「ありゃ? わかばちゃんのご主人様じゃん~?」
プラネットⅢへと降り立った
戦戯 シャーロットはオーフェデリアの姿を見かけ、ぶんぶんと両手を振った。
「ええと、あなたは確か……若葉と……」
オーフェデリアはそういえば、と前に若葉と共に行動していた者の姿を思い出す。
「お久~♪ そうそう、わかばちゃんの~。そういえばしっかり話すのは初めてだっけ? 豊穣の大地にいたドラグナーちゃんを鍛えた、フルール歌劇団の団長シャロちゃんだよっ♪」
あの時、豊穣の大地は死の大地の名に相応しき有様であった。
忙しない戦いの連続、過酷な環境。それらは巨大なバルバロイ討伐を以て収束したが、オーフェデリアにとっての戦いはその後が肝であった。手助けをしてくれた傭兵や特異者の皆と関わりにバラツキもあるのは致し方がない。しかし、若葉が様々なことを語っていたために、シャーロットの名前と活躍はなんとなく知っているという状況である。
「あの時はありがとうございました」
「いいのいいの、それより今どんな感じが教えてもらっていいー?」
訪れたばかりのシャーロットはまずどのような状況かを問うた。
オーフェデリアも来たばかりで、F05-2898という個体から聞いた話となりますが……と前置きをし、知っている限りのことを教えてくれる。
「ふむふむ、ざっくり言うと~暴走したマザーコンピューターに支配された国って認識でおっけー?」
「そのマザーというのが何を指しているのかは分かりませんが、概ねそのようにわたくしは受け取りました」
まだ一方の話どころか、F05-2898の言葉でしかこの国を計れてはいない。しかし、助けを求めている者がいるのであれば、話を聞けるだけの段階に持っていくべきなのだろうとオーフェデリアは続ける。
「うーん、まさかよそで整備長をしていた経験が活きる機会があるとはなー……とにかく、マザーちゃんの軍に追われて、怪我をしているロボットちゃんがいっぱいなわけだね? 今回は斬りこみより人命……? ロボット命優先!!」
シャーロットは借りられる機体について聞き、早速支援機体を選んだようであった。
そんな彼女の姿を眺め、
アレクス・エメロードは「んー」と唸り、言葉を紡ぐ。
「昔を思い出さずにはいられねぇな……」
かつて己がそうやって助けられたように。機械に慣れている彼女に様々な想いを抱く。
「器用だよなぁ……っと、シャロが救助に回るなら、俺も機体を考えるか」
万が一に備えて索敵だけではなく、ある程度動きやすく相性の良い機体が必要だろう。空から見られたほうが救助にも横やりにもいいだろうと、アレクスは天鳥機体を借りるべくF05-2898の元へ向かうことにした。
「ふんふふーん、整備時間を短縮してくれるハンマーもあるし、機体の外装もあるし、おまかせおまかせ!!」
シャーロットは支援機体を運転しながら、上機嫌で機械生命体の探索へと趣く。助手席にはオーフェデリアを乗せ、出来る限り隠密を意識しながら瓦礫の山へと辿り着いた。
「あの、わたくしはドラグーンアーマーを持ってこなくて良かったのでしょうか……?」
「オーフェデリアちゃん……ドラグーンアーマーを動かすより任せたいことがあるからさ」
確かに修理さえすればドラグーンアーマーも動かして貰えるだろう。しかしあの破壊具合、そして特異者から聞いた話によればD因子の適性は無いに等しい。まともに動けないドラグーンアーマーなど、敵にとっては狙いやすい的なのだとシャーロットは速攻で却下する。
「囮ならいいんだけどにゃー……わかばちゃんに怒られちゃうから今度ね。それより地質学的観点から、安全に隠れられそうな場所みつけてほしーかも。塹壕とか掘れそ?」
「地質学的観点……そうですね。そもそもとして、この地に土と呼べるものは多くなさそうです。この場限りかもしれませんが……」
オーフェデリアは町並みを確認しながら呟いた。
何せ床もとい道路……と表して良いのだろうか。周辺は分厚い鉄板のような地形が広がっている。離れれば土らしき地形もあるが、街の中はほとんどが金属で構成されているのだ。
「金属に関してはコーデリウム合金を調べる際にある程度学びましたので、そちらを軸に安全性を考慮してもいいかもしれません。わたくしの知りうる鉱石ならばの話となりますが……」
「うんうん、それじゃあ安全そうな場所を見つけてほしーかな。一時的な避難所も探したいし、とりあえずで怪我人を運べる場所があるといいからね。瓦礫の撤去はアレクちゃんがんばってね!!」
シャーロットが通信を開けば、アレクスの「はいはい」という気の抜けた返事が寄越された。
「よーし、とりあえず怪我人を探して……通行に邪魔な瓦礫はおまかせしちゃおう!!」
ふたりは支援機体から降り、まずは目視できる範囲から救助を行い始めた。
解放軍らしき機体があれば搭乗者の有無を確認し、コックピックに閉じ込められている者がいればロック解除。機体の損傷に立ち往生している者があれば最低限の修理を行い、F05-2898が居る場所まで向かってもらった。
「ふふーん、ボクは器用さ自慢のアイドルなのにゃー♪ でもちょっと数が多いかな……全快よりも逃げられるだけの回復を目指していくのがいいかなー」
優先順位を決め、損傷具合によりどこまで手当てするかを考えていくほうがいいだろう。シャーロットが手当てや修理に勤しむ合間、オーフェデリアも金属を調べながら簡易の避難所を見繕い、治療待ちの者を誘導したりと大忙しであった。
「大忙しだな。そのあたりの避難は終わったか?」
アレクスは慌ただしく動くシャーロットとオーフェデリアの姿を眺め、通信で問いかける。
「問題なーし。F05-2898ちゃんの所に帰りやすいように瓦礫を撤去してほしいにゃー、瓦礫を消滅させちゃって☆」
「了解」
逃げ遅れた者や取りこぼした者がいないかを確認し、アレクスは空間ごと瓦礫を呑み込み撤去をしていく。時折、王国軍が攻めてきていないかを確認し、接敵を確認後は重力による攻撃を計る。しかし攻撃の範囲はいつもより癖のあるものであり、あぁ~と声を漏らすこととなった。
「威力は申し分ねえけど、一点集中になるな……」
魔力が足りない、というよりは機体の性能が出力デバイスそのものへ干渉しているかのようであった。威力を底上げできる分、単発の回路に重きを置いた設計なのだろう。そのせいで広範囲の攻撃に癖が出ているのだ。
「ま、倒せれば問題ねえな。そろそろ一旦引き上げたほうがいいぞ、全員乗せられるか?」
「往復になるかにゃ~」
「それなら、わたくしががドラグーンアーマーを持ってきましょうか?」
「やらんでいい」
「やらなくていいよ☆」
アレクスとシャーロットの声を聞き、オーフェデリアは見るからにしょげてしまったが、後々話を聞いた若葉が「もっと強めに言っていいですよ」とそりゃもういっぱい太鼓判をおしてくれた。