「オーフェデリアさんとお会いするのは本当に久しぶりですわね、お元気そうで嬉しいわ」
プラネットⅢへと降り立ち、見知った顔に駆け寄ったのは
キャスリーン・エアフルトであった。以前、オーフェデリアと会ったのは豊穣の大地の運営が落ち着いてから、共に観劇を見に行った以来だ。
慌ただしくも懐かしく、友を得た日々。少々思い出に耽っていたキャスリーンであったが、オーフェデリアと話すうちに「んん?」と首を傾げることになる。
「……少し、キャラが変わりました?」
確かにオーフェデリアはじゃじゃ馬で、コルセットに音を上げる程度には貴族らしからぬ娘であった。だというのに、こう、今のオーフェデリアはなんというか。
「D因子のせいでしょうか……」
やんわりと湾曲した表現をする程度にはキャラ変していたのだ。
「わたくしはわたくしのままです。まあ、強いて言うのであれば仰る通りD因子のせいかもしれませんね!!」
「因子で性格が変わるというのは初耳ですが……」
「ふふ、遅咲きのというやつですね。何故だか若葉には止められてしまいますが、D因子ありますのに」
これだけ念を押すところを見るに、たぶんD因子はないのだろうなとキャスリーンは瞬時に悟った。
「私が見るところでは、オーフェデリアさんの因子は傾向的にD因子ではなく、M因子……風水士ではないのかと思うのですけれど……風水士はお嫌いですか? 私も風水士ですけれど」
「風水士……星音を奏でる方々ですよね。確かに楽器の類は幼少期より一通り教わりましたが……でもD因子……」
「色々と試して見るのも良いかと思います。若葉さんの機体を勝手に使って壊してしまったら――あ、もう壊されたのですね。悲しみますね、若葉さん」
既に試し乗りして壊していたという話を聞き、キャスリーンは少しだけ若葉に同情した。とはいえ、当人にやる気があるのであればそれを活かしてみるのも、良き成長の足がかりとなってくれることだろう。たぶん。
「瓦礫の撤去なら、ほら……あちらに立派な重鎧機体がございますよ。あれを使わせていただくのはどうでしょう。ドラグーンアーマーと似ていますから、きっと操縦の練習にもなりますわ。おそらくは」
ここに若葉が居れば「いやそうじゃないんです、そうじゃないんですよキャスリーンさん……!!」とツッコミを入れたことだろうが、哀しいことにツッコミは不在。
オーフェデリアはウキウキとした様子で重鎧機体へと乗り込み、キャスリーンはそれを微笑ましく見送りさっさと天鳥機体へ乗ってしまう。数秒後に倒壊音が聞こえたものの、機体の確認をしているキャスリーンに届くことはなかった。
「さて……落ち穂拾いに来る王国軍を返り討ちにしてさしあげるといたしましょう」
天鳥機体を操縦しながら、キャスリーンは機体ごとの特性について考えている。
状況次第となるが、高加速で懐に飛び込み、至近距離から魔法攻撃を行えば、天鳥以外は概ね対処できるだろう。多数相手となれば勝手が変わるだろうが、今回に限っては単騎と考えても良い。なにせ前線には他の特異者が向かったのだから、そちらの対処に人員を割く流れとなるはずだ。
キャスリーンは加速に必要な装備やを確認し、算段を立てる。距離を詰められるだけの速度は出るか、不備はないかと計算をしてみると眼下に見えたのは解放軍の支援機体だった。車体の揺れからして逃げていることは一目見て分かる。周囲の探索へと切り替えれば、やや遅れて重鎧機体が姿を現せた。地獣機体でないことに安堵しつつ、術式と装備による加速を以て上空を滑り、重鎧へと接近する。小回りの利かぬ相手に差し向けたのは光の術式だ。
鈍色の建物がその輝きを乱反射する。その合間を潜るように飛び、重鎧を相手取る。
「そういえば、王国軍の兵士はどうなるのでしょうか」
生きていれば捕虜にしたいところである。袂を分かつこととなったものの、元を辿れば同じく人なのだ。バルバロイのような外敵とは違うのだから救助も視野にいれたい。
キャスリーンはそのようなことを考えながら、救助に走り回る支援機体を見送り、膝をついた重鎧機体をじっと見つめた。