「まーたあの扉か……そんでもって、新しい世界……はぁぁ、来ちまった以上はしょうがねぇな」
扉、そして見慣れぬ世界。
どうもこんにちは、定番パターンです!! と言わんばかりの始まりに、
迅雷 敦也は深い深いため息を零した。
「コーデリア領に来たと思ったのに、そもそもアーク……じゃないよね。飛んでる機体も知らないやつばっかりだし……あっ!? まって、もしかしてドラグーンアーマー使えないよね!? せっかくフルカスタムしたパラーシュⅢに乗ってたのに!?」
愛機を乗り回せないじゃないかー!! と声を上げて嘆いたのは
夢風 小ノ葉であった。それでも諦めきれないとパラーシュⅢに搭乗したものの、操作や計器の動きに違和感ばかりが募っていく。残念なことに彼女の予想はあたっており、地場の影響か理の影響か、ドラグーンアーマーは普段通りの活躍をしてくれそうになかった。
「ボクのパラーシュⅢコンセプト『紙装甲? なら全部回避すればいいじゃない!!』が使えないじゃないかー!! うがー!!」
「こ、小ノ葉ちゃん……そんなことよりも、まったく見た事がない世界ですよ……ふぇぇ」
びくびくおどおどとしている
ベルティーユ・ルージュリアンは周囲を見渡し、不安そうに小ノ葉へ声を掛けた。しかし小ノ葉それどころではなかった。愛機の活躍が早々にお蔵入りとなってしまったからだ。
「まー、どうにかして起きてる問題対処しねーと帰れねえしなぁ……しっかし、近未来的で機械がメインの世界か」
嘆く二人を横目に、敦也はふむと考える。
特異者として生きてきてから、今まで様々な世界を渡り歩いた身ではあった。しかし、こういった手合いの世界はあまり経験もなかった。故に頭に浮かぶのは独断と偏見での推測となる。
たとえば、戦争を通じて発展をしてきたとか。機械生命体の話によれば、国の周囲にあるのは腐食性の毒ガスだという。外へ出ることすら儘ならず、金属類が豊富であろうことは周囲の様子から独自の進化を遂げている事が分かった。
「……この国をまとめてる奴は、毒ガス取っ払って他国を滅ぼしにいこうとでも考えてんのかな」
対立しているのは分かったが、その原因は未だ不明瞭のままだ。
「いや、とりあえずはこの局面を乗り越えるのが先だな。いくぞおめーら、解放軍を助けてやるんだぜ!!」
三名はそれぞれ解放軍より機体を借り、前線にまでやってきた。
小ノ葉とベルティーユは重鎧機体に、敦也は天鳥機体に搭乗。敦也はご機嫌といった様子で空を飛びながらも周囲の様子を窺っていく。
「あっちも同じ編成か……空の機体は俺が見るから、小ノ葉とベルはできるだけ地上の相手をしてくれ。この手の仕事は慣れっこだからな」
数の差は既に確認できている。今必要なのは相手の勢いを削ぎ、自分たちだけではなく皆が立ち回りやすい環境を構築していくことだろう。
敦也は空中を旋回している天鳥機体に圧を掛けながら、地上に向けて火炎放射でのサポートをしていた。しかしどうにも攻撃の感覚が普段と違うことに気がつく。普段よりも火炎放射の持続時間が短いのだ。というのも、杖への負担がかなり大きいらしく持続的な問題が生じているらしい。
「狙いを定めていかないとまずいか、アバターズレイは乱射もできねーし……小ノ葉とベルが下がる時に撃ってやるか」
ここぞという切り札はある。チラと地上を見遣れば、小ノ葉の機体が動き始めた。
「二刀流で切り刻んでやるよー!! パラーシュⅢじゃないけど、パラーシュⅢじゃないけど!!」
重鎧機体は愛機とはコンセプトこそ違うものの、操縦にあたり忌ま忌ましい違和感を抱くことはなかった。これならば動き回る事もできると、二本の剣と共に地獣機体とかち合った。相手のモチーフは豹だろうか、爪部分には鉄鋼製らしき刃が幾数本もついている。力はこちらの方が上ではあるものの、受け流しによる回避や四肢を駆使した機敏な動きは重鎧機体にはないものであった。
「ちょこまかと……!! パラーシュⅢだったら絶対に速さで負けないのに!!」
力では勝っているが、小回り――旋回能力では負けている。相性も決して悪いはずではなかった。攻撃自体に手応えはあるので、確実に倒す事はできるだろう。しかし今は出来るだけ早く倒し、次に向かいたいところでもある。
「ベル!!」
「行きます!!」
敦也の通信を受け、ベルティーユが小ノ葉のサポートへと向かった。
挟んでしまえば回避の邪魔立てをできる。そして対面している数が増えれば勝機も増える。ベルティーユが翼により宙へと飛んだ。
「あまり高くは飛べませんが……今はこのくらいで十分です!!」
構えたのは杭である。小ノ葉の攻撃により後退した地獣機体に狙いを定め、タイミングを合わせて穿てば敵機体をその場へと縫い付ける。
「ありがと、ベルちゃん!!」
動きが止まればこちらのもの。ベルが作った起点、そして小ノ葉の追撃により早々に決着はつくこととなった。
「今日はいつもより静か……って、今回はベルちゃんだけだもんね。ボクのパンツに突っかかってくる子もいないし気が楽だな~!!」
「確かにいつもよりは静かですね。小ノ葉ちゃんは元気いっぱいって感じですけど、騒がしいわけではありませんし……。私もスカートをめくったり、覗き込んだりする子がいないので楽です」
何を履こうと自由ではあるのだが、あれも一種のコミュニケーション……なのだろうか? ベルが「ううん……?」と悩めば、小ノ葉が声を上げる。
「そうだ、今回はボクとベルちゃんで『パンツに振り回され隊!!』として前線固めていこう!!」
「おー!! ……って、ちょっとまってください、そんな変な隊を作らな――あ、待ってください!! 待ってください~!!」
パンツに振り回され隊だー!! と声を上げ、再び戦闘に戻った小ノ葉を追いかけるようにしてベルティーユも杭を整え、慌てて追いかける。
そんな姿を眺めていたのは敦也だ。
「俺は空からのサポート……ってのはわかりきってんだけど、どうせならデカいのぶちかましたいよな」
相手の侵攻を止めたいのであれば、こちらもそれを留めるだけの力があることを誇示したほうがいいはずだ。と、もっともらしい事を考えてはいるが、それ以上にちまちまと戦うのに飽いてもきた。
「通信の届く範囲を絞って……こんなもんかな。おーい、味方は今すぐ離れておけよー。今からドデカいの、一発ぶちかますからなぁ!!」
集中する間際、小ノ葉とベルティーユから焦った声の通信も届いたが、それよりも早く、敦也は目を閉じ己の世界へと没入する。思い描く限りの大きな攻撃、この場に相応しいとすれば拓けた空の奥にある飛来物――そう、デブリや隕石だろう。広範囲の牽制はきっと場の流れを変えてくれる。とくに解放軍を追い回すターンに入った王国軍にはとびきりのサプライズだ。
「あんた達が知らない、強大な壁が現れたこと……知らしめてやるぜ!!」
目を開くのと同時に、己の中に眠っていた魔力全てを注ぎ込む。
大地と同じく、鈍色の雲が弾けるように空間を作った。呼び寄せるのは空想の彼方より引っ張ってきた巨大な飛来物。地を抉る波紋はきっと、慢心しきった相手にも届いてくるだろう。
事実、戦況は変わりつつあった。
撃って良かったな~という満足そうな敦也とは裏腹に、小ノ葉とベルティーユは疲れた表情を見せながら少し傷ついた機体と共に戦場で叫んだ。
「あとで敦也おにーさんに文句言ってやる!!」
「う、うぅ……隕石に呑み込まれるかと思ったですぅ……」と。