■弓月はマルファスに会えるのか■
「んー、話を聞くとさ。鼎はマルファスってのに会うのが目的だったんでしょ? そのマルファスってのが今回の戦いで死んだりすると困るわけなんだよね? じゃあ、私はそのマルファスとやらの身を護りに行きますかね? 少しは恩に着せとけば、後で鼎も話しつけやすくなるかもしれないからね」
いるかどうかが解らないマルファスの所へ行こうとするのは、
六連坂 千咲だけだった。
「それに、鼎とマルファスがどんな話をつけるのかこの目で見ておきたいしさ」
じゃあ、またあとで! と、飛び出した。
銀翼の守護鳥――鳥獣型の使い魔を飛ばし、ゴモリー派と思われる女性魔人の援護を行った六連坂は、その女性に近付いた。
療養のお香で穏やかな精神状態にさせ、警戒心を薄れさせつつ、癒しの祝福にて彼女を癒す。
「ありがと」
お礼を言われ、いいのいいの、と。
「お礼代わりに一つ教えて。マルファスの居場所を知ってたら教えて?」
にっこりと、屈託の無い笑顔を見せながら本題に入る。
「マルファス? え、どこにいるのかな……」
「知らないならいいよ。ありがとねー!」
悩む女性に手を振りながら、六連坂はそこを去り――ゴモリー派らしき女性魔人を見かける度に聞くが、結局は解らなかった。
けれど。
「マルファス? そう、あなたもなの。大丈夫、私が責任もって鼎に会せるわ」
会ったクロリスから約束を貰った六連坂は礼を言って、クロリスの援護にと銀翼の守護鳥を飛ばし、癒しの祝福での回復に努めた。
* * *
「また、お会いしましたね。蒼穹の銀翼の戒・クレイルです。弓月さんの救援を受け、加勢いたします」
「ありがとう」
(前回、クロリスさんとは相対しましたが、昨日の敵は今日の友……今は事情が違うようです)
戒・クレイルがクロリスの元へ到着した時には、数々の特異者がクロリスと共に戦っていた。
クールアシストで冷静に状況を見る。
ソロモン派は守りに入り、ゴモリー派は対戦しているものの、命までは取りたくないらしく攻撃が甘い。
特異者にしても、クロリス、弓月を守りに入っている者が多く、攻撃に出ている者も毒等の攻撃でどうしてもモロク派に押されてしまっているのは否めない。
対戦する特異者の中で、積極的に行動に出ている者は僅かだ。
この場合、特異者達と同じように人の命まで手をかけるのを躊躇い、毒系統の技を使い投降を呼びかけているクロリスの支援を中心に動いた方が良さそうだ。
「水が無く、魔人ウェパルが本来の力を発揮できないのなら、ユーラジ召喚で周囲に水塊を複数出現させ、支援しましょう」
界霊獣ユーラジを召喚した戒は、モロク派の中でもピンピンしている敵を水塊で拘束する。
「助かるわ。それじゃ、ここからが本番ね」
色っぽい笑みを見せたクロリス。
「――――ウェパル」
静かに悪魔の名を呼び、軍団の幻を出現させて、モロク派へと向かわせる。
強い嵐のような風が巻き起こる。
敵味方が付き辛い状況だったが、クロリスが作り上げた幻がモロク派のメンバーを襲う為、特異者からでも倒すべき相手が解りやすくなった。
ここから、一気に特異者達の反撃が始まる。
エンジェリックジャベリンの柄を握り、戒はホーリートーカーで憑依している存在の声を聞く。
蒼銀の翼【エンジェリック・ウィング】で天使の翼を生やし宙を飛ぶ。
エンジェリックブーツで上げた移動力と空中飛行能力で素早く幻影と戦っているモロク派の死角へ回り込む。
そして、実体を持たない存在をも斬る事ができるというエンシェントクロスを振い、憑依悪魔を無力化していく。
(悪魔が無力化できれば、魔人への攻撃も効きやすくなるはず)
エンジェリックジャベリンの光の穂を出現させ、穂先部分を投槍のように発射する。
その光の穂とエンジェリックブーツの天子の力を使った蹴りで、戒はモロク派を倒していく。
形勢逆転だ。
ユーラジ召喚での水が一定時間で消滅する事を考えれば、その時間モロク派が耐えてしまえばこちらの負けだが。
大丈夫。
――――もうすぐ決着が着く。
* * *
六連坂が、ハイタッチー! と勝利を皆で祝っている声が聞える。
戦いが終わり、戒は姿勢正しくクロリスの前に立った。
「悪魔マルファスについて何かご存じではないでしょうか?」
(この共闘が命を救う希望へ繋がるよう願います)
バタバタバタバタ――――
聞える足音に振り向くと、樹郷が弓月の手を取って駆けて来る。
「あの……っ」
一度断られた――いや、モロク派が襲ってきていたからではあるが、逃げてと言われて、またここにいる。
何から話せばいいのか、口ごもる弓月。
代わりに口を開いたのは樹郷だ。
「悪魔マルファスを従える魔人に会わせて貰えませんか」
もちろんだわ、と。
クロリスは暖かい笑みを弓月に向けた。