激闘、再び
「ハッ! 復活していい気になるなよ。もう一度、消してやるっ!」
臆せず前に飛び出す
四月 七日。あくまで直進。
何か、策があるか。否―――。
「真っ直ぐいって、殴り飛ばす。ケンカを売ったお前がいて、買った俺がいる。なら、やることは一つっ!」
迫り繰る界霊の分体を交わした、殴り消し飛ばし、強引に本体へと接近する七日。
「こうして……!」
全ての分体を倒すや否や、拳を思い切り振りかぶる。加速分も体から拳へと移動させ、そして。
「殴り倒すっ!!」
振り抜く。単純、シンプル、だからこそ重い一撃。
闇を振り払うかのような一撃は界霊本体に重く響き、霧散させる。
「意思があるかはしらねぇが、一つだけ言っておく。……一昨日きやがれってんだ!」
手のひらを固く握り締めて高らかに言い放つ七日。
それに対して界霊もまだまだその身をよじらせ、抵抗する気だ。
「まだろっこしくなくて助かる。何度でも消滅させてやるからよっ!」
少しも動じず七日が駆け、分体、本体の差別なく平等に殴り飛ばしていく。
「こんなにも多くの仲間たちがいる。だからこそ、負けるなんてありえない」
「ゴダムで学んだこと、信頼や絆、その力はあらゆる困難を乗り越える……それをもう一度証明するんだ!」
「これもまた歴史のひとつ、この目に刻み付けないとね」
七日に続き、
ロッカ・ブランシェ、
紅葉 ユキ、
イヴ・フリートら三人も戦闘に参加する。
彼らの後ろでは
マーチングがオーケストラを奏でていた。
「それじゃ僕は寄ってくる分体を叩くから、本体は任せるよ」
言うと同時にイヴが二人の警戒を開始する。
周りにはこれでもかというくらいの数の分体が蠢いていた。
「一人で平気?」
「問題ない。何が何でも二人は守るよ」
ユキの言葉にためらないく即答するイヴ。無論、それは虚勢ではない。
「分かった。任せる」
「早く倒さなければ。……おぞましいあの姿は、目に毒だもの」
ロッカの言う通りだ。界霊本体の姿は、不安、恐怖、絶望……負の感情が集まり、形成したようにも見える。
長時間見続けて気分がいいものではない。
「意識を乗っ取られてる人だっているそうだし……絶対に止めないと」
「ロッカちゃんの言う通り。弱点はないそうだけど、それでも一度は消滅させた。だから、きっと倒せるはず!」
打倒。その二文字を胸に秘める二人。
そのためにユキは『パリエス』を、ロッカは『魔法の歌』をお互いにかけあう。
程なくして分体が三人を気取り、群れを成して襲い掛かってくる。
「残念だけど、ここから先は通れないよ?」
イヴがそれを阻む。いいや、阻むだけではない。
流れるような動きで分体の攻撃をかわす。
そこから拳を放ち消し飛ばし、蹴りを穿ち薙ぎ払う。
分体はなすすべなく打ち払われその姿を無に変えていく。
しかし、数の違いは歴然。他の特異者たちも分体の数の多さに手を焼いている。
「イヴっ!」
「……! 食い止める、絶対に食い止めるから! そっちは本体をっ!」
助けに入ろうとするユキを叫んで制止させる。
イヴの叫びを聞いたユキも己が為すべき事を自覚し界霊本体に視線を向けなおした。
「……信じる。仲間の力を、絆の力を」
「そうっ! イヴさんを、他の特異者さんを信じて、ホライゾンを守るの!」
イヴが開けた分体と分体とのその切れ目に『黄衣の風』を割り込ませ、敵を一掃するロッカ。
目の前には、界霊本体が蠢いているのみ。ユキとロッカが頷きあう。
それが、攻撃の合図。二人は息を吸い、言葉を放つ。
「―――『響鳴』ッ!!」
「―――『ルミナリア』ッ!!」
瞬間、光と音が界霊にぶち当たる。その攻撃を嫌がるかのように、界霊が大きく揺れる。
「そんな風に彷徨うくらいなら……暫く眠ってたら?」
その隙を見逃すはずなく、イヴが『無影脚』を見舞う。
影が見えぬほどの速度で放たれた蹴りは、界霊の一部を刈り取る。
界霊もすぐに反撃するもののイヴを捕らえることはない。
「まだ、足らない……だからって負けたわけじゃ」
「足らないなら、足りるまで繰り返そう! 渾身の一撃を、何度でも!」
「分体は任せて。すぐに倒しちゃうから」
ロッカもユキもイヴも諦めたりはしない。その眼光の奥深くには、未だ闘志が燃えていた。
と、その時。
「派手にやってるな! この勢い、乗らないわけにはいかないってな!」
街から岬に向かって爆走する【G型ミカワヤカスタム】。運転するのは
アシェル・メルキオール。
「おらおらおらー! 道をあけねーと……分解してガソリンにしちまうぞ界霊ども!」
卓越した運転技術で分体を消し飛ばしながら、ドライバーズハイ状態で走り続けるアシェル。
「いたなでかいの! 会いたかったぜ……!」
界霊本体を射程距離に捉えたアシェルの目の色が変わる。
その目は、獲物を捕らえた狩人の目。
「さあ、準備はいいか!」
「戯曲は動き出した……アイスファミリー劇場、今ここに開幕!」
車の屋根の上に仁王立ちするは
私 叫。
「既に伴奏はしている。この状況を打破するための、雰囲気を変える良い曲を」
敵の数に手を焼く特異者を奮い立たせるように伴奏する
音舞 重韻。
「アイスファミリーサイコー!」
その後ろにいた
藤白 境弥が叫ぶ。
「オーケー……それじゃ、派手にいくぜぇ!」
アクセルを踏み込む。速度は限界。地球だったら確実に捕まるスピードで界霊本体へ向かっていく。
「今だっ! 散れ!」
アシェルの一声に、車に乗っていた特異者たちが一斉に脱出。
「さらば! 我が愛車よ!」
運転手であるアシェルもスタントのごとく大脱出後、車は界霊へとぶち当たる。
「さあ、次は車の敵討ちだ!」
界霊に無名の罪を着せつつ、【アギーレの銃】で弾幕を張る。さらに『ドリームウェポン』を使い弾幕を厚くさせる。
しかし、無茶がたったアシェルはその場に倒れこむ。
「俺は、もうだめだ……あとは……まかせた、ぜ……みん、な…………」
そのままアシェルは、意識を失った。
「拡声機……はなくとも音は広がりそうだな。カンナさん」
「はいっ。……マイクなどいりません。私の全てを賭して、歌いましょう」
呼ばれた
異空 カンナが歌いだす。
その歌声に重韻が伴奏を併せる。だが、先ほどまでの伴奏とは違う。
聴いた者の闘志を再燃させるかのような、力強い音。
その伴奏はカンナの歌声をより広く、より明確に特異者たちの心へと染み渡らせる。
カンナの歌声を聴いた界霊は悶える。歌をやめさせるべく、分体をカンナへと差し向かわせる。
だがカンナは歌うことをやめない。
分体が近づいてくることは認識していた。それでも歌声をもっと遠くへ、心の奥底へと届かせる。
しかし、分体は最早カンナを捕らえていた。あと数秒でカンナを捻じ伏せるだろう。
♪―――――♪
それでも、カンナは歌う。
それは、無策ではない。無謀でもない。無茶でもない。
例え分体が自分に襲い掛かろうとも、自分は歌い続けられる。
なぜならば―――