■ 航路を守る者たち 3 ■
「くそっ……数が多いな」
島を出て、安全なエリアを目指す艦の行く手に複数出現した崩界霊獣サイレント・インバースに、アーノルドは緊張した面持ちで呟く。
見た目こそ一角獣のケモノのようで可愛らしくもあるが、強敵であることには違いない。
「避難を支援します……! 界霊獣は、任せてください……!」
咄嗟に声をあげたのは、船上で周辺の警戒に当たっていた
御巫 ユキだ。
「大丈夫なのか?」
「ええ。この艦が危険海域を出るまで足止めしてみせます」
「分かった。任せたぞ」
「はい!」
ユキは早速、アーノルドの艦艇と崩界霊獣を引き離すべく、【ブースタースーツ】の飛翔能力を用いて海上へと飛び立つと、崩界霊獣の方へと向かう。
「船の方は俺がいるから大丈夫だ。危険な事があればすぐに知らせるさ」
救助民たちの護衛と、船内で混乱に乗じた暴動などが起きないよう見回りをする為、アーノルドの船に同乗していた
妹尾 夏輝が言う。
夏輝の目的は兎にも角にも人命救助だ。この船に乗り込んだ島民たちが不安に怯えることがないよう常に気を配り、不測の事態に備えて待機している彼の存在は、崩界霊獣という未知のバケモノを前に怯える島民たちに、安心感を与えてくれる。
「さっきの船の揺れで、怪我した者がいれば
ミリタリーナースに言ってくれ。俺は周囲を警戒してくる」
そう言って夏樹は甲板へと向かった。
「まずは一気に足止めさせてもらいます!」
アーノルドの船を離れたユキは、【ボム】で崩界霊獣全体にエネルギー波を食らわせる。
「今です! いってください!」
崩界霊獣が後ろへと退いたタイミングを見計らって、ユキが叫ぶ。
「よし! スピードをあげろ! 一気に抜けるぞ!!」
アーノルドの艦艇が、ユキの背後をすり抜け、ぐんぐんと航路を進んでいくのを確認して、ユキは安堵の表情を浮かべる。
そうしてすぐに、体勢を立ち直した崩界霊獣たちへと【ヘヴィウェイト】の銃口を向ける。
「さあ、まだもう少し、ここに居てくださいね!」
扱い難い銃を両手持ちにして、精度に構わず銃撃を続ける。
そこへ、ユキの銃撃に重なるようにして、ミサイル攻撃が加わる。
「援護する」
【最適化】した【ラスターチカ】に乗った
立花 衣更は、【三連装ミサイルランチャー】によるミサイル攻撃を続けながら、【PKG:ヘヴィガンナー】からもう一つの武器、【レーザーリヴォルヴァーカノン】を取り出し、持ち変える。
「捕らえたぞ……フォイア!」
衣更は、手前の崩界霊獣に狙いを定めて砲撃を加え、まずは確実に一体を仕留める。
「まだ、数が多いな……フェアベルゲン!」
続いて、衣更は【バレッジ】により弾幕を張る。
崩界霊獣の視界を奪うと、背後へと回り込み、再び砲撃を加える。
「倒す必要はありません。救助船から引き離すよう、誘導しましょう!」
「ヤー……注意をこちらへ」
ユキの言葉に応じて、衣更は【スリッピング】と【ベクタードスラスト】を駆使して、崩界霊獣の目を引くよう、機体の方向を大きく揺さぶる。
「こっちです! 向こうの海域を目指せば、戦いに協力してくれる味方が沢山いるはずです。そこまでこのまま行きましょう!」
ユキの先導で、衣更は崩界霊獣たちを、救助船の航路から完全に引き離すことに成功した。