操られてしまった新米特異者を抑えに回っていた
藤堂 エセルは、その中に兄である
藤堂 レオンの姿を見つけた。
「お兄さ――」
声をかけようとして近寄ろうとした瞬間に、様子が違うことに気付く。レオンは避難をしようとしている新米特異者に向かって攻撃を繰り返しているのだ。新米特異者はそれに対して応戦しようとするが、一瞬の隙を見つけると、レオンは「五行の構え」の下段を使用して刀で一刀両断していく。
「お兄様を止めなくては……正道踏み外したお兄様を、また正道に引き戻すのも妹としての務めですので」
エセルはレオンに急接近をして、新米特異者に攻撃をしようとしている間に入り、六枚翼にて受け流す。
「さあ、今のうちに!」
エセルはそういうと、攻撃されようとしていた新米特異者はその場から逃げていった。
「……」
しかし、目の前に現れた妹を目にしても、レオンは気付いていない様子だった。
「お兄様……私だと気付いていないのですね……」
エセルは少しだけ悲しい表情をするが、大切な兄に帰ってきて欲しい、と強い意志を持った瞳へと変わる。
「申し訳ありません! 私が囮になっている間に、お兄様に攻撃を加えてください!」
周りにて避難をしようとしている特異者に向かってエセルは言う。
そして、「セラフィムユニット」を駆使して、兄レオンの攻撃を受け流したり、レオンの構えを崩していく。そこへ現状を危険だと感じた周りの特異者たちは、レオンへ攻撃をしていく。しかし、自我を失ったレオンはこの程度では倒れない。
「やっぱり強いなぁ、お兄様……」
この強さに、エセルは敬意さえ覚えるが、今はそんな場合ではない。
「――けど、負けませんのでっ!」
再びエセルはレオンの攻撃を受け流したり、構えを崩す。その隙を狙って、避難をしようとしている特異者もエセルも攻撃を加える。その怒涛の攻撃に、レオンは徐々に構えをすることが出来なくなってきていた。その瞬間レオンは逃げようと動こうとする。現状では不利だと考えたからだ。自我を失っているといっても、レオンは冷静だった。しかし――。
「お兄様、これで終わりですのでっ!!」
エセルは「加速機構」からの「デッドリースパイク」をレオンに食らわせる。その攻撃にレオンは膝をつき、そのまま倒れた。それを見た周りの特異者は安全を確認し、再び避難を再開した。
「わ……私は……」
レオンはエセルの膝の上で目を覚ました。そして、エセルの姿を確認する。
「私は界霊に操られてしまってたんですね……」
界霊から開放されたレオンは現状を把握する。しかし、エセルは「お兄様」を助けることが出来たことで涙を浮かべていた。
「おかえりなさい、お兄様」
その言葉は震えていた。しかし、それに対してレオンは笑顔で答える。
「ただいま」
こうして、兄弟の戦いは終わったのだった。