瞬間、さすがの魔人たちも一姫の存在に気づく。
魔人たちは攻撃を仕掛けてきた。
だが――
「…………」
一姫は無言で、しかし素早い動きでどこからともなくハリセンを取り出し、魔人たちをぶっ叩いた。更に、そこから反転。迎撃に備える一姫。
魔人たちの攻撃が彼を襲うが、それを一姫は『水銀刀』で受け止めた。
あまりの早業に愕然とする魔人たち。
しかしその間にも――
「ふっ……!!」
一姫は呼気を発し、凄まじいスピードで魔人たちを貫いた。
それは【サウザンドレイヴ】という技である。高速の連続突き。
その間に小太郎は収容されていたアンダーグラウンドの人々を解放していた。
彼は周りに誰もいないことを確認すると、人々に避難ルートを指示し、促してゆく。
と、次の瞬間に彼にも残っていた魔人の手が伸ばされた。
「っ!!」
だが、彼はそれを一瞬で避け、圧倒的な速度で反撃した。
【明鏡止水】の極地である。研ぎ澄まされた精神は反射神経を一時的に向上させ、彼に超常的なスピードをもたらす。一気に距離を詰めた彼は、魔人を拳の一撃で無力化した。
「ふう……」
息を吐く、小太郎。
「お疲れ様……」
一姫が珍しく、同じ特異者というだけの相手に労いの言葉をかけた。
「ありがとうございます」
微笑みながら言う小太郎。
ずっと、自分でも悩んでいた。何をするべきか、何が出来るのか。
しかし今の彼であればその答えは出そうな気がした。
(仮初めの力……本当は、弱い自分……でも、それでも……守れる人がいるなら……自分はそれを守っていきたいのかもしれない……)
小太郎はそう考え、息を吐く。
まだまだ仕事は終わっていない。市民を安全なところまで導く。それが小太郎たちに出来ることであった。
アードレア・クルセイド、
建築の錬金術師、
第七級祓魔師、
タバサ・エクセリオ、
ティルザ・クルセイドの五人は、共同でトラック制圧作戦を開始していた。
それはまず、モロク派の魔人に変装したタバサが、トラックの運転手に【テンプテーション】をかけて乗り込むというものだった。
変装程度では魔人を騙すことは出来ないが、少なくとも【テンプテーション】には引っかかってくれたようだ。
タバサの魅力に魅了された運転手は、彼女の指示通りにトラックを行き止まりまで運転していった。
無論、それに不信を覚えない魔人たちではなかった。
彼らは助手席に乗り込んでいるタバサが偽者であると分かると、すぐに反撃に打って出ようとした。
が、その瞬間。
「よし、今だ! 行こう!」
アードレアの一言で、残りのメンバーが動き出した。
四人は一気にトラックを包囲して、強襲をかける。
タバサがアタックナイフで魔人に立ち向かったところで、アードレアもトラックに乗り込む。
彼女は【エンジェルラッシュ】で攻撃。憑依した天使の連続攻撃が、魔人を次々とぶっ飛ばした。さらに、彼女は魔人に【ヘヴングラップル】をかける。
関節技が、魔人の多くを無力化させた。
その勢いと強さに恐れを成したのか、運転席に乗り込んだ魔人がトラックごと逃げようとする。
だが――
「お生憎様! 絶対に逃がしたりしないわ!」
そう言ってトラックの行き先をバリケードで塞いだのは、ティルザだった。
さらに建築の錬金術師が【鉄壁】の錬成で壁を作る。トラックは逃げ場を失い、その場所でギィァッと停まった。
その間に第七級祓魔師は、市民を守るために【大天使の盾】を作り出している。
盾は市民の安全を守り、どうにかトラックに死者は一人も出さずに済んだ。
「ふぅ……何とか、終わったね」
と、呟くアードレア。
「さーてと、後はこのトラックで大聖堂まで向かうだけよね」
そう言って、運転席に乗り込むのはタバサである。
彼女は自動車運転のスキルを持っていて、トラックの運転も難なくこなせるのだった。
「無事で終わって何よりね」
と、ティルザは言う。
その言葉にアードレアも頷いた。
とにかく人々を救えたことが何よりだ。
人々が笑顔を浮かべるのを振り返りながら、アードレアは心の底からそう思った。
風間 瑛心、
運搬者、
タイガ・ヤカゲの三人はトラックの出発を阻止しようとしていた。
モロク派の魔人を装い、瑛心はタイガに一般市民の生け贄のふりをさせてトラックへ乗り込もうとする。
が、しかし――
「おい、ちょっと待て」
「…………」
瑛心は他の魔人の仲間に止められてしまった。
やはり、さすがに騙しきることは難しいのであろう。
だが、幸いだったのはタイガがすでにトラックの荷台に乗り込んでいたことだ。
瑛心は彼に目配せをすると、完全に正体がバレる前にすかさず行動を移した。
悪魔を憑依させたことで上昇した身体能力を駆使し、敵の魔人に肘鉄を食らわず瑛心。さらにそこから反転し、彼は【シャイターンハンド】の一撃を食らわせた。
ゴッと鈍い音がしてくずおれる魔人。
他の魔人たちがそれに気づいて驚きの表情を浮かべるや、タイガがすでに動き出していた。
「行くぜ! レーザーダガーッ!」
【アクティベート・ハンドウェポン】で生み出した『レーザーダガー』を駆使し、相手を無力化させるタイガ。
それから素早く、彼は【クイックブレイク】で二人、三人と別の魔人も気絶させた。
高速の連続攻撃。あっという間の鎮圧に、タイガは得意げだった。
「へへ! やったぜ、瑛心! なっ!」
「……ああ、そうだな」
瑛心は無骨に答える。
その冷静沈着な彼がトラックの荷台にいる捕らわれた人々を数え終えると、運搬車が運転席に乗り込んで準備が整ったことを告げた。
「……よし……あとはこれで避難させるだけだ」
瑛心は言う。
運搬車の運転で、彼らはトラックに市民を乗せたまま安全圏まで避難した。
喜多村 勇華は【祓魔の印】を使って周囲の魔人を遠ざけさせた。
それは聖なる紋章であって、悪魔や魔族の類が近づきにくくなる。その間に、
サリバン・カートライトはトラックの運転手に向かって【テンプテーション】をかけていた。
「……ッヒヒ! 何処へ行くんだァ……?」
「ひっ……!?」
魔人が驚くのも束の間、そいつはサリバンの目に魅了される。
サリバンはそのままふらついた魔人を伴ってトラックまで移動しようとした。
が――もちろん、異変に気づかない魔人たちではない。
トラックの運転手がおかしくなっている様子に気づいた魔人たちは、サリバンらを発見。そしてすぐに迎撃態勢に移った。
だが――
「ラ、ライトブリングっ!」
勇華の放った【ライトブリング】の光が目くらましとなる。
その隙に、
杠 夢が魔人たちの間へ飛び出した。
「ま、手っ取り早く終わらせる」
そう言って夢は斧を振り回し、【ブラッドブレイド】によって攻撃。
血液を纏った攻撃は魔人を切り倒して無力化し、辺りに鮮血を撒き散らした。
近くを警戒するのは
メフィストフェレスである。
メフィストフェレスは魔人の増援が近づいてきたことをサリバンたちに告げ、それを聞いたサリバンたちは急いでその場を離れることを決める。
「ヒァハぁッ! 野郎ども、懲りねえなァッ!」
「サ、サリバンさんっ、い、急ぎましょう!」
と、そう言ったのは勇華だ。
彼女は荷台で傷ついた人々に【ホーリーキュア】をかけながら言った。
夢やメフィストフェレスもトラックに乗り込む。それを確認して、サリバンはトラックのエンジンをかけた。
「しっかり捕まってろよォッ! なんせ……俺様はトラックなんて運転したことねぇからなッ!」
「………………えぇぇぇぇぇぇっ!?」
勇華が悲鳴をあげるのも構わず、サリバンたちの乗ったトラックは乱暴な運転でその場を離脱した。