「ヒャッハァーーー!! 来たぞ……ここが銀河を駆ける列車の終着駅か!? そして貴女が黒い喪服のコートを着て一緒に旅をしてくれるおねーさんだな!? でもって、ここで機械の身体をもらえるんだよな!? さあ……俺のアレをドリルに!! そして一緒に天元突破して列車で旅に出ようぜヒャッハァーーー!!」
「不届き者!!」
「うぐっ!?」
アキラ・セイルーンは矢継ぎ早に、そして錯乱した様子でオーフェデリアへと語りかけた。ものの、オーフェデリアの拳により直ぐさま黙らせられる。
「ですが、あの扉を潜って来られたということは、わたくしたちと同じ……えっ、同じですか? ちょっとショックなのですが扉さん」
オーフェデリアはもの凄いショックを受けた顔をしながら扉に目をやった。つられるようにしてアキラも扉へと目をやり「あぁ」と合点がいく。
「いつもの扉か、今回もまた知らないところに繋がったんだなぁ……」
覚えのあるような言い方を呟けば、オーフェデリアはそれについて問い、静観していたF05-2898も会話へと混ざってこの国について説明をしてくれた。
「機械生命体ねぇ……それって性別とかってあるの? ちなみにF05-2898は男性型? 女性型? 女性型なら手を貸してやろう、男性型なら知ら――あ、すいませんルシェイメアさん。ぜひとも手伝わせていただきますです、はい!!」
勢いを削いだのはアキラと共にこの地にやってきた者のひとり、
ルシェイメア・フローズンであった。
「うむ、ワシが来たからには手綱を握らねばな……。セレスティア、手始めにこやつの頭を機械に変えてしまうのはどうかのう? 黄泉の国へ列車で旅立ちたいというのなら、ワシはいつでも喜んで送り出してやるぞ」
「うーん、アキラさんは全身を機械に変えても変わらないような気がしますねぇ……。それよりも、どう動いていくべきか考えましょう」
セレスティア・レインの言葉を受け、ルシェイメアは然りとその案を受け入れる。ふたりがどの機体を扱うか、どう動くべきかを相談している中、アキラはF05-2898をじっと見つめていた。
「機械生命体でも、服は着るんだなぁ……」
アキラは絶望的な表情を浮かべながらも、あらかた考えをまとめたセレスティアとルシェイメアに引きずられる形で前線へと赴く事になった。
「デフォルトのレーダーでは索敵範囲が少々狭いですね……私の装備で広範囲の索敵をいたしましょう」
支援機体を借りたセレスティアは共に訪れた神官隊と共に、救助者の受け入れ体制を整えはじめていた。戦況を学び、流れを読む。時間稼ぎが目的である解放軍にとって一箇所で戦う策はとっておらず、遮蔽物を利用しながら撤退を繰り返している具合であった。
「ルシェイメアさん、機体の調子はいかがですか……?」
「ううむ、少々勝手が違ってな」
ルシェイメアは自前のスタンドガレオンで索敵を行おうとしていたものの、磁場の影響かあるいは何かが邪魔をしているのか、普段通りの操作性とはいかぬ様子に困っていた。動かせはするものの、操作性に何かが引っかかるのだと少々の気持ち悪さと格闘をしている。
「この地を構成している鉱石と、アークの機体は相性が悪いのやもしれぬな……とはいえ此度は戦闘が軸ではない。普段よりは気を使うが、輸送には問題ないじゃろう。交戦とならぬよう、索敵の報告は定期的に送ってくれるかのぉ」
「そのようにいたします。私はこの周辺に残り、負傷者を受け入れますね。救助活動に当たっておられる方にも情報を伝えられるようにいたします」
「うむ、任せた。わしは高所より救助にあたろう。ところでF05-2898よ、この国では一目で救援だと分かるようなマークやシンボルはあるかの?」
「支援機体そのものが担っております、有効な手段としては通信がございますが……敵機に拾われては面倒なので範囲を狭めながら呼びかけていくのが良いかと」
「そうか、ならば後々分かりやすいように新しいマークを決めておくのが良いやもしれんな……目視で確認しやすいほうが良い状況もあろう。アキラも準備はよいかのぅ?」
ルシェイメアが問いかければ、明るい声色が返ってきた。
「めっちゃ浪漫じゃないですか……装備品が機体にそのまま反映される。つまり、俺のスライムグレネードも反映!! まあ今回は救助が優先だから今度になるけど……概ね準備はオーケー、可愛い子ちゃんレーダーも万全!!」
「……あほたれの準備もよいな。ではセレスティア、この場は任せたぞ?」
セレスティアはアキラとルシェイメアを見送り、早速索敵へと勤しんだ。
大まかな位置特定を行い、ふたりへ共有。高所へと逃げ込んだ救助者に関してはルシェイメアへ、場所の特定が難しいところはアキラへと割り振っていく。コックピットに閉じ込められた者達も数多く、都度アキラが出向き重鎧機体のパワーでそれらを解決していったが、重鎧機体は一人用。輸送の際はルシェイメアへと託した。
時折、女性型の機械生命体に対してアキラがエスコートを申し出る場面もあったが、性別の分かりづらい機械生命体により、その大半が男性型であることを知り、心にダメージを受けた以外は概ね平穏である。
暫くの間、セレスティアは索敵と通信をこなす状態が続いたが、徐々に負傷者が集まり始めた。索敵の間隔が長くなるので後方へ下がってもらうようルシェイメアへと伝え、セレスティアは処置へと行動を切り替える。損傷の具合はそれぞれで異なり、軽傷から重傷まで様々であった。
「みんな、怪我の具合かや修理ができそうな箇所から回っていって」
ちょっとした機械の修理ならば神官隊でも賄える。あまりに酷い損傷に関してはセレスティア自らが趣かねばならなかったが、助けた者の中に機械医療を担う者がおり彼女を手伝ってくれた。
「機械整備にも人を割かねば後がつらくなりますね……」
救助者がいなくなった時、彼らを運ばねばならぬ問題もあるだろう。そろそろそちらに回さねばならぬと頭を悩ませていた時、セレスティアの元にルシェイメアが戻ってきた。
「何やら重鎧機体でわちゃわちゃしておったので連れてきた」
「わちゃわちゃじゃありませんよ、救助です」
オーフェデリアは胸を張って応えたが、ルシェイメアのやつれ具合を見れば本当にわちゃわちゃだったのだろうなとセレスティアは悟る。ルシェイメアに労いの言葉をかけてみれば、それを横切りオーフェデリアが機体の損傷具合を眺めて声を上げた。
「……あら、機体の修理にまで手が回っていないのですか? それならわたくしもお手伝いいたしましょうか。本当は前線に行きたかったのですが……」
セレスティアが止める間もなく、オーフェデリアは機械修理へと取り掛かった。事前に若葉から話を聞いた時、彼女には何もさせるなと言われていたので悩んでいたのだが、セレスティアは直ぐにその考えを改めることとなる。
想像以上にオーフェデリアの手際が良いのだ。
「あの、オーフェデリアさんは機械の修理が……」
「多少はできますよ。でもわたくしはD因子がございますので、普段はあまりやらないのですが……」
多少というには謙遜がすぎる能力であった。
間違いなくD因子はなく、G因子の色が濃いことは明らかである。が、セレスティアはその言葉を呑み込んだ。きっと彼女は認めないであろうことを理解しているためである。
「……このまま機械修理をしていただきましょう」
無理に前線へ近づかれるよりはここで修理をしてくれた方が若葉の頼みも達成できる。
セレスティアがルシェイメアへと視線を送れば、彼女も同意だとばかりに、深く深く頷いてくれた。