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アンダーグラウンド動乱

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アンダーグラウンド動乱
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救う者たち 1


「あれね……収容者を乗せたトラックは……」
 そう呟いたのは、特異者の聖騎士である相田 弘美だった。
 彼女はアンダーグラウンドの市民が捕らえられているモロク派のトラックを見つけると、さっそく【エンジェルレイ】で一筋の光条を空に放つ。
 それを見た三千院 百花が、すぐにそちらの光の方角を見た。
「あれはっ……弘美か! なるほど、もう見つけたというわけじゃな!」
 そう言って百花は光の筋が示した方角へと急いだ。
 二人はすでに、あらかじめ作戦の内容を決めていた。
 空からトラックを探すのは弘美の役目。そしてそれを発見次第伝え、地上から急ぎ駆け付けるのは百花の役目だった。天使を憑依させて空を飛べるとはいえ、軽く走る程度のスピードしか出ない弘美には、トラックを追いかけるのは難しい。
 そこで、百花が先に追いかけてトラックの足止めをする作戦だった。
「見つけたぞ! そら、そこのトラック! 待つんじゃっ!!」
 駆け付けた百花は、鉄壁を生み出す錬成術を使って、トラックの進行方向に鉄の壁を生み出す。建物の床や壁から突き出た壁は、トラックが行く道を防いだ。
 ギィィィィィッ!
 猛スピードで、急ブレーキをかけるトラック。
「今よ、百花! 一気に片付けてしまいましょう!」
「よしきた!」
 追いかけてきた弘美と共に、百花はトラックへと襲いかかった。
 その動きはまさに突風のようである。百花は【剣の雨】と呼ばれる錬成術で無数の剣を生み出し、弘美は空から【エンジェルレイ】を放つ。その光のレーザー砲のような攻撃と、宙を舞う剣によって、魔人たちは次々と打ち倒されていった。
「さあ、みんな! 今のうちに逃げるのよ!」
 叫ぶのは、弘美だ。彼女はすでに空からトラックを追いかけていた時に、逃げるためのルートを視認していた。
「こっちじゃ! こっちじゃ! 急ぐんじゃ!」
 トラックは炎上。爆破。
 いつまた魔人と魔獣たちが追いかけてくるとも限らない。
 弘美たちは必死に市民を逃がすことに奔走した。
 そして――
「やりますね、皆さんも」
 遠く離れたところでその騒ぎを聞いていたのは、風間 那岐だった。
 彼は右手に天使兵装の銃。左手に悪魔兵装の銃を握りしめている。彼はそれを【ダブルポゼッション】の力で完全に制御していた。そして、その身体には聖霊を身に纏っている。
(救出のため――風間那岐、行きます!)
 そう心の中で叫んだ那岐は、影から一気にトラックへと襲撃をかけた。
 まだトラックは出発していない。今のうちに囚われている市民を救い出そうという意図だった。そしてそれに協力するのは――同じく二挺拳銃を装備している御影 太郎たちである。
「よく見つけたねぇ、風間さん。その情報力には感心するよ」
「私は何もしてませんよ。全ては市民の皆さんの協力のおかげです」
 と、那岐は太郎にそう言うが、それは事実だった。
 彼は逃げてきた市民の人々に聞き込みを行い、そこでトラックの隠れている場所を知ったのである。こうして不意打ちのように敵を襲撃出来るのも、そのおかげだった。
「よっしゃ……んじゃ行こう。遠慮はいらんよな」
 と、太郎は尋ね、那岐が頷くのを見る。
 それから彼はパートナーのメリナ・フィッツジェラルドに視線を移した。
「メリナ君も…………えー、くれぐれもトラックをひっくり返さないように」
「あいあいさもんじゃーっ!」
 メリナは手を振り上げて大声を出した。
 返事だけは元気がいいが、果たして本当に大丈夫か? 心配である。
「よし、行きましょう!」
 那岐の言葉を合図に、彼らはトラックへと襲撃をかけた。
 まず先に那岐はトラックのタイヤ目がけて銃弾を撃つ。バシッ、バシィッ! と、甲高い音を立てて穴を開けたタイヤが、ぐしゃっと潰れた。
 それに気づいた魔人が、トラックから飛び出してくる。
 が。
「させねえよ」
 呟いた太郎が二挺拳銃の火を噴かせる。
 その瞬間、魔人たちの身体が風穴を開けて吹っ飛んだ。
「邪魔もんじゃ!」
 大勢を相手に一人一人で戦うのは面倒臭くなったのか、メリナは大技の【ヘブンアンドヘル】で敵を一気に薙ぎ払う。その力は取り囲む魔獣を次々と引き裂いていった。
「さあ、早く! 今のうちに皆さんを!」
 ドウッ! ドドウッ!
 那岐が拳銃の引き金を引きながら叫ぶ。
「よしきた。さ、みんな出ろいっ!」
 太郎がトラックの傍に急いで駆け付け、そこに収容されていた人々を助け出した。
 無論、メリナもそれを手伝う。人々の解放に当たっている太郎が狙われぬよう、彼女は関節技を用いて魔人を戦闘不能に陥らせていた。
「これで間接バッキバキもんじゃ」
「うわー、かわいそうに……」
 むしろ魔人のほうに同情を覚える太郎である。
 が、まあしかし、それはともかく。
「これで無事に全員を助けられたでしょうか……?」
 トラックから人々を救い出した那岐は、そう呟いた。
「さあねぇ……ま、何とかここら辺にいた連中は助けただろうけどさ」
 太郎は首をすくめつつそう言う。
 全ての人々の解放までは、まだまだ時間がかかりそうだった。


 紅花 霞憐はトラックの後ろである荷台側から近づくと、そこを守っていた魔人に向かって【インファイト】で一気に距離を詰めた。
 そして、一撃。
 ドウッと腹部を蹴り上げた後は、上段回し蹴りで顎を捉えた。
 骨を削るような鈍い音が響くと、敵はどさっとその場に倒れる。一撃による昏倒。霞憐はにやっと笑って運転席側にゆっくりと移動した。
 彼女がこうしてトラックの位置を掴めたのは、ユウ・クワトのおかげである。彼女は街の住民に聞き込みを行い、トラックのある場所を見つけたのだった。
「霞憐さん……大丈夫ですか?」
 小さな声で彼女が囁くのを霞憐は聞き届ける。
 霞憐はユウに向かって頷き、それから運転手に近づいていった。
 最初は非戦闘員の振りをして。そして怪訝に思った運転手が出てきたところで、彼女は身体をすり寄せ、【テンプテーション】をかけた。それは敵一人であれば幻惑をかけて魅了することのできるスキルである。
 霞憐は魔人が自分に夢中になっている隙に、【影使い】の能力で自らの影を使い、その魔人の後頭部を強打した。
「ぐぁっ!?」
 魔人は苦悶の声をあげてその場に倒れる。
 遅れて、ユウがやって来た。
「す、すごいですね……これがテンプテーションの力ですか……」
「……敵一人ぐらいにしか有効じゃないけど」
 と、どこか無気力感の漂う声音で霞憐は呟く。
 二人はそれからトラックに収容されている人々を助け出した。
 しかしその時である。
「な、なんだこれはっ!!」
 トラックから離れていた魔人たちが戻ってきて、事態の混乱を知ったのだった。
 無論、ユウも霞憐もその場で慌てふためくだけではない。すぐに頭を切り換え、迎撃に当たり始めた。
 彼女は『デモンハウリング』で敵を牽制すると、続けて『エンジェリックソード』で斬りかかった。その足には『エンジェリックブーツ』があり、彼女に憑依する天使が、彼女のスピードを上げている。
「はぁぁぁぁぁッ!」
 ユウは【ホーリーゴースト】によって聖霊を身に纏いながら、敵を次々と倒していった。
 その姿はまさに聖騎士そのものだ。
 さすがの魔人たちも分が悪いと判断したのだろうか。一部はすぐに逃げ出していった。
「……まずい」
「え?」
 霞憐の呟きに、ユウは振り向く。
 彼女はすでに物憂げな表情を見せていた。
「敵が逃げた。……もしかしたら、大変なことになるかも」
「…………」
 そう呟いた霞憐の顔に、ユウは不安を感じざる得なかった。

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