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楽園に至る者達へ

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楽園に至る者達へ
【!】このシナリオは同世界以外の装備が制限されたシナリオです。
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04.世界平和を夢見て

 刃が交わる一瞬、倉庫内の暗闇に甲高い音と共に火花が散った。
 来訪者と信徒の戦いが繰り広げられる中で、クロウ・クルーナッハは戦闘に巻き込まれないように身を屈めて倉庫内の調査に取り掛かる。
 これだけ抵抗するのであれば重要拠点なのは間違いないので、危険を覚悟して早急に調べておきたかった。
「何を詰め込んでいるのだろうか」
 棚に並べられた小箱はクロウの小さな両手でも収まる大きさだが、ずっしりと重かった。木製で色味や木目にこだわっているのが分かる。魔法などは施されていないが頑丈は作りをしていた。
「これは日付と……符牒か?」
 小箱には数字の並びから日付と分かる記載があった。何を意味するかは分からないが、現在よりも未来の日付を記されている。日付の下には『舞い踊る北の令嬢』と書かれていた。
「さて、そろそろ中身を拝ませてもらうとしよう」
 留め具を外して蓋を開くと毛皮の包みが収められていた。
 折り畳まれた包みの中には細長い小瓶が入っていた。
「このピンク色はまさか……!」
 小瓶に収められていたのは凍り付いたヘヴンスライムの粘液だった。
 メリアドネが目にした信徒の小瓶のように、ヘヴンスライムの核が入っているわけではないようだが――こんなもの使い道は一つしか思い浮かばない。
「なるほど、これがウーブレック村の本当の生業か」
 媚薬の製造と販売。
 販売相手は恐らく貴族や大商人――金と性欲を持て余している連中だ。闇に流すだけであれば小箱や包みに高級品を使う必要はない。
 倉庫を見回せばまだたくさんの小箱が並べられている。どうやら天楽快の悪事を暴いて解決という単純な話では終わらせてはくれないらしい。
「……もう少し着込んでくるべきだったかな」
 クロウは『魔術師のローブ』の首元をきゅっとすぼめる。入り込む冷気は減ったが寒気は治まらなかった。

* * *
 

 そもそも服を溶かすなんて萎えるだけではないだろうか。
 折角の服装が台無しになるし、強制的に全見えだなんて興醒めだ。
 それにきちんとムードと設定があるから燃え上がるのに、無理矢理だなんて救いようがない。
 性癖の根深い対立は、天楽快と優・コーデュロイの間にも大きな溝を生み出していた。
「お灸を据えてやりましょう」
 優は倉庫に潜む信徒の居場所を【風の声】で探り当てると、念入りに研いでおいたグレートソードを構えた。
 こんなに勇ましい姿を見せ付けているが、ベッドの上ではパートナーに攻められて手も足も出ないネコである。
「ええ、服を作る側の苦労も確りと教え込まないとね」
 ルージュ・コーデュロイはプラチナロッドを掲げた。
 精神的に追い込まれた末に誤った道を進んだ者達には同情を覚えるが、犯した罪は償わなくてはならない――優しさと厳しさを胸に祈りを捧げる。
 そんなルージュの想いが優に対して発揮された時はドロドロに甘やかすタチとなる。

 ネコやタチがわからないって?
 うーん……そうだ! ママとパパにきいてみよー!

 ふっ、また迷える少年少女を導いてしまったか。
 そんな戯言は置いといて倉庫に場面を戻そう。
 倉庫内には既に多くの来訪者が入り込んだことで逆に膠着状態に陥っていた。
 理由は二つ。暗闇と保管されている粘液だ。クロウに調査結果を共有されたことで、熱を持つ光源を使用できなくなった。倉庫内にあるのは多くの権力者が悪事に関わっている証拠だ。暴れ回って壊すわけにはいかない。村側にとっても同様に大事な商品を失うのは避けたい。
 その結果、両者はお互いの位置を探り合って、ピンポイントに攻撃を仕掛ける戦法を取らざるを得なくなった。
「――お互いに手詰まりの状況、俺の話を聞いてもらえるだろうか」
 暗闇の奥から聞こえる若い男の声に、メリアドネが真っ先に反応した。
イサム……!」
 パーティから至極真っ当な理由で追放された要注意人物の登場だった。
 イサムはメリアドネには応えず、来訪者達に向けて言葉を続ける。
「きみ達も異なる世界から女神の導きによりやってきたのだろう? きみの世界はどんな世界だった? 平和だろうか、それとも争いに満ちていただろうか」
 真摯に訴え掛ける言葉は、事前に聞いていた印象とは異なっていた。
 優はチラリズムこそが至高であると性癖開示バトルを挑むつもりだったが、もしかしたらイサムは全裸に執着したただの変態ではないのかもしれないと思い直す。
「その問い掛けが服を溶かすことにどう繋がるというの?」
「俺は俺の思う平和を実践している」
 小さな光が灯り、学ランを着た青年――イサムの姿が闇の中に浮かび上がった。
「俺の生まれた世界は四度の世界大戦を経て多くの死者を出した結果、直接人命を奪う兵器の使用が国際条約によって禁じられた。もはや敵対者であっても命は貴重になったからだ。もちろんルールを破るテロリストは現れるが、人類の敵として徹底的に駆逐された――そう非殺傷兵器によって! 人体を傷付けず装備と戦闘能力だけを奪う兵器の登場で誰も死なない戦争が実現した!」
 熱く語るイサムに対して、ルージュは静かに反論した。
「それ自体は素晴らしいのかもしれないわね。でも成り立ちも歴史もまるで違う異世界に押し付けるのは話が違うのではないかしら。何よりも愛がないわ」
 性癖という価値観の押し付けから、異なる世界の価値観の押し付けに変わっただけの話である。
「傲慢な押し付けだと自覚している。だが天楽快の目指す楽園に俺は恒久的な平和の実現を見出した――だから、この村で計画を潰えさせはしない!」
 イサムは壁に埋め込まれた装置に流れ込む魔力を遮断した。
 天井や床に張り巡らせられた管から規則的に放出されていた蒸気が止まる。倉庫全体の温度を一定に保っていた冷却魔法が停止したのだ。


 文字通り空気が変わった。
 この戦場そのものが時限爆弾と化したのだ。
 人見 三美は魔法支援のために後方で待機していたため、誰よりも早く状況の変化を把握して動き出した。
「皆さん、視界を確保します!」
 両手を組んで真摯に捧げられた祈りに光は瞬いた。
 効果が切れる度に繰り返し発動する【フラッシュ】によって、倉庫は記者会見の会場のように激しい光に晒される。
 暗闇と閃光を繰り返し、皆の動きがまるでコマ送りのように見えた。
 誰よりも目立つことになるが覚悟の上だった。
 ここで止めなければ天楽快の被害者は増えることになる。それにアコライトの一人として歪んでしまった信仰を見過ごせない。どれだけ崇高な願いがあろうとも、無辜の民を快楽に染め上げる道理などありはしない。

 恐怖に立ち向かう健気な姿、荒事を苦手としていながら前線で傷付く人々を助けたい一心に格闘術を身に付ける不器用な真っ直ぐさ、自己評価は低くてもそれを言い訳にしない強さ――ケモミミ武闘派アコライト……なるほど、なるほどね。年齢にしては小柄で、それがコンプレックスで体質改善に日々励んでいると。良いじゃない。それから人見知りだけど一度打ち解けた相手には甘えたがりな一面もあるのね。ほほーん……ところで私のヤベー気配のあるプライベートシナリオに参加してくれたということは実質的に私の人となりを認めてくれたということで、それはもう打ち解けたと言っても過言ではないと思うんだけど甘えてくれてもええ――【※この先は女神様によって検閲されました】

 唐突な発作に襲われたが戦いに戻ろう。
 イサムや信徒は来訪者達の“目”を奪おうと三美に迫ってくる。
 身体を目掛けて放り投げられた小瓶を器用にスターフレイルで打ち落とした。凍結したままのヘヴンスライムが床を転がっていった。
「数が多いです」
 三美は背後を振り返り、開かれたままの扉からは仲間も現れるが、敵の増援もやってくる。
 このままでは押し込まれる。
 危惧した瞬間、光と闇の舞台に大輪の華――ルージュが舞い降りた。
「釘付けにしてあげるわ」
 ひらりひらりと赤が舞う。
 踊り子の技術を最大限に活用した舞踊は味方を鼓舞して敵の集中力を削いだ。
 真っ先に排除すべきは三美の筈なのに、信徒は自らの意思に反してルージュに視線を向けてしまう。
「だったら先に倒すだけのことだ!」
「マナーの悪い観客が居るわね」
 ルージュは信徒の投げ付けてきた小瓶をプラチナロッドで展開した結界で受け止める。ガラス片がきらきらと飛び散る光景は、予め考えられていたかのように演出の一つとして組み込まれた。
 続けて投擲されたナイフをルージュは避けなかった。避ける必要がなかった。
「これ以上、手出しはさせないわ」
 優の大剣が一本も逃さず叩き落としてくれるのだから。
 姫君を守る英雄のような立ち振る舞いに、ルージュの笑みは深くなり、舞踊は更に蠱惑的になる。まるで演劇の一幕のようであった。


 踊り子の横を駆け抜けて、素早く棚を駆け上がる黒と赤で彩られたメイド服――いや、あれこそは邪魔な者を排除してあの世に送って差し上げる者のみが身に着けることを許された『冥土服』だ!
「さあ、冥土に送ってやろう」
 冥土様へと変身を遂げたジェノ・サリスは圧倒的速度で信徒に接近していく。
「アイエエエ!?」
 眼前に迫る冥土様に信徒は震え上がった。
 仲間に居るイサムも実のところ大概に頭がおかしいと思っていたが、やはり来訪者はどいつもこいつも狂っていやがるのだろうか。これぞマッポー・マグメル。おお、フィルマよ! まだ寝ているのですか!
 シーフが格上のファイターに間合いを詰められた時点で詰みだった。
 先の先、信徒が防御する間もなく大剣の一撃が叩き込まれた。
 ジェノは気絶した信徒を捨て置いて、次の目標に向けて駆け出す。
 全体を鼓舞する踊り子とシーフに有利な戦場を照らして妨害する獣耳アコライト――二人を排除しようとイサムが背後に回り込むのが棚の上から確認できた。
「冥土様が来たぞ!」
 棚から飛び降りて、落下の勢いを乗せた一撃を叩き込む――ガキンと重い衝撃が柄を握った手から全身に伝わった。
 イサムは両腕を交差させて、大剣の刃を手甲で受け止めていた。
「理想のために、やられはしない!」
「正面から防ぎ切られたか」
 ジェノは隙なく着地をすると、イサムと視線を交わす。
 パーティから追放されるまで冒険者をやっていただけあって、それなりの戦闘能力も備えているようだ。
 まだ使っていないが装備を溶かす天技もある。回避する自信はあるが、万が一を考えた方が良いかもしれない。冥土服はレベル差でヘヴンスライムは防げても、天技に対抗できるのは天技のみだ。
 沈黙の一瞬――次の瞬間、再びジェノの振るう大剣とイサムの手甲がぶつかり合った。グランドクラッシュによって伝わる衝撃にイサムの顔が苦悶に歪む。それでも黙ったままではなく反撃に出てきた。
「これは剛拳ではないな」
 突き出された腕を剣身で防いたが握り拳ではなかった。
 こちらの攻撃を正面から力で受け止める戦法だったので、重い一撃が来ると思ったが予想は外れた。手の平を開いたままではあるが、柔拳よりも柔術に近い動きで、もっと言えばその源流である捕手術だ。
 簡単には決着がつけられそうにない――ジェノは床に散らばるヘヴンスライムが溶け始めたのを目にして気を引き締め直した。
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