総力戦・3 ――巫女救出――
「この闘いには、多数の巫女さんたちが生体電池として”デウス・エクス・マキナ”に囚われていました。彼女たちを救うのは、一体誰なのでしょうか?」
アークエネミーの参戦により、闘いの構図は大きく変わった。”デウス・エクス・マキナ”は前方と側方から挟撃されるのを恐れ、高機動力で角度を変え、連合艦隊とアークエネミーをそれぞれ前側方に見据える位置取りを行う。これは連合艦隊への”デウス・エクス・マキナ”の攻撃が緩むことを表しており、同時にアークエネミーに対して相当の火力が指向されることを意味していた。
連合艦隊に対しては、有線テンタクルズのうち24ユニット・80基が指向され、アークエネミーに対しては残り12ユニット・40機が指向される。まずはこれをできるだけ撃ち減らすことが重要と、大半の特異者は考えていた。
しかし。
「いかな有線テンタクルズと言えども、艦砲級の射撃がこのベルベオルに当たるものですか」
サラリと言ってのけ、”デウス・エクス・マキナ”へと突進していくたまのベルベオル。中途に立ちふさがるデモンを試製ビームサイスで一刀両断にし、一路”デウス・エクス・マキナ”の推進ユニットへと向かっていく。
その姿は、赤光を引いて飛ぶ金色の彗星のようだ。いや、彗星は人間の機動を遥かに超えたジグザグ運動などしない。それは、もはや人の領域を超えた禍神とでも呼ぶべき現象だった。
たまは、その神の領域にも達する加速で、一気にデモン編隊を突破し、有線テンタクルズの攻撃を先読みで全て交わす。返す刀のブレイドダンスで数基の有線テンタクルズをまとめて切り裂き、突破口を形成した。
そして急減速で推進ブロックと戦闘ブロックの接合部に取り付くと、試製ビームサイスを振るい、推進ブロックを戦闘ブロックから切り離していく。これに対し、直衛を失った”デウス・エクス・マキナ”はなすすべもない。
やがて推進ブロックが切り離されると、たまはそのまま推進ブロックの一部を誘爆させ、あらぬ方向に進路を変えさせる。艦隊の集中砲火に巻き込まれないためだ。巫女たちを救いに来たのに、連合艦隊の集中砲火で破壊されては元も子もない。
「後で回収して、まとめて愛してあげますからね、それまで大人しくしてなさい」
たまの声に応じたように、推進ブロックは戦場外へと漂流していった。
★
「ああっ、巫女さんたちがあらぬ方向に! 救出差し上げねば!」
アキラは分離していく推進ブロックを見てそう叫ぶが。
「”デウス・エクス・マキナ”の撃破のほうが先じゃ! いらんことに気を散らすな!」
ルシェイメアからのまたもの一喝に、流石にこればかりは不満げな表情を浮かべながらも、有線テンタクルズの群れへと突っ込んでいく。
「うぉぉぉぉぉーーー! 失恋の悔しみ受け取れ触手どもーーー!」
アキラの私憤に巻き込まれた有線テンタクルズは、次々に酸のブレスで溶かされていく。有線テンタクルズもアキラを狙って攻撃を仕掛けるが、サイズが小さく俊敏なきゅるるん相手に命中弾はない。もっとも、命中すればアキラときゅるるんは即蒸発であるが。
「デカブツ相手の戦闘は慣れてるんだよ! 触手の分際でヒトの恋路を邪魔するなーーー!」
アキラときゅるるんは人馬(?)一体となり、多数の有線テンタクルズを撃破していった。
★
たまの推進ブロック切断により、”デウス・エクス・マキナ”は明らかに機動力を落としていた。だが、有線テンタクルズの動きは未だ健在だ。そこへ春虎はプギオSU【C】で殴り混んだ。
拡張パーツ『レッドライダー』を装備し、俊敏な機動とディレイアヴォイドで有線テンタクルズの砲撃や肉薄するチェーンソーをかわし、先読みで複数機が重なった瞬間にダブルバレルライフルを撃ち込む。その1発は外れたが、計算通り。敵の行動パターンを読み取り、インフェリアミスリルガンによるプリエンティヴストライクの成功率を上げるのが狙いだ。
「――読めたッ、そこかッ!!」
迫り来る有線テンタクルズに対しプリエンティヴストライクを発動。後の先からのインフェリアミスリルガンの攻撃で、有線テンタクルズの太いケーブルが千切れ飛ぶ。
そのようにして何本もの有線テンタクルズを撃破しながら、じりじりと連合艦隊の方向へと押しやられるように機動する春虎のプギオSU【C】は、いつしか総旗艦”フィリブス・ウニーティス”を狙える位置まで巧みに移動していた。
一方そのころ一夫は、”ぎんなみ”周辺に接近する”デウス・エクス・マキナ”の砲火とデモンの対処を行っていた。”デウス・エクス・マキナ”の砲火に対しては艦首ビームバリアで防ぎ、それによって生じた浮遊機雷の突入口から侵入してくるデモンに対してはツインコンプレッションカノンを撃ち込んで阻止をする。
幸い、たまや幸人が蹴散らしたおかげで、浸透してくるデモンの数は少ない。むしろ砲撃のほうが危険で、次々と被弾する”ぎんなみ”の損害は拡大していく。だが一夫はモールディングシップにより”ぎんなみ”の耐久力を回復し、持ちこたえさせる。
「皆さんの帰ってくる場所を、沈めさせはしません」
真剣な表情を浮かべ、あくまで闘い続ける一夫だった。
★
紫月 幸人はハイテンションに叫んだ。
「さぁ、アークエネミー諸君!! 分からず屋共は手を取り合った! 歴史に染み付いた影は表出した!後は洗い流すだけだ!! 好きに戦い、好きに生きろ!!」
彼はこれからの歴史に”アークエネミー”が必要ないことを感じ取っていた。アークエネミーは、”世界の敵”となろうとして、レナトゥスに利用されていたが、しかしレナトゥスという存在を表出させる一端となり、結果的に本物の”世界の敵”をあぶり出していた。
だから、彼は”アークエネミー”の事実上の解散と、各員の自由を許したのだ。
それでも、一夫などは幸人に心配げに告げる。
「必ず戻ってきてくださいよ」
「さてね。それはこの闘い次第さ」
雪とは飄々とした態度で告げると、ジャマダハルを駆り、”デウス・エクス・マキナ”へと突入していく。立ちふさがるデモンをインフェリアミスリルガンで撃ち抜き、有線テンタクルズをアダマンチウム製クローのブレイドダンスで掻き切っていく。その姿は、まさに鬼神の如きといえた。本来”アークエネミー”とはこうあるべきものだったのだろうと、幸人はジャマダハルと人気一体となったかのような奮戦ぶりで示してみせた。
――せめて、最後は格好つけなきゃな。
そう思う幸人の心中には、ひとつの決心が生まれていた。