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アンダーグラウンド動乱

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アンダーグラウンド動乱
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脆苦戦―トラウマとの対峙― 4



「さて、では残りの方たちを片づけましょうか」
 その場にうずくまり苦しんでいる者がほとんどだが、中には元々トラウマを持たない――或いは、既にトラウマを克服済みの特異者たちも居る。
 
 ふわふわとした足取りで脆苦の前に歩み出たティアラ・ティンクルは、開口一番「やぁ」と気軽に脆苦に声をかける。
「やあ……始めまして……特に『旧約聖書にすら記されて居る』モロク、本来なら今から直ぐ潰し合っても善いが……貴方々(あなたがた)に御許し(御許可ヲ頂けるならこんな雑魚い愚僧にも挨拶させてくれよ! ……勿論最後まで聞いて頂ければ貴方々の『神への反逆の口実程度』は謹んで聞いて差し上げるぜ?」
 長い口上と、独特の喋りに脆苦は一瞬面くらうが、それもまた面白いと感じ、「なんでしょう?」と先を促し、好きに喋らせる。
「……妾は『魔女狩り救世僧』しかも『最兇の聖母』、その他諸々の、『ティアラ・ティンクル(愛輝)・フォン・リーデンベール・オニガシラ(鬼頭)』と言う野蛮な輩だ……
 貴方々の様な背徳(チミモウリョウ)から、一立方メートルでも多くの宇宙空間を救済する為に! そして『血に関して潔白な死肉』目当てに!この戦に加わった! ……勿論……『黙秘権』も御捧げすんぜ!?」
 言うや否や、ティアラは、様子見に「ルミナ」を一発脆苦にお見舞いするが、全くダメージを感じなかったのか、脆苦は不気味な笑顔を張りつかせたままだ。
「何を仰っているのかとんと分かりませんが……まあ、消えて頂くに越したことはないでしょう」
「おっと、危ねえな! っと、妾にはこっちの方が向いてるかね」
 脆苦の吐き出した炎を避けながら、ティアラは近くで脆苦の精神攻撃に倒れている仲間たちの方を見やる。
「戦いは他の者たちに任せるとするぜ」
 ティアラは祈りを捧げ、【良質なハーブ】を手に、傷つき倒れた仲間たちの回復へと向かった。


 御巫 千歳は【完全憑依Ⅲ】で天使兵装【Burial】と悪魔兵装【Inferno】の二つを憑依し、【ホーリーゴースト】のオーラを纏うと、自身の攻撃力と防御力を高めた状態で、脆苦へと立ち向かった。
「一般人のみならず、派閥は違えど同じ魔人教団の連中まで手に掛けるとは……流石に胸糞悪いな……」
 吐き捨てるように言った千歳は、【Burial】の銃弾を脆苦に向けて放つ。
 並大抵の攻撃では傷付けることが出来ない脆苦のブロンズ製の身体は、銃弾を弾くが、元より銃弾は牽制にすぎない。
「『Burial』、『Inferno』……さぁ、存分に暴れるぞ……」
 脆苦が銃弾を弾き、僅かに後ずさった隙を狙い、千歳はすかさず脆苦との間合いを詰め、【ゴッドクロス】による連撃を決めた。
「くっ……」
 よろめいた脆苦は、千歳を遠ざけるべく【地獄の炎陣】を放つ。
 脆苦を取り囲むように炎が舞う。
「やはりモロク。逸話通り火を操るか……ならば」
 【Inferno】の力を借り、炎を宿らせた千歳は、己の炎で脆苦の炎に対抗する。
「さて、アンタの火と俺の炎……どちらが上か、勝負といこうじゃないか」
「愚かな……これが私の本気の炎だとでも思っているのですか」
「何――!?」
 脆苦の炎が一際大きく燃え上がったことで、今までにない気配を察知した千歳は、瞬時に身を翻し脆苦から距離を取った。
「ホッホ、賢い判断です。ほんの少しでも触れていれば、あなたは骨まで溶けていたでしょうね」
 崩壊した建物の残骸が散らばる床で、真っ赤に燃えて飴のように溶けて行く鉄骨を眺めて、千歳の背中を冷えた汗が伝っていった。


「すぐに楽にしてあげましょう……」
 次の攻撃に移ろうと振り上げた脆苦の腕が、錬成で創り出した【斬糸】に絡め取られる。
「――そこに。呼ぶ声、有る限り、応えよう。世界の涯てを越えてでも」
 ゆっくりと瞬き、正面の脆苦を見据えたエリル・アライラーは、仲間たちが脆苦と戦っている間に整えた罠を発動させる。
 捕らえられた右腕に、脆苦は不思議そうに首を傾げた。
「おや……これは?」
 何が起きたのか、まだ理解が出来ていない脆苦の足を、エリルの【鉄壁】が囲い込む。
 エリルは、脆苦の攻撃の特性と、己の攻撃の性質を冷静に見極め、脆苦の拘束とその能力の封印に努めるべく、錬金術の下準備を整えていたのだった。
 周囲の仲間たちの中には、脆苦からの精神攻撃を受け、動けないままうずくまっている者たちもいるが、幸いエリルにはトラウマらしいトラウマもない。
 強いて言うとすれば、それは過去ではなく、今にある。
 もし、脆苦という強敵を前にして、何も出来ず立ち尽くすだけの存在に成り果ててしまうなら、その瞬間に、それこそがエリルのトラウマとなって、この先もずっとエリルを苦しめることになるだろう。
 だからこそ、エリルは彼に立ち向かう。今この時を、トラウマにしてしまわない為に。
「どうした。モロクとやらの力はその程度か。否定するのであれば、その脚の拘束を自慢の炎で溶かしてみると良い」
 鉄壁による、2mの重量物の障害、そして脆苦の体を構成するブロンズの融解温度と、彼を拘束する鉄壁の融解温度を見越しての挑発だったが、脆苦は動揺も見せずニタリと笑った。
「こんなもの……私の炎を使うまでもありませんよ」
 言って、脆苦は重たい足を一歩とエリルの方へと踏み出した。
「何!?」
「流石に平然と……と言う訳にはいきませんが、普通に動くくらい訳ありません」
 残念でしたね、と笑う脆苦に、エリルは咄嗟に距離を取る。


「大物狙いもいいけどさ……皆こっちを放置しすぎでしょ」
 東城 一は、まだ脆苦の周囲に屯している魔獣たちに背中を向けている仲間たちを眺め、呆れたように言う。
 確かに、魔獣たちの攻撃によって、致命傷を食らうことはないだろうが、決して無視して良い数ではない。
 不意打ちを食らえば、ダメージをもらうのは確実だ。
 一はそんな、前だけを見ている仲間たちの背後を守るべく、魔獣たちへ向けて【リーブラチップ】を弾く。
 威力はないが、注意を反らすだけでも充分意味がある。
 正確さを求める時は【静の呼吸】で集中力を上げ、遠方の敵を狙う時には【チャージ】と【動の呼吸】で威力を上げ、敵を正確に撃ち抜き、一は仲間たちの背後を守る。

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