■クロリスと弓月に絆を■
「お邪魔してま~す。ここはバッチリ何とかするから!」
安藤 ツバメは元気良く、そうクロリスに声をかけた。
そして、ちょっと言いにくそうにお願いがあるのだけど、と。
「ここで上手くいったら……鼎ちゃんの想いに答えてもらって良いかな? ほんの少しの手がかりでも良いんだ。みんなを守る為に犠牲になった友達を救うのに必死なんだよ」
何度も、色々な特異者から、そのお願いを聞いていたクロリスはくすくす笑いながら頷いた。
「もちろんよ」
ありがとー! と手を振って、安藤は空間知覚で戦況を見た。
「まずは、敵味方をちゃんと把握しないとねぇ」
攻めて来ているのがモロク派だから、と。
「え~と……。あっちがソロモン派で、こっちがゴモリー派で……」
把握した安藤は、インファイトで魔人との距離を一気に詰めた。
まずは、ダークネスロッドで魔人を横なぎにする。
踏みとどまった魔人は、その腕で安藤と同じように大きく横に薙ぎ払う。
瞬時に攻撃を防ぐようにロッドを攻撃方向に立てて、それを軸に飛び上がる安藤。
燃え盛る硫黄の匂いを伴って、魔人の周りを炎陣が囲う。
「聖騎士として、力を持ちすぎた者達の勢いをここで削いでいきましょう。殲滅ではなく、あくまで戦力を削いでいきます」
マリア・ストライフは、ダブルポゼッションでエンジェルティアー、デモンハウリングの天使・悪魔を憑依させて二つの拳銃を使いこなす。
腕や足に命中する弾丸。
「こういうのはトゥーハンドガンナーというのでしょうか?」
上から降りてくる安藤を確認し、手を止めるマリア。
魔人の背後に着地した安藤は、姿勢を低くして、魔人の膝裏をロッドで狙う。
「ほらほら!悪魔ばかり見てるから、足元がお留守だよー!」
カックン、と姿勢を崩したが、踏み止まった魔人が振り返った瞬間、安藤は暗闇に包まれた。
――――攻撃を受ける!
這うように地面に突っ伏し、ロッドを頭上で回す安藤。
そして、マリアが安藤を守る為に大天使の盾をマリアがいると思わしき辺りに出現させる。
魔人を囲う暗闇は、マリアまで及ばなかったのだ。
ガッ!!
手応えと共にロッドが手元から飛ぶ。
暗闇から解放された安藤が見たのは、ロッドを足に挟み体勢を崩しながら振りかぶる魔人の姿。
「おわっ!? あっぶないなぁ!」
シュヴァルツシルトの盾で攻撃を受け、すぐさま飛びずさる。
「聖騎士の名の下に、あなたを鎮圧させていただきます」
マリアがゴッドクロスで憑依された天使と悪魔による二連撃を魔人に浴びさせた。
クロリスの周りに集まってくる魔人達を見て、これはやりがいがあるとばかりに、
笹奈 萃華はフォトンナックルを手に嵌めてウズウズと手を動かした。
「魔人教団の魔人と共闘するのは変な感じだけど、悪くないね……魔人クロリスが良い人に見えるから? とにかくモロク派が多すぎるから、とっとと数を減らすよ!」
走り出す笹奈。その言葉に頷き、
ノナメ・ノバデはユウと共に戦うクロリスの姿を見る。ふむ、と顎に手をあてた。
「……以前は聖柱を巡って争った相手と共闘するというのは、なんだか妙な感じがしますねぇ……クロリスさんはなんかそういうの気にしなさそうではありますが」
(弓月さんがゴモリー派に接触した目的は、マルファスという建築物に関わる力を持つ悪魔の力を借りるため……つまり以前聖柱を巡る事件で身代わりになった子を助ける手がかりを得るためのはず。それなら私も協力を惜しみません。なにせその事件は私も協力したので無関係とは言えませんし、もしお友達を助けられる手がかりが得られたら私だって嬉しいです!)
さあ、がんばりましょー! と、まずはマグナで土を操り可能な限り土を流動させて、クロリスの周りは弄らずに、足場を悪くさせる。
それから、練成【泥の手】で地面より泥の手を出現させて、モロク派と思われる魔人の足を掴み、動きを妨害する。
練成【氷の刃】で出した氷の刃を投擲し、土の上に深々と突き立てた。
(本当は共闘しなくても良かったのだけど。ゴモリー派は助けたいかな? うん、彼女の信任を得たいし)
弓月の事を考えると、ゴモリー派を潰すワケにはいかない。
モロク派の数も多すぎる。
笹奈の後ろにいる
霜月 帆乃香は、必死に笹奈の後をついていく。
「他の魔人に構える余裕はないです……」
サンクティフィケイトで笹奈のナックルに神聖な祓魔の力を付与する。
その後を、
シェラ・クレメンティスが主である霜月の意思に従うだけと、仕込みモップ・内臓ナイフを内蔵武器で体内に仕舞って付いていく。
笹奈は、魔獣なら倒せると、数々の向かってくる魔獣をナックルで殴り付ける。
魔獣から吐き出されるデモンブレス――闇の波動。
攻撃は受けてしまったが、アークポゼッションで大天使の一部を憑依させた霜月が大天使の盾で笹奈を守り、癒しの祝福で傷を癒す。
霜月の周りにまとわり付く魔獣は、シェラがモップで追い払おうとして苦戦している。
「せぃせぃせぃ……トドメだ!!」
フォトンスマッシュでフォトンの出力を上げて、笹奈は魔獣へ強力な一撃を浴びさせた。
「一緒に戦おうか」
ぽん、と、ゴモリー派の女性魔人の肩を叩いた
上羽 護法は、彼女が操る魔獣と共に、戦場へと駆け出した。
(弓月の友人を救うという強い意志に興味をもったので、彼女の目的を達成するためにもクロリス達を助けておこう)
後は、神判に備えて味方を少しでも増えれば、と、上羽は思いながら、この場で一番重要な相手、ゴモリー派のリーダークロリスを見た。
(それにしても敵も味方も同じ魔人ですから誤射が怖いですねぇ……味方の方には目印を付けてもらえば良かったでしょうか?)
うーん、とノノは戦況を眺めた。
様子を見ている限り、魔人教団同士では敵味方が解っているようだ。
そして、ソロモン派・ゴモリー派が襲われている一方。
ならば、妙に元気で果敢にクロリス達に向かってくる魔人を狙えばいいのである。
一時とはいえ、魔人に協力する。
教会の皆に心の中で謝りながら、ソロモン派・ゴモリー派を狙う教会のメンバーの行動も妨害する覚悟でノノはそこにいた。
ノノの妨害工作を越え、向かってくる魔獣を連れた魔人。
プチゴーレムを向かわせて、ノノは錬成【斬糸】で鋼線を生成する。
練成【泥の手】で出した泥の手を魔人を頭から絡ませて、魔人へと接近したノノは鋼線を絡ませて拘束し――切断した。