「貴様! よくもこのヴォーギングを馬扱いしてくれたな!」
「踏みつぶしてくれる!!」
ヴォーギングは怒りの咆哮を上げシンに向かっていく。
シンはすぐに立ち上がったが、自力で回避することはできそうになかった。
(ヤバいな……もうこれは今度こそピンチだ)
激しく吹っ飛ばされ、砂の上に叩きつけられる――そうシンは覚悟した。
だがヴォーギングがシンに向かって突進しようとした瞬間、マルチェロがその前方に回り込んだ。
「そちらの攻撃パターンは全て把握済みです!」
マルチェロはシンを背後に庇うと、思い切り地面を踏みしめた。
衝撃波がヴォーギングの接近を阻み、遠ざける。
だがヴォーギングも何度も冒険者たちの攻撃を受けている。
マルチェロの攻撃を受けて背後へ飛ばされたかと思うとすぐさま立ち上がった。
アースクラックの衝撃波を受け流すことで衝撃を殺したのだ。
「2つの脳に、4つの目か。確かにそう聞くとちょっと怖いかも」
リンクはそう言って頷く。
「だったらボクらは、ヴォーギングにないもので勝負をかけるしかないよね!」
竜一とジルディーヌに合流したリンクが首や肩をぐるぐると回しながらそう口にする。
そうだな、と竜一も頷いた。
「仕切り直しだ。ジル、リンク、協力してくれるか?」
「ええ、もちろんですマスター」
「ここから流れを変えていかないとね! 頑張ろう、リュー兄!」
ジルディーヌとリンクが気合を入れなおし、竜一は今一度仲間の配置を確認する。
今が一計を案じるタイミングのようだ。
「あの岩山の方向にヴォーギングを誘うぞ。まずはリンク、牛たちを怒らせて大技を使わせろ」
「きひひ! 勝負をかけるんだね、いいよ!」
リンクは竜一の意図を察し、ヴォーギングへと向かってゆく。
そして獣にまとわりつく蜂や虻のようにちくちくと周囲から攻撃した。
「ほらほらほらぁ! ひっくり返してやるっ!」
「猪口才な」
「払い散らしてくれる!」
ヴォーギングは地面を蹴って砂塵を巻き上げながらリンクを追い散らそうとそのあとを追う。
リンクはエナジーウィングを駆使して飛行を維持しながら砂を浴びぬよう逃げ回った。
この「砂かけ」がただの蹴りでないことをリンクはすぐに察した。
(AMフレームがなければもっとダメージ受けてた感じがする。もしかしてこれも、魔法攻撃?)
さらにリンクは次第に大きな疲労感を覚え始めた。
エナジーウィングの維持にはエネルギーが要る。
その状態を攻撃を行い、ヴォーギングの回避をしながら持続するのだ。
リンクの体には大きな負担がかかっていた。
「いいぞリンク! そこまででいい! 離れろ!」
竜一が声を上げ、リンクの退避を促す。
そしてヴォーギングの前方へ回り込み、剣を構えた。
(お前たちは囲まれている。どうする? もう手は1つしかないぞ!!)
正面にいる竜一は突進してもそう簡単に退けられる相手ではない。
であれば――ヴォーギングはそう考えたに違いない。
走るのを止めた2体の牡牛はその場で強く足踏みし、地面を揺らし始めた。
「割れ砕けよ!!」
4本の前足が地面を踏み抜き、凄まじい縦揺れが周囲に広がった。
そして砂の地面へと巨大な亀裂が走り、竜一へと向かってゆく。
(来たな……! これを待っていたんだ!)
地割れの先端が自分に襲い掛からんとしたその瞬間、竜一は空へ舞い上がった。
分厚く堆積した砂が竜一の足元深く、はるか地面へと滝のように流れ落ちてゆく。
地形を様変わりさせるその攻撃の威力はまさに「災い」といってよかった。
「……空を飛べなければ、危なかったな」
だがもう、これで流れは大きく変わった。
別方向から回り込んだリンクがヴォーギングの隙をついて攻撃を繰り出したのだ。