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黄金の軛【Ⅱ】

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黄金の軛【Ⅱ】
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「さすがリュー兄! じゃあ、ボクもいくよ!」

 リンクは渾身の力をその拳に込めた。

「これがボクの切り札! きひひ!」

 圧縮した闘気がその拳から放たれ、ヴォーギングの巨体へと叩き込まれる。
 ヴォーギングは砂煙を上げながらすさまじい勢いで背後に吹っ飛んだ。
 さらに反対側には鈴奈が回り込み、再びディルビウムの大波を浴びせかける。

(最大出力の大波……! そう何度も耐えられるとは思わないでください!!)

 青水晶の剣の先からあふれ出した大波がヴォーギングの足元を攫い、押し流す。
 先ほどまでとは違い、ヴォーギングはこの激流からそう簡単には逃れられない様子だった。
 だが数十メートルほど後退したところで後足の蹄1つが踏ん張り、その後退を押し留めた。
 ヴォーギングも冒険者たちの攻撃を受け、もはや満身創痍である。
 まともに機能するのはこの足のみだったのかもしれない。

「走るなら2本……」
「跳ぶだけなら、残り1本あればよい」

 ヴォーギングはその1本足の蹴りに凄まじい魔力を込め、繋がった巨体2つを突き飛ばすようにして前へ出た。
 砂煙を纏ったその巨体が前にいる竜一を狙って突っ込んでいく。
 全身全霊で攻撃を放ったリンクはもう動けない。
 だがもう、勝負の終わりは見えていた。

「攻撃の威力を殺したらしいが……リンクの攻撃を受けてただで済むわけがない。ジル、止めるぞ」
「ええ、マスター」

 竜一は盾を構え、ヴォーギングの前に立った。
 そして両者がぶつからんとした瞬間、アイギスの力が発動した。

「真の切り札は、最後まで取っておくものだ! ジル、いけ!」
「輝神よ、裁きの十字架を!」

 空に現れた何本もの光の十字架――パニッシュメントクロスがヴォーギングを貫く。
 さらに別方向からも無数の光の十字架がヴォーギングを狙った。
 ジェノがジルディーヌにタイミングを合わせ、同じ神裁術を発動したのだ。

(これで両方の牛が止まった! もう動けまい!!)

 光の十字架が黒い巨体を貫き、砂の上に縫い留めるのを確認し、ジェノは勝負がついたことを悟った。
 竜一が最後の一打とすべく、剣を振り翳し前へ出たのだ。

「俺たちの話を聞いてもらうぞ……ヴォーギング!!」
「っ……!」
「我らは、まだ……!」

 ヴォーギングは周囲に砂をまとわせ、竜一の攻撃を阻まんとした。
 だが既にバリアブレイクの威力を防ぐだけの力はヴォーギングにはなかった。
 舞い上がった砂は一太刀で掃われ、2体の牛は竜一の剣に倒れたのである。

「終わりましたね。これで頭は冷えたでしょうか?」

 鈴奈は砂の上に舞い降りると、ミューアとの融合を解いた。
 ミューアはヴォーギングに近づき、森緑の杖の先で寝そべっていた牡牛の鼻先を小突く。
 すると牡牛は鼻の穴をむずむずとさせ、大きなくしゃみをした。

「ぶぇええええーっくしょい!!」
「うーん、兄者……汚いぞ~」
「なんじゃ、元気ではないか。やりすぎてしまったかと思ったぞい」

 どうやら生きているらしいと確認したミューアがくすくすと笑う。
 すると2体の牡牛は顔を上げ、フンと鼻を鳴らした。
 
「おかげさまでもう一歩も動けぬわ」
「何なのだ貴様らは……我らを止めてどうしようという?」
「どうするつもりもありはしない。わらわ達は話がしたかっただけじゃ」

 ミューアはヴォーギングを見上げ、軛で繋がった姿をしげしげと観察した。
 相手が自分と同じ精霊なのかどうなのか。
 ハッキリと分かったわけではないが、ミューアは何となく自分と同じものを感じる気がしていた。

「聖獣ヴォーギング、しかも生存しておるとはのう……間違いないのじゃな?」
「我らに寿命はないからな」
「殺されでもしない限りは生きる」
「今日はさすがに危ういかと思ったがな」
「ああ、まったくだ」

 満身創痍で動けないにもかかわらず、ヴォーギングは呑気に笑っていた。
 どうやら冒険者たちとの戦闘の間に完全に頭は冷えたらしい。

「リンク、立てるか?」
「ありがと、リュー兄」

 リンクは竜一の手を取り、ニカッと笑って立ち上がった。
 ひどく疲れていたようだが、竜一の手の温かさに安堵したようだ。
 そこへ空から周囲を確認していたジルディーヌも舞い降りた。

「周囲が崩れるかもしれません。離れましょう、マスター」
「そうだな。ありがとう、二人とも」

 竜一はリンクに肩を貸し、急いでその場を離れた。
 その背後で辛うじて形を維持していた崖の突端が崩落し、砂漠の真ん中に巨大な大穴が開いた。
 砂の上に寝そべったヴォーギングはその様子を眺めながら、懐かしい光景だと声を漏らした。
 
 
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