「どこ、ここ!?」
黒枝 ソラは開口一番、叫び声と共に疑問を上げた。
それもその筈、彼女はついさきほどまで休日の朝を満喫していたのだから。
食事を終え、身支度を終え、さあいざ宿舎からお休みの世界へ!! と扉を開いてみれば、何もかもが違う世界がご挨拶。そしてそのまま投げ込まれてしまったのだ。
「いや、うん……うんっ!? いや本当にどこなのよここ……って、近くに倒れてる人が!!」
突如として訪れた異変に混乱しつつも、ソラは倒れている者へと駆けた。しかし近づけば近づくほど、その者の姿が機械に等しいも存在であることも知る。
普通の医療行為では直せない、そう気付いたものの、放ってはおけないと直ぐさま跪いた。
損傷箇所からはいくつものコードや基板などが見てとれる。構造は何となく分かるものの、その範囲に留まるものだ。
「とりあえずこれ以上酷くならないように……!! 武装整備の要領でなんとか……!!」
ショートしてしまった回路がこれ以上の被害を生み出さないようにと、繋ぎ合わさったコードをひとつひとつ探っていった。生命活動に影響が出ないよう、他のパーツに負荷がかからないように一時的な摘出を行っていく。
「とりあえずはこれでいいかな……」
少なくとも、これ以上酷くなることはないだろう。後は整備の覚えのある者や、機械治療に特化したツールを持つ者が処置をしてくれるはずだ。
ふぅ、と一息をついたソラは治療を行った機械生命体――F05-2898へと微笑みかける。
「ええと、F05-2898……さん? だったよね。うーん、ちょっと呼び慣れないな。にーはち、にっぱーさん? って呼んじゃダメ?」
「管理番号では、あなた方にとっては不便ということですよね……? そうであればお好きにお呼びください」
「ありがとう、ニッパーさん!! ここは前線から離れてるみたいだけど、もう少し安全なところに移動した方がいいよね……そうだ!! 機体を借りても良いかい? もっと沢山のヒトを助けたいんだ」
F05-2898の説明では、この地に残る解放軍はそれなりの数がいるはずだが、王国軍に比べてしまえばかなり心許ないものであった。
しかし解放軍にとって犠牲を払っての撤退は、最善の選択ではあったのだろう。全滅してしまえばすべてが終わってしまうだから。
「あの機体ならまだ動きます」
そうしてF05-2898が示したのは支援機体であった。
大型二輪型は輸送には不向きではあるものの、四輪に比べて小回りがきくので狭い通路など駆けやすいタイプだ。ソラはF05-2898を担ぎ上げ、大型二輪で安全な後方へと下がった。
「よしっ、とりあえずニッパーさんは後方に運んだし……負傷者を探しにいこう!!」
F05-2898を降ろしたソラは、休む間もなく元来た道へと引き返した。さきほど、移動してきた際に、着陸したであろう機体を見つけたためである。
「本音を言えば……これが正しいのかもまだ分からない、けれど……」
王国軍と解放軍、互いの事情も未だ不明なものであった。どちらに非があるのか、原因は何なのか。本当に協力して良いのか迷いは未だ拭えない。しかしソラは顔を上げてアクセルをふかす。
「目の前で傷つく誰かを助けることだけは、絶対に間違いじゃない!!」
手を差し伸べることが悪であるとは思えない。助けを請う者がいれば寄り添いたい。
風を感じながらも支援機体を走らせれば、さきほど見つけた重鎧機体が逃げるようにしてビルの中で倒れ込んでいた。移動しているところから見て、まだ負傷者が残っている可能性は高い。
「あったあった。中にヒトはいるかな……解放軍だよ、助けにきたよ!!」
バイクを降り、駆け寄ったソラはコックピットへと昇りコンコンと叩いてみた。暫くすれば何かが当たる音が聞こえる。良かった、まだ無事であった。
「そうだよね、閉じ込められてるヒトもいるか……中から開けられればいいんだけど、今開けてくれないってことはロック機構が死んでそうだ。ううん……っし、ゴリ押しで行くか!!」
ソラが取り出したのは小さなナイフの柄であった。起動させれば熱源が生み出され、サイズにあったレーザー光線が刃のように光り輝いている。
「中のヒトっ、聞こえる!? 今からハッチぶった切るから、声の方と反対側に避けといて!!」
コックピットに耳を当てれば、ゴソゴソと音が聞こえる。音が収まるまで持ち、ロック機構へとレーザーナイフを差し込んだ。装甲は徐々に赤くなり、その姿形を変えていく。できるだけ内部に溶けた鋼が流れ込まないように向きを調整し、ロック機構ごと焼き切りにかかった。
「溶接ができて良かった……うん、ちょっと揺れるかも知れないけど」
揺るやかに元の色へと戻ろうとした装甲を、落ちていた瓦礫で叩き付ける。金属がひしゃげる感覚に、何かが落ちた音。僅かに開いた隙間に安堵しつつもすべてのロック機構を焼き切り、落ちていたバールのような何かで、てのこように持ち上げた。
嫌な音を携え、コックピットが開く。中に居たのは負傷しているF05-2898のような機械生命体であったが、よくよくみればデザインや大きさが違う、おそらくは男性型の機械生命体なのだろう。
「大丈夫? 怪我してるところある!?」
「足が動かない……手を貸して貰えるか」
「もちろんっ!! ニッパーさ……F05-2898さんの事分かる?」
「ああ、彼女は無事だったのか」
余程安心したのだろう。助けた機械生命体は座席に背を預け、大きく息を吐いた。
「足は応急処置でなんとかなりそう?」
「だいぶ損傷してしまったからな……処置よりは丸ごと外して付け直したほうがいい。拠点へ戻ることができれば替えのパーツがあるはずだ」
「取り外すにしろ、一旦後方に戻ったほうがいいかな……拠点っていうのがどこか分からないけど……うん、一緒に戻ろう!!」
ソラは機械生命体へ肩を貸して支援機体の後ろ側へと座らせ、F05-2898の元へと戻ることにした。