弱点なき敵
「自分も先ほど『アナライズ』を使用したでありますが、これといった情報をありませんでした」
「ぼくのかんさつがんでもじゃくてんっぽいのはなかったよー。とーじょーはどうおもう?」
二人の話を聞いた一は少し考えた後、一つの答えを導き出す。
「観察眼で弱点を見出せず、アナライズでも有益な情報がない。とどのつまり、弱点らしい弱点がない、ということだろう」
「弱点を攻めて一気に落とす、それができない厄介な相手ね」
界霊に弱点はないと予測する一。
「つまりは、きってきってきりまくれー! ってこと?」
「要約するとそうなるな。攻撃し続けろということだ」
「アーヴァイン! わたくしたちはそのことを周りの特異者たちに知らせますわよ」
「了解であります!」
アーヴァインとディートリッドが各特異者たちへと情報伝達に向かう。
「よーし! それじゃーあのへんなのをきって、わたがしにしちゃおう!」
「本当に甘ければ是非もないんだがな」
「あら、砂糖でも振り掛ければいいんじゃないかしら?」
それぞれが独自のペースでものを言う。その横ではハイプリエステスが絶え間なく攻撃をしている。
それを受けた界霊も黙ってはなく、反撃をする。
が、その反撃は、
「例え無力でも攻撃をする。その邪魔をしないでもらいたいのだが」
鋭い眼光で睨みつける一に、
「大きいからって調子に乗らないでいただける?」
眼光の奥底に昂ぶる感情を宿した真琴に、
「しんみょーにわたがしになるんだー!」
別名、【ショタ式ハニートラップ】の羊に阻まれる。
「それでは、こちらもいかせてもらおうか」
一その場から動かず、『生体ミサイル』と『ポイゾンニードル』の雨が界霊へと注がれる。
「……見たところ、毒も回らなさそうだな」
「いいんじゃない? 要は体全体、消し飛ばしてしまえばいいのだから」
真琴は眩い光を伴う『ルミナ』を発動させた後、フラマを応用させより強力になった『フェブリス』を発生させる。
「普通なら退路を塞ぐんだけど、貴方の場合は進路の方が効果的よね」
界霊の進行方向に炎を発生させて進行の妨害をする真琴。
「燃やし尽くすのなら、手伝うわ」
真琴の横にこの戦闘に参加していた
藤原 千寿の姿が並んでいた。
発生した炎が消える前に、『スピードリーディング』を使い詠唱を高速化、その上で多量の炎を召喚する『炎の御手』を発動させる。
岬の一面は炎の海と化し、界霊の一部を苛烈に燃やしていく。
「まるでクトゥグアの手のようね」
「そのまま界霊を鷲づかみにして燃やしてくれたら楽なのだけど」
魔法使いとマギウスの炎魔法の合わせ技。我が身を焼く炎と、進路を塞ぐ炎。さすがの界霊も進行を止めざるを得ないかのように思えた。
「……それでも尚、僅かでも前進するのね。ここまでやっても、敵扱いには満たないのかしら」
天高く燃え盛る炎に焼かれながらも前進することを止めない界霊。
「迷惑千万、ここに極まるね」
千寿がため息を漏らす。それでも攻撃の手だけは緩めはしなかった。
「敵意もなく、人を繰る。関係ないが」
淡々と言葉を吐き出す
美剣 玲。揺らぎ漂う界霊を無表情で見る。
「だがやる事は一つ」
途端、飛び上がり界霊を斬りつける。
一太刀。
二太刀。
三太刀。
ただただ斬り続ける。それ以外の行動は全て排していた。
当然、斬られた分だけか界霊も反撃する。襲い来る剣や斧、果ては生物のような出で立ちの雲か霧の攻撃を弾き、避けた後に退く。
「できる、やれる事をやればいい」
一言呟き、すぐさま同じ行動を取る。斬っては避けて退きの繰り返し。
地味な作業にも思えるが、玲の攻撃は着実に界霊の一部を消滅させ続けていく。
「……ん?」
それまで反撃だけしかしてこなかった界霊が、玲へと攻撃を行う。
「頭に来た、というところか」
危なげなくかわして、次の攻撃へ備える玲。だがそれは杞憂に終わった。
界霊からの追撃はなく、ただ浮遊し前に進もうとするのみ。
「成る程。まだ足りないということか」
先ほどの動作から、自分なりに結論を出す玲。しかし、その結論を誰に告げることもなく、自身のできる事に集中する玲。
「界霊を……倒さなければ……多くの人が不幸になるかもしれない……。だから私は……あなたを倒します」
どことなく儚げな印象の
閃鈴 内名が現れる。その傍らには
マーチングが控えていた。
「無理だと判断したら……退いてください」
内名の言葉を聞いたマーチングは『オーケストラ』を使うため、特異者が多く集う場所へと向かっていく。
「……いきます」
【スピードスター】の効果を存分に発揮し、地上を高速で駆ける内名。
十分に近づいた後、地面スレスレにいる界霊を【フレイムスロワー】で焼き尽くす。あまりのスピードに炎が流れているかのように見える。
対応は遅れるものの界霊も内名を襲う。けれど、内名を捕らえることはない。
それどころか反撃の数秒後には別の箇所で内名に燃やされる始末。
集中状態に入った内名は止まらない。
「念のため……」
霧・雲状の界霊に囲まれないように、適時ハスターの力による『黄衣の風』を使い界霊を牽制しつつ攻撃を続けていく。
「あれだけの炎を前にしても、尚進行を試みるとは……貪欲というか、なんというか」
「むちゃくちゃじゃのう」
真琴と千寿の合わせ技を見ていた
西澤 刹那と
モニカ・ウェルフェン。
そのすぐ近くにはもう二人のパートナー、
トーニャ・シュヴァルツや
ニノ・シルフェードの姿もあった。
「して、どうするんじゃ? 炎では完全に霧散しそうにないぞえ」
「ですが進行を阻むことはできます。決して無駄にはならないでしょう」
「了解じゃて」
刹那とモニカが同時に『炎の御手』を発動させる。
炎が界霊と入り混じり、界霊の身を焼いていく。
「それで、次はどうするのじゃ」
「熱してダメならば、冷やしてみましょう」
アフーム=ザーが纏う青白き炎、極寒の冷気の如し『アフーム=ザーの息吹』が界霊を襲う。
かつて、封印された際に一帯を氷河に変えたとされる冷気は界霊を氷結させる。
「効きはするものの……」
「これといって弱点というわけではないようじゃな」
手痛い攻撃を受けた界霊が刹那に反撃をする。それまでの反撃と違い、界霊の一部が切り離された分体が刹那たちに襲い掛かる。
「ここから先にはいかせんませんわ!」
「これ以上は通行不可能」
刹那とモニカの前に躍り出たトーニャとニノ。
「雲だろうと、抜かせませんわ」
界霊の一部に痛烈な『パンチアウト』をお見舞いするトーニャ。
その横ではニノが【ガトリングガン】を構えていた。
「攻撃対象を特定、攻撃を開始」
無数の弾丸が切り離された界霊をハチの巣にしていく。
「これはおまけですわ」
合わせてトーニャが【ミサイルランチャー】を使用して、爆発させて薙ぎ払う。
二人の見事なコンビネーションの前に、瞬く間に界霊の一部は消滅した。
「やりましたわね」
「任務完了」
「二人とも、お疲れ様です。……弱点がないとは聞いていましたがここまでとは。本当に、面倒な相手ですね」
言葉の端に毒がでる刹那。どうやら心中は穏やかではないようだ。
「ならどうするのじゃ? 逃げ帰るのか?」
「いいえ。こうなったら全てお見舞いしましょう。神話の世界を、ね」
そう言いながら笑う刹那。そして虚空から無数の触手が現れる。
『シュブ・ニグラスの触手』でもって、界霊を散り散りにしていく。
「……まったく、悪い笑顔じゃのう」
「そんなことはありませんよ。ええ、ありませんとも」
「どうじゃろうな」と言いながらモニカも再び攻撃に参加。
界霊本体への攻撃は刹那とモニカが、界霊分体の迎撃はトーニャとニノが担当する。二組に分かれて、効率よく攻撃を行っていく四人。