守護・戦いの果て
一方、外にいた特異者たちも懸命に界霊へと攻撃を続けていた。
だがヴォーパルの浄化が既に始まっている以上、界霊をもう一度蹴散らすわけにはいかない。
完全に攻めきれぬまま、時が過ぎていく。と、その時。
「やっと、ついたミャ」
特異者たち助け出された小さなさんぜんかい いきたねこが姿を現した。
「もう、終わりにするミャ。大人しく浄化されるミャよ!」
小さなさんぜんねこから、ヴォーパルと同じような光が発せられる。
「きゃ~! どこもかしこも界霊だらけじゃないの、こわーい!」
「なんのこれしき! なにするものでござるぞぉぉ!」
女性口調のアバター:スポーン、性別:男の
ヴェリス・アレグレットと熱いござる口調が特徴的な
ブシドー・ミスタが叫ぶ。
「って、あら? 攻撃の手が緩んだかしら?」
「……外から浄化の力を感じます」
「ってことはつまり、ねこ殿が到着したでありますなぁぁぁ!」
さんぜんねこが到着したことをヴォーパルから聞いたブシドーが更に熱く叫ぶ。
「ヴォーパル殿! それがしにも手伝わせてくだされぇぇぇ!!」
「いえ、貴方にはさんぜんねこのような力はありません」
「そうなのでござるかぁぁ! む、無念……!!」
「だからって何もしないでいいわけじゃないわよブシちゃん!」
倒れこんだブシドーを励ますヴェリス。
「浄化が終わるまではヴォーパルちゃんを守らなきゃいけない。なら、アタシたちで守らなきゃ!」
「そう、でござる、……そうでござるぅぅ! お館様、それがしは、熱く! 熱く!! 熱くっ! 燃えてきたでござるぅぅぅ!!」
「アタシだって漢だものっ! アタシたちの漢気、見せ付けてやりましょう!」
自身を取り戻した二人が界霊へと向き直る。攻勢は弱まったものの、依然攻撃を続ける界霊。
「ここは任せたわよ、ブシちゃん」
そう言って『飛翔』し、空中へ躍り出る。迫り来る攻撃をかわしながら、攻撃の手が厚い箇所へと『生体ミサイル』を放つヴェリス。
「ヒャッハー!! 爆発四散しちまいなぁ~っ!?」
どこぞのモヒカンのようなセリフを言いながら界霊へ攻撃する。
「そこの御方! 我も護衛にあたりますぞぉぉ!」
「……気をつけて、です」
「攻撃などなにするものぞうぼああああー!」
言った側から界霊の攻撃を受けるブシドー。
「ふぅ、焼肉ライスサンドがなければ、危なかった……がくっ」
と言いつつ気を失うブシドー。その武士道精神、あっぱれである。
「っしゃ! もう一踏ん張りだ! 必ず浄化してやるからな、化け物!」
「最早弱る振りもできぬでしょう。皆さん、消滅させないようにいきましょう」
「チチ神様……ではなく、ヴォーパルは自分が守るであります!」
順に
朝倉 蓮、
風間 那岐、
葛城 吹雪がヴォーパルの前に陣取りながら叫ぶ。
「今回俺はディフェンスだ! どんな攻撃もヴォーパルには届かさねぇぜ!」
『強靭』な体と、【ソニックブレイド】を構えてどのような攻撃にも備える蓮。
「もう、あなたは消えるのですよ。……せめて最後に唄でも聞いてお逝きなさい」
『加護の唄』を響かせた後、『飛翔』して攻撃・援護の態勢を整える那岐。
「……しかと記憶するであります。その質感、揺れ。やがてこれは絵となりフィギュアとなり、巨万の富をもたらすであります」
よからぬことを企らみつつもヴォーパルを警護する吹雪。
浄化の力が強くなってきたことをその身で思い知った界霊は、全ての攻撃をヴォーパルへと差し向ける。
「その進行、空中で叩き落としましょう。空中戦はあなただけの特権と思わぬことです」
飛翔する那岐が次々と攻撃の手を叩き落としていく。
更に旧支配者の叫びにも似た『クライ・オブ・クトゥルフ』を震わせて、行く手を阻む那岐。
「おらぁ! 避けて斬っておちゃのこさいさいだ! なまっちょろい攻撃はてめぇの身を削るだけだぜ!」
ブレイドを駆使してあらゆる攻撃を受け流し、叩き斬る蓮。
「しかと目に焼き付けたであります……後はこの場を斬り開くのみ! っと、あまり熱くなると忘れてしまうでありますな」
邪念を携えながらもやることはやる。
『クロスエッジ』で敵を斬り刻み斬り凪ぐ吹雪。
――――――ッッッッ!!!!
よもや我慢の限界、といったように界霊が鳴く。
それまで無数の方向から来ていたか細い攻撃はなくなり、四方からに攻撃をしぼる界霊。
先ほどの攻撃とは比にならないほどの強力な一撃が四方向からヴォーパルを襲う。
しかし―――――。
「どんな攻撃も、ヴォーパルにゃ触れさせねえ。そういった筈だぜ?」
青竜の方角は自身の体を盾とした蓮が耐えしのぎ、
「……」
朱雀の方角は無言のまま『再生』を使用しその身を攻撃に晒した那岐が守りきり、
「オリジナルがいなくなるのは、困るであります」
白虎の方角は本気の瞳を携えた吹雪が愛剣でもってこらえきり、
「……守る、そういった筈です」
玄武の方角は二つの盾を重ね合わせた重霧が真っ向から受けきった。
界霊の攻撃と四人の特異者たちがせめぎ合う。だが、それも終わりを告げる。
中央、黄竜の方角にいるヴォーパルが言葉を呟きと共に。
「……終わりです」
――――――ッッッッッ!!!
界霊の全体が光り輝いていく。必死に界霊は蠢くも、時既に遅し。
巨大だった未知なる災厄は浄化の光の前になすすべなく消えていく。
界霊の何もかもが、浄化されていく。
そして界霊を消滅させた浄化の光は天へと昇り、空へと溶け込んでいった。
「なんとか終わったミャ」
「浄化完了です」
さんぜんねことヴォーパルが言葉を交わす。
それは完全に界霊を浄化し、消滅させたことの証でもあった。
こうして突如としてワールドホライゾンを襲った界霊は、ヴォーパル、さんぜんねこ、特異者たちの手によって消滅させられたのだった。
余談だが、ヴォーパルを守ることに全力をだした吹雪はヴォーパルの質感、乳の揺れなどを全て忘れてしまい、悔しい思いをしたそうな。