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アンダーグラウンド動乱

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脆苦戦―トラウマを越えて― 2



「ぐああああ」
 脆苦までもう少しで攻撃が届くという所で、急に苦しげに叫び、その場に蹲った佐久川 燧に、驚いてラヴィーネ・リヒトレーヴェ神志那 イツルが足を止める。
「いけない! 脆苦の精神攻撃にろっしーが……」
 普段は底抜けに明るい彼だが、パートナーであるラヴィーネは、彼が抱えたトラウマに苦しんできたことを、傍で見ていて知っている。
「俺が前に出る」
 二人を庇うように前に進み出たイツルは、脆苦が放つ火炎の火の粉を同じく【地獄の炎陣】の炎で振り払う。
「俺には大したトラウマないから精神攻撃はダイジョーブだ」
「頼んだわ! あたしはろっしーの援護に」
 燧の背後に回り込んだラヴィーネは、【癒しのルーン】を翳す。
「この戦い、あなたの為にも負ける訳には行かないわ。必ず乗り越えて頂戴」
 ラヴィーネの必死の願いが届いたのか、荒い息を吐きながら燧はちらりと視線をラヴィーネへと上向けた。
 けれどすぐに、燧は額を両腕で覆い、目を見開き、再び苦しげに身悶える。
 
 燧をこうまで苦しめるトラウマは、幼い頃の家族との確執だ。
 目を合わせた記憶も名前を呼ばれた経験もない父親。
 十歳年上の兄と自分との扱いの差に、納得がいかない日々が続いていたが、旅先で父親の機嫌が良い時を見計らって、自分達に母が居ない理由を尋ねた燧に告げられた事実は、あまりに残酷なものだった。
『お前が殺した』
 実際は、燧が生まれる際に早産だったことと、母親の体調不良が重なっての不幸な事故だったが、それを父親は受け入れられなかったらしい。
 全て燧のせいだとすることで、どうにか自分を保っていられるような、弱い人だった。
 そしてその言葉は、まだ七歳だった幼い燧の心を深く抉った。
 その一件を受けて、当時高校生だった燧の兄は、父親から燧を遠ざける為、家を出た。
 兄との生活は、父と暮らしてた頃とはくらべものにならない程穏やかな日々で、燧も徐々に日常を取り戻しつつあった。
 けれど、今度はその兄もまた五年前に、失踪。
 これまで以上の孤独に押し潰されそうになった燧は、特異者としてワールドホライゾンに呼び出されるまで、感情を殺し、他者と全く交流を持たずに生きていたのだった。
 そんな燧が自分を取り戻し、笑えるようになったのは、この世界で出会った、新しい仲間たち――何度突っぱねても諦めなかった、お節介な友人たちのお陰だ。
 今も、蹲る燧の前には、イツルが、そして後ろにはラヴィーネが寄り添うようにぴったりと付き従っている。
「……燧」
 普段は愛称でしか呼ばないラヴィーネが、祈りをこめて燧の名を呼ぶ。
「あーもー! 早く正気に戻りなヨ」
 燧の方を振り向いたイツルは、燧の服に手を突っ込み、燧がいつも肌身離さず持っている、小さなハート型のアクセサリーを取り出す。
「それは……」
 無意識にか、手を伸ばした燧にイツルが手渡してやると、ハーモニカの音に乗せて、燧の大切な恋人からのメッセージが再生される。
「前ギルドで話していた時にきいたことがありましたのん。再生すると恋人が吹いてくれた曲が入ってるって。きっと愛の力が燧を救ってくれるはずデス☆ウフフ」
 イツルの言葉通り、彼女の燧への想いがたっぷりと込められた、心の籠った演奏は、燧の深く過去に囚われた心を一気に今へと引き戻してくれる。
『まだ燧には帰るところがある』
 まるで彼女がそう言っているようで、燧は口元を綻ばせる。
「ああ……そうだな。心配をかけて悪かった。もう大丈夫だ」
 立ち上がった燧は、イツルとラヴィーネの顔を交互に見る。
「よーし、こっから反撃開始デス☆」
「行くよ、ろっしー!」
「ああ、生きて帰ろう。勿論、……ヒトの記憶を引っ掻き回した、礼は返してからな!」
 そうして燧達は、脆苦への攻撃の機会を伺った。


 周りの特異者たちと協力し、脆苦が率いてきた魔獣たちの相手をしていたエクティア・ユナイルは、突如目の前に現れた両親の姿に目を見張った。
 しかし即座に、これが脆苦による精神攻撃の結果だと冷静な頭で思い至る。
「私のトラウマを引きずり出す? 両親への感情? ……そんなものはない。消え失せろ、塵が!!!」
 問答無用で【ピストル】を構え、【ミリシアシュート】を両親へと向かって撃ち続ける。
 それでも幻が消えないと分かると、【Silber Fang】を振りかざし、首元から胸元にかけて一気に切り裂いた。
「おのれ……忌々しい残像め……」
 幾ら攻撃を与えようとも、両親の影は揺らめくだけで一向に手ごたえがない。
 息を荒くしながら、エクティアはじりじりと後ずさる。
 さっきまで魔獣たちに囲まれていたのだ。
 今エクティアの目に映るのは、トラウマと言うべき両親の姿だけだが、状況は何一つ変わっていないはずだ。
 【エンハンスドボディ】で強化した体には、魔獣程度の攻撃は効かないが、ダメージが蓄積すればいつかは追い込まれてしまう。
「くそっ……何故消えない……どうして……!」
 両親をこの手で抹消することに躊躇いは無い。それなのに、何度斬りつけても消えてくれない残像に、エクティアは焦燥感を募らせる。
 このまま戦いを続けていても、結果は見えている。
(未だ、私はトラウマに囚われたままだ)
 勝機を見いだせなくなったエクティアは、【ハイドアタック】で背後の崩れ落ちた建物の壁の影に隠れつつ、やむを得ず撤退を決めた。


 小林 若葉と並び、脆苦と対峙したリム・アルタイルは、生まれ持ったトラウマに、武器を持つ手が震え、足を竦ませる。

 魔人の子として生まれたはずなのに、悪魔はリムに見向きもしない。
 その上、リムが唯一憑依出来たのは、天使だった。
 悪魔が自分に憑依しないのは、見下されているからだと、リムは昔から酷い劣等感に苛まれていた。
 特異者となり、アバターで魔人にはなれたものの、未だ【デモン・コア】の悪魔には認めれないようで、上手く扱うことも出来ず苦戦している。
 それもこれも、全てが生まれもっての才の無さだと、リムはうなだれる。
 
 祓魔師としても、魔人としても十分な鍛錬を積み、【聖なる徽章】も手に入れている。
 あとはこの場で実力を認めてもらい聖騎士になるだけだ、と気合いを入れて脆苦との闘いに挑んだものの、大事な一戦でもし憑依する悪魔にそっぽを向かれたら、と考えてしまうと、思う存分戦える気がしない。
 【プリンスポゼッション 】で憑依した天使の力で、【エンジェルスマッシュ】と【エンジェルレイ】で脆苦へ攻撃を加えつつも、それだけではリムは本当の意味で戦いに挑んたとは言えない。聖騎士になる為には、天使も悪魔も等しく操れなければならない。
 
 精神が不安定になったリムは、力を貸さないデモン・コアを全力で握り潰そうとする。
「フフ……この状況でもまだ扱えない……そんな物は…いらない」
 すっかり闇に染まったリムの心と、デモン・コアの闇の力が呼応する。
「もしかして……」
 初めてすんなりと手に馴染んだ【デモン・コア】を感じて、今ならやれるとリムは確信する。
「魔人教団同士で潰しあいは勝手にすればいいのです。でもやり方が気に入らないのです」
 淡々と【クリムゾンソード】を脆苦へと斬りかかる若葉と共に、リムは【デモン・コア】を用いた【シャイターンハンド】を奮った。 
 
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