「誰がどうみても、緊急事態とみて良いですね」
プラネットⅢに降り立った
スレイ・アバルトは倒壊した建物の影から戦況を眺めていた。
この地に訪れた際、倒れていた機械生命体より、この世界の状況はなんとなくは把握することはできた。しかし一方の話だけでは……と、その話を裏付けるために様子を窺っていたのだが、どうやら相違はなさそうであった。それどころか、戦況が少しずつ変わりつつあることも悟る。
「機動兵器があるのであれば、私にとって不足はございません。攻撃の様子からみても、話し合いに持ち込めそうにありませんからね……」
数の差はあるとはいえ、敵である王国軍も決して損害がないわけでもない。
倒れていた王国軍に会話を持ちかけていても、聞こえてきたのはビープ音に近しい何かのみ。破損した影響なのかとも思ったが、身振り手振りのコミュニケーションを取ろうとしても良い反応は貰えなかった。敵である機械生命体には正気らしきものは無いと見ても差し支えないだろう。その原因が何から来ているのかは分からないが、解放軍の機械生命体たちの様子を鑑みるに、並々ならぬ理由があるのだと推察はできる。
それならば、話の通じる方に味方する方が得策とも言えよう。
未だ知らぬことばかりの世界ではある、しかし今は己も含めた特異者らが動きやすいように流れを整えるのが先決だ。
「それに……機体との相性も良いみたいですし、なにより持ち込んだ装備も活かせます。なんとかなるでしょう」
スレイにとって、重鎧機体は良い機動兵器であった。
旋回時において小回りが利かぬという点こそあるものの、機体と同期できるスレイにとっては手足のように動かすことはできる。重力制御により、ある程度に留まるが望んだ行動を取ることもできた。難ありとするのであれば、あまり高くは飛べないことだろう。天鳥機体のように大空を翔ることは残念ながら叶わなかった。
「磁場……あるいは機体に使われている金属成分のせいでしょうか? どちらにせよ、少しばかりこの地に興味が湧いてきますね」
それでも戦える。ならばとスレイは前線へと趣き、その戦いの最中、近接戦闘が得意なことを知ることもできた。
視界外の攻撃にも対処できる力はあったし、機体に備わっている簡易レーダーのお陰で近場の位置把握もできる。解放軍が味方機体の登録を行っていたおかげでそれもスムーズなものだ。それでも多少の被弾はあるが、解放軍の現状を鑑みるのであれば急いだ方が良いのだろう。
なにせ外からやってきたスレイ自身が、一目見て劣勢だと断言できたくらいなのだから。
滞空させているミラーリングシールドが欠けたのを確認しつつ、敵の弓矢をレイジャベリンで打ち落とす。魔法も打ち落とすことができるのであれば、天鳥機体の反撃機会も窺えるのではと考えたが、先程掠っただけの炎魔法がコックピット内部にまで熱を届けたことを考えれば得策ではなかった。おそらく重鎧機体は物理攻撃には強く魔力には弱い鉱石を使っているのだろう。それでも、致命傷を防ぐことができるのであれば問題ないのだとジャベリンを構え直す。
「……早いところ、相手に不利を悟らせないといけませんからね」
特異者が加担したとはいえ、戦況の流れは緩やかに留まる。それでも良い方向に向かっている現状、ここで威圧できるような勢いを見せなければ容易く呑まれてしまうだろう。
他世界より持ち込んだ流派を扱い、手数の多さとともに敵機体へと切り込む。矢が飛んでこようとも、魔法が飛んでこようとも勢いを維持してやれば、視界の端に落ちた機体が見えた。
解放軍だ。
スレイは敵機が頽れたのを確認し、急ぎ、そちらへと向かった。
瓦礫の山々を重量制御による短飛行で飛び越え、追撃しようとしていた敵機――重鎧機体へと飛び込もうとする。体勢を整えたが、あちらの追撃には勢いがあった。注目をこちらに向けるため、文字通りの横やりを入れて興味をこちらへと向ける。敵機の瞳がぐるりとこちらへと向いた。
出来るだけ解放軍の損耗は避けたいところであった。
特異者がいかに獅子奮迅の働きを見せたとしても、元々の頭数が減り続ければ今後が厳しくなるためである。
「近くに支援機体がいましたら、こちらの座標へお願いいたします」
座標を含めた通信を飛ばし、追撃を防ぐ為にミラーリングシールドを一基だけ残し味方機体より後退する。
釣られるようにしてこちらを追う敵機にほっとしながらも、攻撃の余波が届かぬ位置にまで誘導してやった。あとは通信を拾った支援機体が回収してくれるだろう。
「厳しいですが、踏ん張り所でもありますね」
この戦いはきっと直ぐには終わらない。
様々な遺恨を絡め、扉が満足するにあたる結末を迎えるまできっと続くのだ。
「戦力は多いに越したことはありません。少しでも望むべく未来へ続くように……」
今はここを絶えしのぎ、解放軍全体を立て直さなければいけない。
同期により痛む身体に少しだけ眉を顰め、スレイはできるだけ負傷した解放軍の手助けをしながらも王国軍に立ち向かいその槍を振るい続けた。