クリエイティブRPG

アンダーグラウンド動乱

リアクション公開中!

 0

アンダーグラウンド動乱
リアクション
First Prev  19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29  Next Last

脆苦戦―トラウマを越えて― 4



「くっ……」
「アルヤ……だいじょうぶ?」
 苦しげに頭を抑えて、立ち止まったアルヤァーガ・シュヴァイルの顔を、シュナトゥ・ヴェルセリオスが心配そうに覗き込む。
「トラウマを引きずり出す……か。トラウマと言っても思い当らないボクたちは平気だけど、アルには何かあったのかな?」
 共に行動する朝倉 ひかるも足を止め、アルヤァーガを見守る。
「他者のトラウマを引き出すとはまさに悪魔の所業でござるね。思い出したくも無いものを強制的に思い出させるその姑息な手口……虫唾が走るでござる! なんとしてでも打ち倒すでござるよ!」
 柳生 由紀は憤慨しつつ、新手の攻撃に備えて【エメラルド・タブレット】による盾を錬成し、辺りを警戒する。
「トラウマは……おおかれ、すくなかれ……たぶん、だれにでもある……それを、ほりかえしたら……だめ……」
 アルヤァーガ以外にも、脆苦の精神攻撃によって、近くで苦しんでいる者たちを目に写し、引きずられないようにシュナトゥは【蒼銀翼のチャーム】を握りしめる。
 そうして少しでも、トラウマに苛まれているアルヤァーガの手助けになるようにと、シュナトゥは【エンジェルウィンク】を発動する。
 他人が出来る手助けなど、その程度だ。こればかりは、自分自身で乗り越えてもらうしかない。

 アルヤァーガを苦しめるトラウマとは、彼が提案した試合で彼の親友の腕を潰してしまったことだ。
 三千界に来て以来、アルヤァーガはずっとその事を後悔し続けていた。
 けれど、十分間のみ地球に帰還することを許された時、その傷を治療する機会を得た。
 その時、親友の真意も知った。
 アルヤァーガにとっては、トラウマとなってしまったその試合を、彼は愉しかったと言ってくれた。
 そして再戦を誓ってくれた。
 だから、最早この事で、アルヤァーガは迷うわけにはいかない。
 アルヤァーガとの再戦を心待ちにする親友の為に――。
「トラウマは、その人が乗り越えてこそ意味があるもので……他者が引き摺り出して利用するものではないだろう」
 アルヤァーガは自らの経験から、絞り出すように言う。
「だから、他者の想いを……それを利用する重さを……俺が奴に教えてやる!」
 親友との思い出に支えられ、奮起したアルヤァーガは脆苦を睨みつける。
 【レッドバタフライのストラップ】の効果で身体能力、魔力ともに効率よく扱える状態を保ち、アルヤァーガは翠玉碑【抗黒】の盾錬成能力を用い、一人用の盾を両手に瞬時に創り出す。
「やりましょう! ちょうどあの『ホーホッホッホ』って笑い方がどこぞのセールスマンみたいでイラッと来るのでぶっ飛ばしてやります!」
 ひかるは【聖騎士の鎧】を身にまとい、【エンジェリックブーツ】で速度増加と飛行能力を強化した状態で、低空飛行で脆苦との距離を詰める。
「奴を倒せば、他の皆も助かるはずでござるよ!」
 由紀は、【風刃紋の錬成手袋】を使い、【水銀入り小瓶】を触媒に、魔風を纏った【斬糸】を錬成し、続いて【銀槍】を生み出す。
 錬成した斬糸は何時でも放てるように手に巻き付け、銀槍を構える。
「ちゅーにびょーとかも……ほりかえしたらだめ……て、ほらいぞんのとしょかんで…みた……だから……たおして、これいじょうは……やらせ、ない!」
 シュナトゥは、【エンジェリックブーツ】で移動速度を上げ、アルヤァーガ、ひかる、由紀の動きと合わせながら駆ける。
 脆苦と一定の距離を保ち、後方から【先の先】で脆苦の攻撃を読むよう努めながら、動きの予兆を感じ取れば、牽制の一撃として【ソルトブレイク】を弾丸に乗せて放つ。
「脆苦覆臓、討たせてもらうぞ。俺の全力で! ――方天白華」
 ひかると由紀と足並みを揃えながら、脆苦の懐に飛び込んだアルヤァーガは、両手の盾を消し、【哲学者の水銀】を用いて己に錬成できる最高の【銀槍】を錬成する。
 【チャージ】で全力まで力を溜め、【投擲術】で脆苦へ銀槍を全力で投げつける。
 脆苦が正面から槍を弾き返したタイミングを狙って、由紀が錬成した【斬糸】を脆苦の腕へと巻きつける。
 そこに【ダブルポゼッション】で、【エンジェリックティアー】と【デモンハウリング】に宿る天使と悪魔を自身に憑依させたひかるが、【ゴッドクロス】による連撃を叩きこもうとした、その時、脆苦の体から強烈な炎が上がり、拘束していた糸が溶け落ちる。
「逃げろ……!」
「危ない!!」
 【ホーリートーカー】に耳を傾けていたシュナトゥと、【慧眼】で脆苦の動きを観察していたアルヤァーガが同時に叫ぶ。
「くっ……」
 その声に、即座に【エメラルド・タブレット】で盾を構えた由紀は、ひかるの手を引き、脆苦の炎を受けながら後方へと飛びのいた。


 姫川 未雨のトラウマは、親に言われ続けた「1番になれ」との言葉だった。
「ひっ……」
 地球に居た頃は、吐き気がするほど聞かされ続けた言葉が、聞きなれた親の声音で何度となく未雨の耳元で再生される。
「1番に……ここでも……1番にならないと……私が……」
 ぶつぶつと小声で呟きながら、未雨はその場にしゃがみ込む。
 耳を塞ぎ、身体を縮めこませても、どこまでも追ってくる声に、未雨は発狂しそうになる。
「わ、わたしは……いちばんに……上に、負けちゃ……でも、これい、これいじょう」
 頑張っても頑張っても1番になれなかった自分を、親は受け入れてはくれなかった。
 そのせいで、未雨は自分の存在意義を見失ってしまっていた。
 今も、ひたすら強さを追い求める自分は、もしかして変わっていないんじゃないかと、未雨は新たな不安に襲われる。
 ここでも負ければ同じように――。
 けれど、崩れかけた未雨の目に、首から下げたネックレスが映る。
 そこには、「スタジオつゆり」のメンバーと共に、未雨が闘った絆の証の【セピアフィルム】が、一コマ分あしらわれている。
 それを見て未雨は思い出す。
 一番で無くても、存在を認めてくれる人が、今の未雨にはいること。
 強さを求めるのは、自分が自分である為の純粋な欲求だ。
 一番になるのが目的ではない。己の限界を知るためだ。
 負けても、全力で戦って、ありのままを見せられればそれで良い。
 「わたしはぁ! わたしで! ええんやぁ!」
 晴れ晴れとした顔で未雨は叫ぶ。
「またせたね……じゃあ戦おうか……」
 未雨は【チャージ】と【狂戦士の膂力】で力を溜め、脆苦へ向かって武器を構える。
「ほう、立ち直りましたか」
 余裕の笑みを浮かべて立つ脆苦に、未雨は【スマイト】で捨て身の攻撃を仕掛け、手にした小型パイルドライバー【Mordwerkzeug】を未雨の体力が尽きるまで奮い続けた。
First Prev  19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29  Next Last