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物の怪小国・御影国【最終話】

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物の怪小国・御影国【最終話】
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「つまり、様々な自然災害が妖怪達の仕業と思われてしまっていると?」
 桐ヶ谷 遥は長達の会話を聞き、事の次第を理解していく。
 確かに人間達からすれば、妖怪達は強大な力をもっているように思えるだろう。それこそ災害を引き起こす悪鬼なのだとも。
 そんな妖怪達が誤解を解くような行動をしつつ、自然災害自体をなんとかしたともなれば……両者の関係は良い方向に繋がるかもしれない。
 だとしたらやることは一つ。
 遥は鬼らしく、指をぼきぼきとならして見せた。

 人の里はやや薄暗い世界であった。厄災が影として空を覆っているものの、その身は半透明。向こう側には薄らと青空は確認出来た。
 遥は久しぶりの太陽に目を細め、逃げ惑う人間達をよそに人里を闊歩し始める。件の災害を探るためである。

「飢饉や旋風みたいなのは、他の妖怪達でも対処できるとして……地震や土砂崩れ、火事なんかは早急な立て直しが必要よね。……ウィンガル、おいで」
 鱗を使って呼び出したのは人と竜の国で縁を結んだ竜――ウィンガルだ。
『――ウィンガル、貴女の翼』
「ええ、わたしの翼。今回も少しだけ力を貸してちょうだい」
 恭しく鎌首を下げたウィンガルに跨がり、遥は大空へ舞うよう指示を出す。
 影には決して近寄らないように。上空から探るのは災害のあれこれ。
 下がにわかに騒がしくなったが、きっと鬼が竜を従えていることが原因だろう。なんなら一つ、逸話や伝説でも生まれそうなくらいだな、と遥はそれらを横目に視線を巡らす。
「岩が多いわね。土砂崩れで流れてきたのかしら?」
 山の尾根は抉られるように削れており、そのまま人里付近まで雪崩れ込んでいた。
 水分を含んでいることから上流の川が氾濫でもしたのだろうか。遥はウィンガルに指示を出し、現場に降り立ち、大きな岩の前へとやってきた。
 どうするの? とウィンガルが視線で問うてくる。
「そりゃあオニなんだから、やることは一つでしょう」
 息を全て吐き出し、思い切り吸う。周囲に蔓延っていたよくない気ごと呑み込めば、身体には異変が訪れた。
 吸い込んだ量に比例して、遥の身体が巨大化したのだ。大岩が小さく見えるのは決して気のせいではない。
「――こうするのよ!!」
 叫べば大気が揺れた。雷のようなものが周囲へと駆け巡り、遥の拳へ集約されていく。
 勢いのまま、拳を大岩へと叩き付ければ、まるで刃が如く綺麗な切り口が生み出された。やや遅れ、ズズズと大きな音を立てて岩が崩れ落ちる。ドシンという音にウィンガルは少し驚いたようだ。普段は切れ長の目をかっ開いている。それがなんだか可愛らしくて、遥は小さく微笑んだ。
「こういう大岩って復興には邪魔でしょう、人間がちまちま削ってたら片付くものも片付かないわ」
 遥はそのまま大岩を削り、運びやすいサイズへと整えていく。
 土砂崩れによって埋まってしまった民家を見つけたら、その土砂を粉砕。と、少しずつ作業用のスペースを切り拓いていった。

 初めは「何をしでかすのだろうか」と様子を窺っていた人間達だが、遥の姿を見て「どうやら助けてくれるらしい」と僅かな期待を視線に乗せ始めている。なにせ、それほど作業は順調なのだ。少なくとも人間がやれば半月は掛かりそうな作業を、遥一人で行っているのだから当然だろう。

「この辺りはこんなものよね」
『ウィンガルも運ぶ?』
「できるなら。でも二次災害にだけは気をつけてね。岩を退かしたら土砂崩れが……なんてこともあるでしょうし。どうせなら他のオニも呼べばいいかも」
 そうすればもっと作業は進むだろう。好戦的な彼らを上手く扱うにはどうすべきか――と、遥はひとつ妙案を思いついた。
 遠巻きに見ていた人間達へ向き合ったのだ。ウィンガルの背をそっと優しく撫で、彼らへ向かって言葉を齎す。
「……祭りを開け、お酒を出してみんなで飲み食い、楽しく過ごせるように。わたしもお酒で気分が良くなったら、またこの腕力で助けてやるわ」
 それに釣られてやってくるオニも居るだろう。そのような事を匂わせ、遥はにっこりと笑う。
 人間達の表情は様々だった。大きな遥に恐れおののき手を合わせるもの、明らかにほっとしたもの、そして時折垣間見えるのは純粋無垢なる子供達からの賞賛。
 遥はそれに応えるようにしてニッコリと微笑み、人間達に急拵えの宴会を開かせることにした。


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