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ワールドホライゾン

ネコの死んだ日

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ネコの死んだ日
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幻覚と歌


「うちの歌姫にっ、触るんじゃないっ!」
 彼女には、仲間がいるから。
 カンナを守るようにして現れたのは黒瀬 心美
 襲い掛かってきた分体を打ち払い、すぐさま『フォトンクリーブ』を敵列目掛けて放つ。
 眩いフォトンの刃が敵列に喰らい突き、貪り喰らう。
 その威力は『リミットカット』によって底上げされており、絶大な威力の元に分体を蹴散らす。
「ヴァーパルの護衛は他のメンバーに任せてるけど、うちのメンバーの護衛はアタシの仕事でもあるんだよね」
 愛武器を逆手に構えて、分体を威圧する心美。
 臆したかのように分体は動かなくなる。その隙を見て心美のパートナーが動く。
「臆病風に吹かれたのか? ならば、そのまま流されどこへとでも消えるといい」
 分体の背後に現れた黒瀬 晶。途端、分体が一つ消える。
 続けざまに二つ、三つと次々と分体は消えていく。
「もっとも、流れる前に消し飛ばさせてもらうがな」
 『加速機構』、『オーバードライブ』の併用で自身で持てる最大スピードで戦場を走る晶。
 その姿を必死に捕らえようとし、反撃を試みる界霊だが攻撃はかすりもしない。
 逆に晶の攻撃は確実に界霊の分体たちを捕らえ、消し飛ばしていく。
「アタシだって攻めて攻めて攻めるんだっ!」
 すぐに心美も攻撃を再開する。うようよといたはずの分体が二人によって塵と、無と化して散っていく。
「ほれほれ、余所見をしているでないぞ?」
 ゆっくりと姿を表したリーゼロッテ・ベルンハルト
 既にその身には『コンバート』をかけている。
「ほーれ、急いでわらわたちを止めんと全部御破算じゃぞ?」
 ニヤリと笑いながら『炎の御手』を分体が特にまとまっている箇所目掛けて放つリーゼロッテ。
 烈火の如く燃え盛る炎は分体たちを燃やしていく。
 だが、彼女らの猛攻はこれに留まらず、更にスピードを増していく。
「さあ、炎よ。奴らに絡み付いて燃え盛るのじゃ!」
 『炎の召喚』が連続して分体に飛来し、一体、また一体へとからみつき燃えていく。
「貴様らの目的は知らんが、この世界に害をなすのであれば……消えてもらう」
 短く言い放つ晶の攻撃に迷いはない。
 着実に、一体ずつ消し飛ばしていく。分体の攻撃が来る頃には既にその場にはいない。
 何度目の見事になるだろうか。しかし、見事といわざるを得ない一撃離脱戦法。
 そして。
「この場所を守れるのは自分だけ。だからアンタがどれだけ強かろうが関係ない。最後まで抗うよ。この身果てようとも、徹底的にねっ」
 敵の真ん中に自ら飛び込み、一瞬の油断もなく敵を蹴散らしていく心美。
 淀みなどなく、敵を倒すことだけを考え、それを実行する。
 だからこそ彼女は中心にいても戦える。少しの反撃程度では退かない。
「まあ、わらわには世界も正義も関係ない。が、仲間とその居場所を奪うのであれば話は違う、ということじゃな」
 ワールドホライゾンに訪れたこの未曾有の危機をその手で払うために。
 リーゼロッテは群れる敵燃やし尽くす。
 晶は着実に消し飛ばしていく。
 心美は敵の中心で暴れつくす。
 欠片も退くことはしない。
「これは、負けていられませんね」
 先ほど車中で叫んでいた境弥も改めて戦線にその身を投じる。
「手数で負けているのであれば、手数で押し返せばいい……」
 そう言って、精神を集中させ始める境弥。
 程なくして、彼の背後に異界の門が姿を現した。
「界霊というものがどれほどかはわかりませんが、邪神の群れは止められますか?」
 薄く微笑むと同時に門が開く。当然、門の中から現すは邪神の群れ。
 マギウスの奥義『門の解放』。
 暗雲のような界霊の分体と、おぞましい出で立ちの邪神群がせめぎ合う。
 その光景は異質を極めた。だが、程なくして軍配は邪神群にあがる。
「あまり芸がないかもしれませんが、これもどうぞ」
 その邪神群の勢いを後押しするかのように境弥が『炎の御手』で追撃する。
「燃やされるか、邪神に消されるか。その選択権は差し上げますよ」
 数での優位もなくなり始めた界霊。
 更にカンナと重韻の音楽も常に特異者たちを奮い立たせることに貢献し続けていた。
 すると、界霊は重韻に狙いを定める。
「させん」
 それを予見していたジョン・ハイゼルが重韻に襲い掛かる分体を斬り払う。
 傍らにはレイナ・ハイゼルの姿もあった。
「……」
 無言で分体たちを威圧するジョン。が、それだけでは終わらない。
 距離を取った分体たちに【ツインフォトンガン】でもって応戦。
 狙いは正確無比、分体たちを撃ち抜いていく。彼に遠距離も近距離も関係ない、全てが彼の攻撃の間合いだった。
「私も、参ります!」
 【銀のレイピア】を構えつつ、レイナが走る。
 真正面から走ってくるレイナを最優先迎撃対象に変更し、反撃を行う分体。
「当たりはしませんっ!」
 単調な攻撃を跳躍してかわしつつ、レイピアを分体へと突き刺す。
 少しの間、分体の体は揺れた後に霧散していった。
 自分に有効な間合いを保ったままレイナがレイピアを振るう。
 二人の護衛の前に重韻を止めることも叶わぬまま、分体は消えていく。
「甘い」
 レイナを迎撃することに夢中になっていた分体の側にはジョンの姿が。
 反撃などさせずにジョンが分体たちを斬り払っていく。
 時折、フォトンガンで本体を攻撃することも忘れないジョン。
 特異者たちは勢いを取り戻しつつあった。だがしかし、界霊もそれをよしとはしない。
「……っ!?」
「な、何です!? この嫌な、感じ、は……!?」
 それまで止まることなく戦い続けていた特異者たちの手が、足が止まる。
 気だるさ、疲労感、嫌悪感、猜疑心。彼らの心にはない感情が、彼らを支配していく。
 そしてそれらは、形を成して特異者たちに襲いかかり始める。
「……サ、ラ?」
 ジョンの前に現れたのは、元恋人であるサラの姿。
『―――』
「そんな、はずは……」
 ……幻覚。それが界霊が行った攻撃。
 体力面では申し分ない彼らだが、精神面までもがそうとは限らない。
 他の特異者たちもそれぞれの幻影、幻覚、幻聴を前に困惑を隠せないでいた。
 その間に、界霊は態勢を整えようとしていた。
「そうはさせません」
 それまで微動だにしなかったヴァーパルが動いた。
「―――――――」
 音もなく、声もない。それなのに岬に広がっていた負の意識・感情が和らいでいく。浄化の力の応用、なのだろうか。
「……これなら、ば」
「な、なんか元気出てきたかもっ」
「そう、じゃな」
 ヴォーパルのすぐ側にいた重韻、叫、サキス・クレアシオンが立ち上がる。
「それでは、最後の曲と、参ろうか……!」
 ふらつきながら、重韻が伴奏の準備をする。
「はは、うえ」
「……受け入れてやろうぞ。受け入れた上で、わしたちの歌を捧げよう」

♪♪―――――――――♪♪

 叫とサキスの声が重なり合いながら、岬全体へ広がっていく。
 それを重韻の伴奏が引き立たせる。
 ヴォーパルの力と相まって、特異者たちの鼓膜を振るわせる鎮魂歌(『レクイエム』)。
 だが、界霊も負けじとさらに幻覚攻撃を強める。
 せめぎ合う界霊の幻覚と二人の歌。

(たりない? 僕の歌じゃ、たりないのかな……?)
(このレクイエムは、わしらの思いは、届かぬのか……?)

 強い幻覚の前に心が折れそうになる二人。
 それでもなお歌い続ける。

(……ううん。まだ、戯曲はおわらない)
(……きっと届く。この思いは、届いてくれる)

 折れそうになる心を、逃げ出したくなる自身の心を鎮める。
 やがて、レクイエムは特異者の鼓膜をノックし始める。
「この歌声と音色は、お三方、でしょうか」
 境弥が振り返る。
「歌が、聞こえる……」
 カンナが振り返る。
「ああ、素敵な歌だね」
 心美が振り返る。
 特異者たちは振り返る。自分の鼓膜をノックしてきた音色と歌声に。

(僕はまだ、特異者じゃないけれど、歌うことはできる……!)
(怒りでもなく、恨みでもなく……優しく、語るように……)

 二人の歌声に力強さと優しさが灯る。
「負けては、いられないな……!」
 そんな二人の歌声に勇気付けられ、重韻の伴奏にも本来の気品や美しさが戻っていく。
「ジョ、ン……!」
 未だ幻覚から逃れないジョンに、レイナがか細い声で叫ぶ。
「ジョン……!」
 手を伸ばして、必死にジョンの名前を叫ぶレイナ。

(この歌を、みんなをっ!)
(この歌声を、みなにっ!)
((歌い届ける……!))


♪―~~~―――――――――~~~~~~――――――――――~~~―♪


 二人の想いが重なった時、その歌声は特異者の鼓膜を、心に届く。
 歌が幻覚に勝った瞬間である。
「過去に、囚われないでっ! ジョン!」
「……っ!」
 思いの丈全てを言霊に託したレイナの言葉もまた、ジョンに届いた。
 まだ薄っすらと見える幻覚を見据え、かまわず『フォトンスマッシュ』でかき消すジョン。
「……助かった。ありがとう、レイナ」
「……いいえ。私の想いが届いてよかったです」
 ジョン、レイナに続き他の特異者たちも自身を取り戻す。
「わあ! 遂に僕も、特異者になれたんだ!!」
「よかったのう。めでたきかな」
 既に特異者ではあったが、心の成長を遂げ、ある意味覚醒した叫。
 それを我が事のように喜ぶサキス。
 二人の歌声と重韻の伴奏が、界霊の幻覚攻撃を破った。
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