「一徹二徹は当たり前~三徹四徹はなんのそのぉ~」
拠点の一角に
永見 博人の物騒な歌声が響き渡る。リズムに合わせ、打ち込むのはキーボードだ。繋がれた沢山のケーブルは葉脈のように広がり、周囲にその根を広げている。終着点は博人のコンピュータ、そこから別路線として延びている線はこの地の機体に繋がっている。修復が円滑に進むよう、それぞれの損傷具合をエラーと共に照らし合わせ、取り替えが必要なのかを確認しているところであった。
「うん、うん……これは内部部品の破損かな。小さい部品たちだから取り出しが大変そうだ……修理の前にF05-2898さんに確認しておいた方がいいかな。オーフェデリアさん、この機体は後回しでお願いします」
「分かりました。部品の番号は分かりますか?」
「まとめて紙に印刷しておくね。そっちの修理はどう?」
オーフェデリアは油のついた手をスカートで拭い、機体へと目を向ける。
「モーターの異音が未だ止まりません。外部から分かる範囲では修理したのですが、もしかしたらシステム自体に破損があるのかもしれません」
「負荷が掛かってるのかな……そっちも見てみるね」
「お願いいたします」
博人は機体につながったケーブルを外し、コンピュータを抱えてコードを乗り越えた。向かうのは異音がするという機体。
見た目は既に整えられており、簡単な動作も問題なさそうではあったが、耳につくのは甲高い機械音。近くにいた機械生命体に聞いてみても、待機中は静かな機体だったはずだと返答される。
「システムをちょっと覗いてみよう」
機体にコードを接続。解消されたはずのエラーに目を通しながら、音の発生源を隅から確認をしていく。戦闘用に作られているのである程度は頑丈のはずだが、機械は細かなパーツ同士が掛け合わされた精密機械だ。衝撃対策が採られているとはいえ、機体の構造次第では小石が挟まって後々重大なエラーが起きることもある。いかに厳重な対策を講じていたとしても、相手が精密機械なのには変わりないのだ。
「ついでにセキュリティの強化もしておきたいな。後々機能を追加するにも敵側に悟られない方がいいし……それになにより、知りたい事もあるからね」
博人が考えていたのはこの地の機体と、特異者が持ち込んだ機体との相違である。
別の特異者によれば、計算が鍵のひとつになるだろうということだ。そこを違和感なく、また瞬時に行う事ができれば、どのような機体でも違和感を打ち消すことができるだろう。
「問題はその計算だよね。ええと、サポートプログラムを作っているひとたちが居たからそれは任せてしまった方がいいよね……うん、データを集めてそこに乗っかる形でそのへんの研究が進められたらいいかな」
言うのは簡単だが、実際にはかなり時間は掛かるだろう。
調整に次ぐ調整を行い、ズレが生じたらまた調整。しかしそれでも1から新規システムを組み上げるのよりはいくらか現実的だ。問題があるとすれば、よく分からないけれど動いた、という悩みが生まれやすいことでもある。
「みんなの意見も出来るだけ聞いておきたいな。やることは多いけど……五徹からが本番だからね。出来る限り機体のデータを集めておこう、前に修理したときにもある程度データは取れたし」
拠点に来る前、機械生命体たちの救助活動を行っていた際、少しではあるが先んじて調査は進めていた。その時のデータを用いて、システムのすり合わせを行っていくのが良いだろう。
「オーフェデリアさん、紙にまとめたから修理をお願いしてもいいかな」
「ええ、問題ございません。わたくし、D因子ですが……何故だか修理にも明るいのです!! D因子なのですが!!」
たぶん、いや絶対にD因子ではないのだろうなと思いながらも、博人はオーフェデリアへ修理依頼を投げ、機械生命体たちと共に改善点を探ることにした。
それが実を結んだのはしばらくしてからのこと。サポートプログラムを開発していた特異者と共にテスト段階へと移行することができた。
支援機体をベースとした試作機構。そこに加えたのは他の機体にも応用できるシステム。あらかじめ詰め込んだデータからAIによる選択肢の構築を以て機体の制御をしようというものである。
流用システムを搭載したアーマードスレイヴに乗り込んだのは
永見 玲央だ。
以前と同じ構成、テスト用にウォーターブラスターを手に拠点外のひらけたスペースで実験を行う。移動しつつの射撃、回避行動、魔力との相性。そして重要なのがどの機体を参照にすれば効率が良いかの確認だ。
「お義父さんどう~?」
通信機を通じ、コックピット内に博人の声が響く。
「それぞれの機体から取ったデータを組み込んだ方が良いかもしれませんね。そちらの方が工数も少なくなるでしょう」
「全般的な処理は難しいってことだよね。アーマードスレイヴに合わせるのなら何がよさそう? 形からするとやっぱり重鎧機体?」
「地上での立ち回りに合わせるのであればそうでしょうが、狙撃を第一にするのであれば天鳥ベースでしょう」
どちらを選んだとしても居心地の悪さからは解放されるはずだ。
「どれに合わせるかで動きやすさが変えられるようにしてみようかな。あの謎システムもちょっと確認してみる」
通信を切った博人は小さき息を吐き、調整内容について考えていく。
特化型のシステムに合わせた方が工数が少ないというのは玲央の言葉であった。時間をもっと掛けることができれば手も回せるが、あちらの猛攻を見る限り悠長なことはしていられないだろう。
「……うん、サポートプログラムをもっと活かせるように、それぞれの機体を軸にしてシステムを搭載していったほうがいいかな」
その為には試作が鍵となる。博人は考えをまとめ、一度オーフェデリアの元へ向かうことにした。