ラストバトルを目前とし、
星川 潤也は死んだ目をしていた。
それもこれも、彼の周りには年嵩のいった男性(新人魔道少女たち)が集まっているからだ。
元を正せば節操なく魔道少女を生み出したアリエスたちの仕業と言っても過言ではないが、ミラクルランドの将来を思えば致し方のないこと。
だからこそ潤也は新人魔道少女たちに手を差し伸べることにした。のだが……。
「それにしては俺のところにおっさんばかりが集まったんだが!? なんでだと思う!? 偏りがすごくないか!?」
潤也はそっと目を伏せ、相馬 良樹へと問うた。
「俺も聞きたい。控えめに言って地獄絵図だよな……」
こちらも死んだ目である。
「……まあ、でもやる気があるのはいいことだ。守りたいっていう気持ちは、俺たちも同じだからな」
フリフリひらひらの衣装、細身から格闘家なみの体躯……のおっさん達ではあるが、その表情は決意に漲っている。彼らも等しく魔道少女であり、守りたいものがあるからこそ、こうして馳せ参じたのだ。平和を願う心に貴賤はない。
「よし……とりあえずミラクルランドを守ろう。いくぞ、良樹!!」
「ま、そうするしかないよな……いくぞ潤也!!」
出来ればさっさと帰れるように。ふたりの魔道少女はおっさん(魔道少女)たちを引き連れ、戦いへ身を投じることに決めた。
初めこそ魔道少女の能力がどの程度なのか分からず困惑していた潤也だが、戦いを観察しているうちに、どうやら腕に覚えのある者達も混ざり込んでいたことを知る。
「マジカルチョークスリーパァー!!」
「マジカルコブラツイスト!!」
「マジカルジャーマンスープレックス!!」
己の表側の職業が何であるか主張しながらも、魔道少女達はきちんとカイジーンと戦えていた。姿こそ異質なれども、戦いに覚えがあるのならば大変ありがたい話だ。
「見た目はアレだし、技の名前もヤケクソ感があるが……強いから何も問題はないな!!」
そう、強いのだ。問題はないのだ。
「あとは魔力の使い方ってところか?」
良樹が呟いた言葉に潤也は頷く。
人々の応援は力となる。しかしそれをいきなり扱うともなれば困惑はつきもの。慣れ以外に手本が必要となるかもしれない。
「良樹、俺たちも混ざって技を披露しよう。応援の力を上手く扱えるようになれば、おっさんたちの為にもなるだろ?」
「まあ、それは……そうか。手本ね、それじゃあいっちょやってみるか」
ふたりは片足をそっと後ろへ回し、前傾姿勢を見せる。潤也の合図と共に大地を蹴り、そのまま前方にいた悪の魔法少女へと飛びかかった。
「俺と良樹のドロップキックを食らえっ!!」
綺麗に揃った足は人々の声援を後押しとし、鋭い風と共に叩き込まれる。瞬間、良樹のスカートが無意味に靡き、愛用のトランクスが顕わとなった。
「ドロワーズくらいはいてほしいんだけど……。てかあたし、もう帰ってもよくない?」
そんな2人を眺め、
アリーチェ・ビブリオテカリオは目を細めていた。
それもこれもすべては可愛い潤也(異性化)のせいである。本来ならば可愛い担当はアリーチェ、魔道少女らしいのもアリーチェ、注目を浴びるべきはアリーチェ・ビブリオテカリオ!!
……だというのに、観客は潤也ばかりを褒めそやすのだ。
「そもそも最終回なのに、どうして絵面が地獄なの!? 華やかな魔道少女はどこにいったの!? まあ、おっさんでも素養があればなれるっていうのは分かっているわ。平和を思う心も立派……でもね、でもね……あたしの方が可愛いんだからァ!! 可愛い筈なのよ!! ねえアリエス、あんたもそう思うわよね!? 思うでしょ!?」
アリーチェはアリエスの首根っこをブンブンと振り回した。
しかしアリエスから反応はなく、魂の抜けたような目をしている。
「ちょっとアリエス、どうしたの? 起きなさいよ、ほら起きなさい!!」
次いで響くのは乾いた音――アリーチェの連続ビンタである。
「……ハッ!! おぱんつはどこっぴょ!?」
「何寝ぼけて……あ、もしかしてあんた……潤也のパンツ見ようとして良樹のパンツ見たんでしょ」
「ぐ、ぐぬぬぬぬっ!! ゆ、赦さないっぴょ――」
「――そんなことよりアリエス、あたしは可愛いわよね?」
アリーチェがずいとアリエスに近寄る。逆光のせいで表情はよく分からなかったが、笑っていないであろうことだけは悟ることができた。アリエスは全身の毛を逆立て、一所懸命に首を縦に振る。
「もちろんっぴょ!! アリーチェはかわいいっぴょ~潤也や良樹よりも魔道少女らしいっぴょ!! こんなに可愛い魔道少女と出会えて幸せっぴょ!!」
これはアリエスにとって心からの言葉であった。しかしアリーチェは納得する様子もなく言葉を続ける。
「それから?」
「え、それから……?」
おかわりの要求である。
「あるわよね? あたしの可愛くて可憐で美しくて儚げなところが!! あるわよねええええ!?」
アリーチェはアリエスの首をガクガクと揺らした。
再び気絶しそうなアリエスは「最終回なのに厄日だっぴょ……」とぐるぐるお目々で呟いた。
▼ 魔道少女(おっさん)たちの間でプロレス技が流行った
▼ アリエスはアリーチェの可愛いと所を100上げるまでビンタされ続けた