「オーフェデリア様って研究者としては優秀なんだよな」
星川 潤也はチベスナ顔でオーフェデリアを眺め、呟く。
オーフェデリアの研究者としての姿は以前より目にしていた。あの時、神にさえ祈りたくなるような逆境でありながらも、彼女は民と傭兵を守る為に奔走していた。そっと目を伏せれば、昨日のことのように思い返せるほど濃い戦いであった。が、いくらシリアスな場面を想像してみたとしても、あの天来のお転婆じゃじゃ馬姿が過るのは致し方のないものでもある。だってオーフェデリアだし。
とくに、あの、ドラグーンアーマーの操縦技術。なんというか、こう、あれである。コメントを出すのも憚れるほどすごいものだ。
「放っておくと色々心配だし、若葉の胃に穴が空いても困るし……よし、俺もオーフェデリア様の研究を手伝います。頑張りましょう!!」
急にやる気を出した潤也を眺め、オーフェデリアは「よく分かりませんが頑張りましょう!!」と同じくやる気を高めた。
とはいえ問題は研究、その内容についてである。
大がかりな改造にも限度があり、狙いを絞っていかなければ無闇に時間を掛けることとなるだろう。どこから手をつけるべきか、潤也は悩み、考える。
「負傷者も多いし、手当てに行っている人も多いけど……きっと、まだ戦いたいはずだよな」
今現在、負傷している者らは仲間の命を守るために死地へと残った者らだ。
結果として想いは実を結び、こうして数多くの機械生命体たちが拠点へと逃れることができた。特異者が手を貸したとはいえ、紛れもなく彼らの覚悟のおかげでもある。
解放軍や特異者が治療にあたっているとはいえ、完治まで時間のかかる者もいるだろう。だからといって彼らを拠点に置いていくのは少々違う気がしてならなかった。
「……そうだ、オーフェデリア様。機械生命体たちも一緒に戦えるように複座式コクピットを開発できないでしょうか?」
「複座式……ですか?」
「はい、たとえば操縦は俺ら特異者が行って、機械生命体たちにアシストをしてもらうとか……サブアームの操縦でも良いですし、通信系統を任せても良いです。人によっては誰かや物資を乗せるためにとかも有用じゃないでしょうか」
現状の機体ではコックピットは一人用。無理矢理一人乗せることは可能ではあるが、決して快適な空間とはいえなかった。無理矢理乗ったところで、攻撃を受けてしまえばモロに衝撃が伝わることだろう。それを防ぐため、もう1人搭乗する余裕を生み出したいというのが潤也の考えであった。
「機体の性能を損ねずに、空間を作る……重心が変わらぬようにバランスを考慮し、バーニアなどの計算もプラスひとり分計算しなければなりません。細かな調整は必要になりますが……実用できれば様々な可能性につながるでしょう。しかしバランスが難しいですね」
「人型の重鎧機体ですととくにそのあたりが課題になるかもしれません……しかし、完成すればきっと力になります!! 頑張りましょう!!」
ふたりは早速コックピットの空間を広げる研究を行うことにした。
操縦席の空間を広げるため、考えなければならないのが各部位への影響である。ただ増設しても、そこにあった装置はどこかへ移さなければならない。移したら移したで次の課題は機体のバランス調整である。いかに頑丈な機体とはいえ、それは綿密な構造デザインのおかげで成り立っているものなのだ。それらを解決するためには――つまるところ調整に時間を掛けるしかないのだ。
それでも内容を絞ったおかげで調整も順調に進んでいく。
最初のうちは、走った時に軸がブレたりと大変であったが、オーフェデリアとの打ち合わせを重ねていけば、徐々に空間を確保することができた。搭乗員数、あるいは積載量の増加はさまざまな可能性へと繋がってくれることだろう。
「よし、オーフェデリア様!! 早速乗ってみましょう!!」
ここまでは、良かった。ここまでは。
「あ、ちょっと……ちょっとまって!! そんなに操縦桿を傾けたらぐふっ!? 違います反対です反対!!」
「えっ、こうですか?」
「違います!! 違います!! そんなことしたら――あーーーー!!」
改造することができた。そこまでは良かった。
しかし潤也は操縦をオーフェデリアに頼んだのだ。なんでですか……?
知っての通り、彼女の操縦技術は圧倒的である。そう、圧倒的にマイナス方面に振り切っているのだ。
アシストを買って出た潤也のサポートも空しく、彼が乗っている席にもの凄い負荷が掛かっていく。
「いや冷静に考えるんだ……オーフェデリア様の操縦でも、この程度で済んでいるということは、他の人が乗ればきっと、きっと普通に操縦ができ――違いますそこ押さないでください!! あっ、視界が逆転……えっ、俺ら今どういう体勢になってるんですか!? ねえ!! これどういう体勢!?」
潤也の叫び声が騒がしくコックピット内へと響き渡った。
試運転を任せる人間は間違っていたが、改造自体は間違っていなかった。そう潤也が悟ったのはそれからしばらくしてのことであった。