RWO ―― ポリアナード出城内。
王女の私室にて。
今回の実写化プロジェクトにおいて、王子のメイド役として出演する
アリサ姫がメイド衣装を整えている。
「とても素晴らしいお姿ですよ、アリサ姫様」
撮影前――事前準備のためにログインしていたマイカ(
邑垣 舞花)は、落ち着いた笑みを浮かべたまま事実を伝えた。
『王子に婚約破棄され追放された悪役侯爵令嬢ですが実は魔王です!』
これから始まる実写化映画プロジェクトに、舞花は撮影スタッフとして関わることになっていた。
この映画の目玉の一つはアリサ姫が出演することだ。
王女は今回の原作に興味のないPWOプレイヤーたちからも大人気である。
演出上万一の失敗も許されない。
「姫の生着替え放送したら、確実にエライ人の首飛ぶな」
プロデューサー的立場で、番組宣伝の映像作りのため城内を撮影していた
ノーネーム・ノーフェイスは今、極めて危険地帯にいることを確信していた。
大人の事情で急遽制作が決まったこの映画、恐らく宣伝もままならないだろうとノーネームは使えそうな映像を確保しているところだ。
「もちろん、私も良い悪いはわきまえているんだけど……?」
いとも簡単に行われるえげつない行為も、分別くらいはついている。
「では、撮影現場にご案内いたしましょう。出演者の皆様も集合しています」
「はい。メイドのアリサです。不束者ですがよろしくお願いいたします」
アリサ姫はペコリと頭を下げると、マイカに導かれ部屋を出た。
「おおっ!?」
マイカとアリサ姫が城内のホールに着くと、すでに全員集合していた参加者たちから歓声が上がった。
やはり王女の参加は注目度が非常に高いらしい。
「メイキング動画に使えそうだ」
ノーネームは積極的に映像に収めていく。
「では、始めましょう……」
かくして前代未聞の実写化映画制作が幕を開けるのであった。
〇
さて。原作は大きく改変されていた。
数日前。
(ストーリーがしっくりこない)
原作を読んだ
レイリ・フレスティーナの第一印象だった。
レイリは脚本家としてプロジェクトに参加し台本をギリギリまでストーリーを練っていたのだ。
「いわゆる『悪役令嬢もの』というのは理不尽な理由で主人公が婚約破棄されるから、追放した側への「ざまぁ!」にカタルシスが生まれるんじゃないの?」
今回の原作の悪役令嬢クリームヒルトがただの純粋な悪だとしたら、それはむしろ当然の追放であり、因果応報ともいえる。
これでは、ざまぁしても読者にもやもやが残るのではなかろうか……?
とはいえ。
「他の参加者たちは、原作についてどう考えているんだろう?」
レイリは独りよがりになってはいけないと思った。
出演者も自分の演技によってストーリーの介入が許されている。脚本家と出演者との間ですり合わせが必要ではなかろうか。
「皆さんこんにちは。相談したいことがあるんだけど」
レイリはRWOにログインせずチャット形式のオンライン会議で他の参加者たちと連絡を取り合った。
皆レイリとのオンライン会議での打ち合わせに快く応じてくれて、原作深掘り考察から、それぞれのキャラクターの思惑まで話し合った。
そして……。
「それぞれの出演者たちを立てつつ……やれることはやった。後は頼んだ……」
レイリは出演者たちとのオンライン会議を終えて台本執筆を完了し、撮影現場に思いをはせる。
“彼”はレイリの台本を気に入ってくれるだろうか……?