~プロローグ~
その日は東方帝国全体が曇り空に覆われており、ジェモロジスト城はいつも以上に不気味さを増していた。
「クククククッ…… いいですねえいいですねえ、鬱屈した空気が一層増した今日こそこの女の食べごろですねぇっ! 雰囲気は大事ですからね……!」
ミランダの目の前でわざとらしく舌なめずりをしてみせる伯爵。
その不快な態度に対してミランダは少し動揺するが、動揺を隠し伯爵を睨み付ける。少し前までの怯えた表情は一切見られなくなっていた。
「……おや? もう覚悟が決まってしまったのでしょうか? そんなの嫌ですねえ、雰囲気が台無しです」
本気でガッカリしていそうなジェモロジスト伯爵に、ミランダは言った。
「……ユータ様が、きっと迎えに来てくれますから」
「ユータ?」
ミランダは目を閉じながら、静かに語った。
「私は信じています。勇者ユータが貴方を必ず葬ってくれると。そして、私の事も見つけ出して、助けに来てくれると――――」
(勇者ユータ…… ほうほう、仲間が助けに来るという事ですねえ。という事は…… クククッ……)
ジェモロジスト伯爵はミランダに顔を近付けて言った。
「ユータは恐らく仲間を連れてきますね……?」
「!!」
ミランダの表情を見て、ニヤっと笑う伯爵。
「ククッ…… やはりな。この城はたった一人の傭兵が突破出来る様な生易しい場所では無いと勇者ならば知っているはずだ。必ず仲間を連れて来る」
「…………。」
「……美味しそうな仲間がいるかもしれませんからね、丁重にお出迎えして差し上げなくては!」
「……っ! ユータ様が集めた仲間は絶対に貴方なんかに負けやしないっ!! あの人は人を見る目はある、きっと精鋭を集めて来るはず……!」
気丈に振舞うミランダを背に、ユータ達を出迎える準備に向かう伯爵。
ミランダは祈った。我々に勝利を与えてくれと。
(きっと大丈夫、ユータ様はああ見えてよく考えてる。必ず沢山の仲間を集めて助けに来てくれるわ)
ミランダの祈りに応えるように、続々とユータが集めた闘いの精鋭達が東の山岳に集まっていた。
【目次】
~プロローグ~
作戦会議
妨害
愛が込めた魔力
茨の庭の攻防
双方、猛攻撃開始!
いざ、決戦。
勇者覚醒
ミランダの本音
決戦
~エピローグ~