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アンダーグラウンド動乱

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アンダーグラウンド動乱
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脆苦戦―トラウマとの対峙― 2



「いい加減、あなた達も気づいたらどうなんです? あなた達の貧弱な刃は私には通用しませんよ。ホーッホッホッホ」
 すっかり油断しきっている脆苦。
 そこへ、周囲の魔人や魔獣の類には一切目もくれず、脆苦のみに狙いを定め、攻撃のタイミングを伺っていた桐ヶ谷 遥が、天使兵装である【ジャッジメント】と悪魔兵装である【アンサラー】という、二段構えの武器で挑みかかる。
 けれど、その攻撃が脆苦に届く前に、武器を持った遥の両腕は、力無く下ろされた。
「甘いですよ……!」
「くっ……」
 いち早く遥の攻撃に反応した脆苦が、人差し指を突き出すと、呼び覚まされたトラウマに、遥はたまらずその場に膝をつく。

 思い出すのは、幼い頃の幸せな日々だ。
 従順なクリスチャンの家庭で育った遥かは、両親との3人暮らし。
 その日常は、とても穏やかなものだった。
 信じていれば必ず救われると思っていた日々――けれどそれは、突然の惨劇により終わりを告げる。
 理不尽な凶刃の前に倒れた父と母。それを目の前にしながら、怯えるばかりで何も出来ない幼い自分。
 そして法廷で下された犯人への寛容な裁定に、遥の頭には「何故?」と「どうして?」ばかりが繰り返し巡る。
 犯人が未成年だから? 精神異常をきたしていた? 深く反省をしている?
 そのどれもが、遥にとっては薄っぺらな嘘にしか見えなかった。
(そんなわけない。幼かったわたしは見た。血に塗れた刃物を握るあの男の邪悪な笑みを――!)
 遥の目には怒りが宿り、そして胸には深い傷が刻まれる。
 人も、信じてきた神も、誰も救ってはくれない。その時遥は確かに、絶望を知った。
「あの時のことは……今でも怖い。でも、ただ怯えていたあの時と、今は違う」
 ぽつりと零した遥は、恐怖に抗うのではなく認めた上で小さく笑う。
 震える足を奮い立たせ、【蒼銀翼のチャーム】を握りしめ、【ゴダム魂】を宿らせた強い意志で、遥はしっかりと脆苦を見据える。
 今の遥には、悪意に抗う意志がある。そして、アバターという運命を変えられる力もある。
 無力だったあの頃とは、違うのだ。そのことを思いだしてしまえば、もう遥が恐れる物は何もない。
「世界に悪意がのさばるなら、人も、神も、誰も救ってくれないのなら。誰も裁きを下さないのなら――わたしが裁く!!」
 【ディバインパニッシャー】で一気に能力値を引き上げた遥は、一気に脆苦の懐へと飛び込んだ。
「断罪の一撃、思い知れッ!」
 遥は至近距離から【ゴッドクロス】を脆苦の腹へと叩きこむと、ディバインパニッシャーの融合が解ける前に、素早く後ろへと引いた。

「ふう……少しだけヒヤリとしましたね……」
 遥の渾身の一撃を受けて尚、脆苦は呑気に腹をさすっている。


(数だけは相当だが、組織の頭を潰してしまえば動揺して烏合の衆と化すはず。欲を言うなら他の派閥と戦わせて共倒れしてもらうのが一番なんだがな……願望を口にしても仕方がないか)
 芥川 塵は、【ナハトフリューゲル】で飛べる限界まで飛翔し、脆苦の真上に陣取ると、眼下を見渡す。
 他の特異者たちが絶えず脆苦に攻撃をしかけているお陰で、脆苦からの干渉も受けず、塵の立つ中空はとても静かだ。
「それにしても、トラウマ、か。生憎トラウマなんて記憶自体が無いわけなんだが……もしかすると、失った記憶もすくい上げて幻覚を見せてくるのだろうか……」
 ほんの少し期待した風に口の端を釣り上げた塵は、脆苦の精神攻撃に苦戦している仲間たちを眺める。
 そしてその後方――脆苦からはかなり距離を取った場所に、レイリス・アヴェイクが見える。
 塵の武器の刃に【サンクティフィケイト】を施し、送り出したレイリスは、【クール・アセンション】でトラウマに警戒しながら、地上に控えている。
「レイリスにもトラウマなんてなさそうだがな」
 意外と頼もしいパートナーに、ふっと塵の頬が緩む。
「さて、行くか……」
 脆苦の気を引くべく仕掛けた、パイルバズーカの攻撃を攻撃を合図に、塵は【虚ろう碧の太刀】を振りかざし、【チャージ】で溜めた力を一気に解放する。
 そのまま、【天狗の空走】に落下速度を合わせ、脆苦へ向けて急下降する。

「これで、沈めぇ!!」
 途中、塵の存在に気付いた魔獣たちが【デモンブレス】を吐きかけるが、【ソリッドアーツ】で身を交わしながら、その回転も加えて太刀へと力を籠める。
 ドォォンと激しい音を立てて、塵が突き刺した太刀が地面を抉る。
 手ごたえはあったが、脆苦はバランスを崩しながらも、塵の数歩先に立っている。
 腕を抑えているから、多少は刃先が掠めたらしい。
「すっかり他の方たちに気を取られていました……私としたことが、油断が過ぎましたねえ。でも、私の間合いに入ったのは間違いでしたよ」
 微かに息を乱した脆苦が、塵に向けて人差し指を突き出した。
「なっ……!?」
 途端、塵の周囲の景色が一変する。
 近くで共に戦っていた特異者たちは、そのまま息絶え、床に転がっている。
 その中には、様々な世界の戦いで巡り合った、顔見知りも少なくない。
 塵は、屍山血河の中に返り血を浴びた血みどろの状態で立っていた。
 その死体の山の中に埋もれる小柄な骸を見付け、塵は唇を震わせる。
「……レイリス?」
 ――俺は……いや、まさか俺がコロシタ?
 分からない。分からない。
 塵の記憶にノイズが入り、精神が異常を来し始める。
 これが現実か、過去なのか、幻覚なのか。
 混乱に陥りそうになった塵だったが、そこに一つの確信が宿る。

(……だからなんだ)
 こんな状況、自ら望んで作りだすはずもないが、もし、これが現実だとするならば、それはどうしようもなく、必要だからやったことに違いない。
 覚悟とはそういうものだ。切り捨てる覚悟、抱え果てる覚悟。
 今、切り捨てることが必要ならば躊躇なく、容赦なく塵はやるだろう。
 それが塵のスタンスだったはずだ。
 こんなことで惑うはずもない。
 今更の話だ。
 何度でも何人でも、必要であれば殺してみせる。
「うあぁあああ!」
 塵は正気を保つ為、自らの腕に牙を突き立てた。滲む血の味に落ち着きを取り戻す。
 意識がはっきりして来ると、周囲の凄惨な景色は元へと戻り、真っ先に塵の目に映ったのは、塵の腕にしがみつき、心配そうに顔を覗き込むレイリスだった。
「しっかりして! 所詮は虚像、目を覚ましてよ!!」
 ずっと塵に語りかけていたのか、レイリスの声は掠れている。
 切り捨てる覚悟はいつでも出来ている。
 けれど。
(あんな想いは、出来れば二度と経験したくないものだな)
 レイリスを失った時の動揺を思い出し、塵は軽くレイリスの頭に手を置いた。

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