魔人・魔獣掃討戦 1
おびただしい数の魔人、魔獣を引き連れた脆苦覆臓の強襲により、イーストキャピタル第3区は、瞬く間に地獄と化した。
戦闘による破壊音や、爆発音が絶え間なく鳴り響き、至る所で悲鳴があがっている。
区全体を覆う雲は、どんよりと重たく覆い被さり、辺り一帯に満ちた血と硝煙の焼けた匂いが、異様な雰囲気を醸し出していた。
「す、すごい数の魔人や魔獣だね……」
通りを蠢くおぞましい数の魔人や魔獣に、
波多 南は溜息交じりに驚きの声を漏らす。
魔人一人につき魔獣を数体引き連れ、徒党を組んで襲うのが彼らのやり方だ。
自然、生贄となるべき獲物が多い場所に、より多くの魔人魔獣が集まることになり、南たちがメルカバーで乗り込んだ、人口の多い大通り沿いには、見渡す限りに魔獣たちが屯していた。
「ええ……数だけは相当のものですが、所詮烏合の衆ですわ……!」
南と
イフリートを自身が操縦する【火焔のメルカバー】に乗せた
リザベス・アルバが、敵を鼻白む。
リザベスの言葉通り、魔人や魔獣たちの強さは、南たちにとって危険を感じるようなものではない。
魔獣たちの吐く【デモンズブレス】や、魔人たちの【イービルアイ】も、その特性に注意をして対処すれば、問題は無い。
「あたらなければどうということはありませんわ、私の目の前に立ち塞がったこと……後悔なさいませ?」
メルカバーを急発進させたリザベスに、南は座席で【硝子の刃】、【火蜥蜴】、【銀槍】と、次々に錬成しては、メルカバーの外へと放つ。
加えて、イフリートの火炎が、メルカバーの周囲を焼き払う。
メルカバーそのものが一つの大きな弾丸のようになって、敵の群れの中を突っ走る。
「少しでも敵の数を減らして、皆の負担を減らせればいいよね」
この戦禍の元凶である脆苦の討伐へと向かった仲間たちを想い、南は呟く。
「そうですね。他に魔人たちが集まりそうな場所はお分かりになりまして?」
「任せて、リザねぇ!」
南は【土地鑑(セフィロト:UG)】で、周囲の施設を探る。
「もうちょっと行ったところに、ゴモリー派の集会所があるはずだよ」
「では、次はそちらに行きましょう。でも、まずは……」
「うん。この辺を綺麗にしちゃわないとね!」
「ええ、早く終わらせてしまいましょう!!」
リザベスは、メルカバーの操縦で消耗した精神を癒す為【ケミカル菓子】を頬張ると、メルカバーの砲撃の火力を全開にして、更なる敵陣へと突き進んだ。
魔獣が数百匹いるという前情報に、
桜庭 愛は脆苦へと戦いを挑むギルドの仲間たちの助けになればと、第3区に足を踏み入れた。
地図が用意出来れば、敵の集まる場所に当たりを付けられもしたが、生憎と愛は地図を用意する手段を持たない。
仕方がないので、戦闘音を頼りに、敵が集まっていそうな場所へと向かう。
「これだけ敵が群がってるんだから、すぐに見つけられるわよね」
愛の予想通り、少し路地抜ければ、すぐに敵の一団は見つかった。
「敵もこの入り組んだ路地を使ってこちらの背後を強襲する策を用いてくるはず……」
愛は路地裏の外壁の一部を【ソニックバーン】で破壊し、入り組んだ路地を大通りへと繋げ、その中央へと陣取る。
これで、大勢の魔獣たちが押し寄せて来ても、一対一で戦える。
「どっちへ行った?」
「こっちだ!」
逃げ惑う一般人を追って、魔人と魔獣たちが愛が待ち伏せる路地へと一列になって入ってくる。
「来た来た……」
その様子にほくそ笑んだ愛は、敵の列の先頭へと飛び出し、不意打ちで【エンハンストボディ】で強化した膝蹴りからの【ソニックバーン】を食らわせた。
「何!?」
突き飛ばされた魔人の背に、背後にいる魔獣が将棋倒しに倒れる。
前で起きていることが見えない後方の魔人たちには動揺が広がり、前方の魔獣は先へ進むことも出来ず、その場で細い路地に挟まり、身動きが取れずにいる。
「まあ、仲間がボスを倒してくれるまでの時間稼ぎだけど、勝算はある。私の友達、津久見弥恵ちゃんを信じてるし」
同じくギルドの仲間である
イルファン・ドラグナと共に脆苦の元へと向かった
津久見 弥恵のことを案じながら、再び愛は敵へ向かって構えを取る。
体力勝負のこのやり方では、いつか愛の方が力尽きるのは目に見えている。
けれど、仲間のために血路を開くのが、愛のギルド【KIZUNA】の流儀だ。
「それに、背中に守るものが多いと女子プロレスラーは頑張れるんだよ」
ニっと笑った愛は、次の蹴りを繰り出すべく、足を踏み鳴らした。
竜崎 皐月と
ディナラ・コモワは、魔人の群れを発見するや否や、嬉々としてその中へと突っ込んだ。
やっと念願の聖騎士となった皐月は、その力が試したくて仕方がない。ここへは腕試しも兼ねて訪れたようなものだ。
「もうお前等もここまでだ……聖騎士がきたんだからなーっ!」
【ホーリーゴースト】で防御力と攻撃力を高めた皐月は、【エンジェリックジャベリン】の穂先を飛ばしながら前方の敵を牽制する。
【エンジェルブーツ】と【エンジェルライド】で極限まで機動力を上げている皐月の足取りは軽く、魔人の引き連れる魔獣たちを踏みつけ、蹴散らして行く。
「さーて皐月ぃ、ドッチが多くヤれるか競争しようか! 聖騎士だからってサクサク倒せるとは思わないこったーね!」
続くディナラは、【魔界の瘴気】を身にまとい、十分すぎる程周りに満ちている闇の力を吸収する。
【マルコキアス】を【完全憑依Ⅲ】で自身の肉体と同化させ、悪魔【ザガン】を敵に向かわせる。
「あい、わーったよディナラ! でもそりゃ無謀って奴だ、聖騎士と化したあたいとの討伐レースってソレ勝ち目ないぜ!」
「操るザガンは、知性とパワーを兼ね備える。そして、マルコキアスは強力な戦士だ、そのマルコキアスを宿す僕に敗北は……無い!」
自信たっぷりに言い放つ皐月に、ディナラもまた不敵に返す。
火花を散らしながら、先を急ぐ二人の背中を、
エーファ・アルノルトは、満足げに眺める。
「おぅおぅ二人して気合入ってるのはイイぜ、バリバリやってくれりゃあキサマ等自身はもちろん、あたしの評判もあがるってーモンよ。なんてったって見出したのは他ならぬあたしなんだからな」
納得したように頷くエーファは、引き連れて来た
軍用パワードアームを傍で思う存分暴れさせながら、創り出した【鉄壁】の影から【土龍】をけしかけ、皐月とディナラの取り零した敵を、確実に仕留めていく。
「おっと、ちょっとは面白そうな奴が出てきたか」
止まることなく進んでいた皐月とディナラの足が止まったのに釣られて、エーファは前方に目を凝らす。
見れば、二人の前に他とは姿の違う魔人が一人立ち塞がっていた。
「よっしゃー!! コイツはあたいの得物だ! 手出しすんなよ」
「僕の得物だよ! そっちこそ、手出すなよ!」
悪魔【ベリト】を憑依させた、赤い衣服と王冠を身につけ、赤い馬にまたがった兵士の姿をした魔人を前に、言い争いを始めた皐月とディアナ。
そこへ、ベリトの【シャイターンハンド】による、鋭い槍の連撃が繰り出された。
「ちっ……! キサマ等いつまでくだらない言い争いをしている! さっさと勝負をつけろ!」
明らかに今までの雑魚魔人とは違う動きをしてみせた敵に、エーファは舌打ちをして【泥の手】を放ち、その動きを制御する。
エーファの怒号に、皐月とディナラは揃ってベリトの攻撃を避け、ベリトと一定の距離を取って向かい合う。
「確かに、早い物勝ちか!」
皐月は一息にベリトの胸元に飛び込み距離を詰めると、至近距離から【光闇掌】を打ちこむ。
「そういう事なら、僕も行くよ」
ディナラは既にエーファの【泥の手】で動きを鈍らせているベリトに、更に【萎縮】で行動を制御すると、間髪入れずに【シャイターンハンド】で、ベリトの肉体を裂きにかかる。
「ぐあっ……」
三人の連携攻撃に怯んだベリトが、体勢を立て直す前に、皐月が【ソルトブレイク】を繰り出す。
「聖騎士が聖騎士である所以を見せてやる、覚悟しろ!」
皐月の一撃を受けたベリトは、反撃の糸口を見つけられず、その場で物言わぬ真っ白の塩の柱と化した。
「どうだ、これであたいの勝ちだな」
「僕の攻撃があったからだろ!」
再び言い争いを始めた二人は、しかし同時にニタリと笑う。
「じゃあ、次で決着つけるか」
「望むところだ!」
次の標的となる魔人の群れを探して、皐月とディナラは我先にと駆け出す。
その後ろでエーファは、「いいねぇ。もっともっと派手にやっちまいな!」と、更に二人を煽って行くのだった。