■プロローグ■
さんぜんかいいきたねこが、死んだ。
その認識が、行き渡るより早く、ワールドホライゾン全体への危険が迫る中、
猫宮 織羽はぽろりと小さく涙を零しながら、簡素な墓の前に白いカーネーションを供えていた。
墓を作るのを手伝った特異者たちは、もうすでに生き返っている、と言う話を聞かされているせいか、お供えをしなければ、と言う意識も無かったらしく、墓前はおざなりに近くにあった花が添えられた程度で、皆、それぞれ戦いや探索の場へと向かって行ったらしい。
一応の弔いにか、その場に留まっていた
境屋に織羽は「ねえ」と話しかけた。
「すぐに生まれ変わるって分かってても、やっぱり死は悲しいよ……全ての猫はわたしにとって、家族みたいな愛する存在だから」
「そうかい」
煙草をふかしながら、良い言葉も見つからなかったのか、境屋が曖昧に答える中、織羽はしゃがみこんで、誰かに悼まれることも無く作られた、小さな墓石を切なげに撫でた。境屋は言った。これが普通の人間だったら俺も悲しむさ、と。直ぐに生まれ変わっているのだから、悲しむ必要も無く、当人と会うことができるのだから、と。
悲しむ自分の方がおかしいのだろうか、と織羽は眉根を寄せた。終わらない命。それは、終わらない苦痛のような気がする。だが、今は悲しむのは後だ。
ぐいっと涙を拭って、織羽は立ち上がると、境屋に頭を下げた。
「すぐ見つけてくるから!」
そう言って、くるりと踵を返した背中は、あっという間に駆け出して行ったのだった。
■目次■
1ページ プロローグ・目次
【1】さんぜんねこを探す
2ページ ねこをさがして さんぜんり
3ページ ためらい街の人々 1
4ページ ためらい街の人々 2
5ページ 混乱の最中で
6ページ さんぜんねこは だれのてに
【2】新米特異者たちを避難・抑える
7ページ 【守るために~後方~】1
8ページ 【守るために~後方~】2
9ページ 【特異者vs特異者】1
10ページ 【特異者vs特異者】2
11ページ 【特異者vs特異者】3
12ページ 【特異者vs特異者】4
13ページ 【守るために~シェルター~】1
14ページ 【守るために~シェルター~】2
15ページ 【守るために~シェルター~】3
16ページ 【自分たちが出来ること】1
17ページ 【自分たちが出来ること】2
【3】界霊を倒す!
18ページ 未知の脅威、襲来
19ページ 弱点なき敵
20ページ 界霊、消滅―――?
21ページ 激闘、再び
22ページ 幻覚と歌
23ページ 魂を乗せて
24ページ 浄化開始
25ページ 守護・戦いの果て
26ページ エピローグ