魔人・魔獣掃討戦 2
荒廃した大通りを、場違いに明るい【賛美歌】が流れている。
「にゃーにゃにゃーにゃにゃーん♪」
ニャオーンと、猫の鳴き声のような音を立てながら進む【地烈のメルカバー】、通称“Nekokava”に乗り込んだ
藤堂 エセルは歌いながら、モロク派の魔人、魔獣を一掃すべく隊を組んだ、メルカバーの列の先頭を進む。
『猫耳こそが神の御業。至上の祝福。完成されし楽園ですにゃー
さぁエセにゃん、ECへ、流血帝国へ、魔界へ、セフィロト全土へと猫耳を広めにいくのにゃー』
常に頭の中に響く、天使の声に導かれるまま、エセルはメルカバー隊を率いて進む。
エセルの上空には、【禍津のメルカバー】を操縦する
寝子郷 桐子が飛び、区内を広く見渡し、敵を発見次第、行先をエセルのメルカバーに同乗している
内偵者を通じて、無線で伝える。
その情報を元に、【土地鑑(セフィロト:UG)】で、正確に位置情報を把握したエセルが、隊を敵の元へと先導する。
エセルが率いるメルカバー隊は、エセルと桐子の他に、アンダーグラウンドでの起動に優れた【地烈のメルカバー】を駆る
サキス・クレアシオン、サポートの為サキスに同乗する
藤原 千寿、【疾風のメルカバー】に乗るサキスのパートナーである
シスカ・ティルヘイム、【地烈のメルカバー】に一人で乗り込んだ
藍澤 一、【疾風のメルカバー】にパートナーの
小原 泰彦を乗せた
北村 真由子、そして【火焔のメルカバー】を操縦する
アルテリア・ホルシュタインで構成する、計7体ものメルカバーを率いた大部隊である。
魔人や魔獣が屯している場所を、部隊の圧倒的な力で鎮圧して行くという、無駄のない組織的なメルカバー隊の攻撃は、着実に敵の戦力を削いで行っていた。
「まったく……どうしてわたくしがあの女の手伝いなんてしなければなりませんの」
ぶつくさと言いながらも、他の仲間たちに迷惑をかけるのは良しとしない桐子は、上空からまた新たに見つけたばかりの敵の位置を、エセルの
内偵者を通して知らせる。
「りょーかい! じゃあ、とっととぶっ潰しに行きますよー!」
エセルは桐子に指示された方向へとメルカバーを突撃させる。
メルカバーに搭載された、破邪の光レーザーと火炎車輪の武装をフルに使えば、メルカバーそのものが弾丸のようなものである。
(ふっふっふ……セフィロトの民が一人でも多く救われると言う事はですよ! 一人でも多くのセフィロトの民の頭上に猫耳を戴いてもらえる可能性が増えるということですよー!!!)
そんな下心を秘めつつも、セフィロトの民を救いたいという気持ちは人一倍強く、エセルは俄然張り切っている。
「エセル、随分とやる気だね。これ以上、モロク派を放って置く訳にはいかないからね」
エセルと共にメルカバー隊を立ち上げ、今までも様々な場面で手を組んできた
サキス・クレアシオンは、エセルより僅か後方で、メルカバーを走らせる。
隊の行き先と敵の位置に関しては、サキスの隣に居る
藤原 千寿が、桐子と連携を取りながら上空から周囲の偵察を行っている
シスカ・ティルヘイムに逐一連絡を受けている。
千寿は、隊の一部として、サキスがまずどの敵を優先的に叩けば良いのか、優先度の高い敵をシスカから受け取った情報を元に【戦況分析】と【位置把握】で導き出し、サキスに伝える。
サキスは、千寿の指示通りにメルカバーを向かわせ、備え付けられた投光器で周囲を明るく照らしつけ、敵を見つけ次第攻撃へと移る。
天使兵装の【エンジェリックティアー】、悪魔兵装の【デモンハウリング】の大型拳銃二挺を装備し、天使と悪魔の力を銃弾として敵へ放ち、群れなす魔獣たちを次々と撃ちぬいた。
アルテリア・ホルシュタインの走らせる【火焔のメルカバー】は、その攻撃力と引き換えに、精神の侵食を免れない。
アルテリアは、操縦に
エンジェリック・ソードを専念させ、
斬糸の錬金術師を同乗させることで、精神的負担を分散させる。
自身もまた、【エンジェリックチャーム】を身に着け、後部座席へと乗り込んだ。
(私の大切な家族や仲間達も来ていますから、ここは負ける訳にはいきませんね)
癖のあるメルカバーを単騎で走らせるには不安もあるが、他のメルカバー隊と共に行動をしていれば、その心配もいらない。
アルテリアは、心置きなく攻撃に専念できる。
「これ以上あなた達の好きにはさせません!」
遠距離の敵には【エンジェリックジャベリン】と【エンジェルレイ】、近距離の敵には【エンジェルスマッシュ】で攻撃を加え、更にはアルテリアの攻撃をメルカバーの兵装である大小五連の小型砲が砲撃で後押しをする。
「みんな、覚悟はいい? いくわよ」
北村 真由子は【疾風のメルカバー】に、
突破者と
小原 泰彦を乗せて敵中を駆ける。
突破者の【手榴弾】と泰彦の【ネギ弾】で前方の敵を怯ませ、すれ違いざまにメルカバーの刃で魔獣たちを切り裂いて行く。
「OK。ここは大丈夫、次はあっちだよ。真由子さん」
【基本無線技術】で周囲のメルカバー隊と緊密に連絡を取り合っている泰彦は、メルカバーの向かう方向を真由子に指示する。
「わかったわ」
泰彦の指示を受けて、真由子はメルカバーを大きく旋回させる。
「敵が増えて来たわね……」
前方に集まる敵の数に、真由子は険しい表情を浮かべた。
「派手に暴れている分、僕たちの方に敵が集まってきたのかもしれないね。僕が指揮するから、真由子さんは運転に集中して」
「了解よ」
「出来れば危ないことはしないでほしいんだけど……」
敵の位置が割れているのであれば、そんな危険な場所へと真由子を向かわせたくはない。
溜息混じりの泰彦の呟きに、「そう? 大丈夫よ」と事もなげに真由子は言う。
「だって、泰彦のこと、信頼してるもの」
泰彦のサポートがあれば大丈夫。
そう言い切られてしまって、泰彦は余計なことを考えるのはやめた。
「任せておいて。絶対、危ない目には合わせはしないよ」
泰彦は一層周囲への警戒を強め、ネギ弾を握る手に力を籠めた。
(……しっかし、よくもまぁこんなにメルカバーばかり、集まったモンだ……)
規則正しい隊列を組み、敵を蹴散らしながら進んで行くメルカバー隊の最後尾を行く
藍澤 一は、感嘆の息を漏らした。
敵の数は多くとも精鋭はいないのか、メルカバー隊は危なげなく敵中を進んでいる。
現状、メルカバー武装の【破邪の光】や車輪の火炎で充分敵に対応出来ている。
時折、操縦席までしがみついてくるようなしつこい魔人もいるが、それもメルカバーの機動力で振り切りながら、【エンジェルスマッシュ】を食らわせてやれば、難なく迎撃できる。
少々、刺激の少ない戦いではある。
(とは言え、油断は禁物だな)
一は、ピカピカに磨き上げられたメルカバーの壁面を撫で、娘同然に可愛がっている人形少女、
クララ・アイマークのことを思い浮かべる。
今回は危ないからと、留守番を言いつけられたクララは、それでも一の為に何かしたいと、【家政婦知識(セフィロト)】を生かして、メルカバーを磨き上げたり、弁当を作ってくれたりと、一の出発にあたり、色々と世話を焼いてくれた。
『腹が減・っては戦はで・きぬー♪ ケチャ・ップ…入れ過・ぎた?……サービ・スー♪』
クララの訥々とした歌声と、【内蔵トースター】で焼き上がったばかりのパンと、パンに挟むベーコンと目玉焼きの焼ける香ばしい匂いを思い出し、一は思わず腹を抑える。
クララが詰めてくれた愛情たっぷりのお弁当は、隣の座席に置いてある。
『おとーさ・ん…出荷ー!』
「『出荷ー』じゃないだろ。『行ってらっしゃい』だろ?」
見送りの際にしたやり取りに頬を緩め、一は気合いを入れ直す。
「早く帰ってやらないとな」
――同じころ、一の無事を祈るクララは、一の弁当の余りであるクラブサンドに手を伸ばし、いつ一が帰って来るかと期待しながら窓の外を見ていた。
一人で食べるクラブサンドは、出来は悪くないのに、どこか味気ない。
「一人ぼ・っちでお留・守番……これ・が『寂しい』気・持ち……?」
覚えたての感情に首を傾げながら、クララはパサついたパンに齧りついた。