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【テスタメント】決戦! ”デウス・エクス・マキナ”

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【テスタメント】決戦! ”デウス・エクス・マキナ”
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転機・1 ――響く歌声――


「ここで、戦うだけではダメだと感じ、それを実行した少女たちの話をしましょう。彼女たちは一体、何をしてみせたのでしょうか?」

 納屋 タヱ子は、レーゲルのバックドアを通じて精霊たちに頼み込んだ。
「もし誰かがやって来て、”銀の鍵”を使おうとしても、できるだけ最後まで思いとどまってほしいんです」
『何故に?』
 精霊たちの問いに、タヱ子は静かに答える。
「確かに、神座の力を、銀の鍵の力を借りればレナトゥスを止められる。けれど、それはテオドールさんの命まで保障されてはいない。精霊さん達、そんな方法じゃ世界を愛し平和を希求しているとは言えませんよね。彼らも世界の一部なんですから」
『然り』
『我らとて怨念がそのような形で昇華されることは望まぬ』
『できれば安らかな眠りを、あるいは救いのある昇華を望む』
『そして世界の一部である生きとし生けるモノ全てに、救いがある結末を求める』
『かつてはギルグールこそがその救いだったが、今となっては我らはこの世界を存続させる力になろうとしておる』
『だが、小さき者よ。そのために何をする?』
 最後の問いに、タヱ子は真摯な表情で答えた。
「ちょっとだけ、待っていてください……人間を見守っていてください。これからのテスタメントを支えるのは神様でも偶像でもない。人間同士の話し合いだと、世界に示さないといけないから」
 そこへ、皇后崎 皐月が訪れる。彼女は”神座”で”銀の鍵”を使ってピラー地下の怨念を解放しレナトゥスの長老たちを抹殺するつもりだった。だが、タヱ子によってそれを封じられた今、彼女はどうすればいいか判らなくなっていた。
 そんな皐月に、タヱ子は優しく語りかける。
「あなたはテオドールさんを愛しているのでしょう? だったら、その愛を訴えかけて下さい。レナトゥスの長老たちに束縛されている今のテオドールさんにも、その声は届くはずです。彼は何よりも、誰かに愛されるということに飢えている人ですから」
「――本当に、それで救けられるの?」
 皐月は疑わしそうな目をタヱ子に向けるが。
「信じる心は力になる。それがこの世界です。あなたがテオドールさんを信じ、テオドールさんに声が届くと信じれば、それは必ず届きます」
 タヱ子は断言し、そのままスカイライダーⅡの格納庫へと走り去った。テオドールに、そしてこの世界のすべての人々に声を、歌を届けるために。



 タヱ子はこれまで自分が歌ってきた歌、聞いてきた歌、それら全てをメドレーにして絶唱していた。そこに込められたメッセージは、「私とあなたは違うけれど、共に手を取り合うことができる。だから、少し立ち止まって考えて、そして手をつないで未来へと歩いていこう」という言葉に集約できた。
 当然、それはレナトゥスの長老たちには戯言に聞こえる。
『小娘が。我らの理想を阻まんとして偽りの理想を歌うか』
『左様。ヒトは醜く争い合い、やがて死にゆくモノ。ならば我らが滅ぼし、新しい世界とヒトを作り直して何が悪い』
 それに対し、タヱ子はあくまで歌で答える。


夢を忘れた大人たちは
”そんなの現実じゃない”
って切り捨てるけど
今の現実だけがホントウなら
どうしてヒトは夢を見るの?
どうしてヒトは前に進むの?
夢を忘れた大人たちは
言い訳上手になっただけ
歩むの疲れてやめただけ
私は違う
私たちは違う
夢を信じて
明日を信じて
確かな一歩を歩み始めるの!


『小癪な。我らを諦めたものというか!』
『世界の破壊と再生は我ら数百年の宿願! 貴様ごときに何がわかる!』
 老人たちの逆鱗に触れたタヱ子は、有線テンタクルズによる攻撃を受けるが、エースライダーの技量とカスタマイズされた機体の機動性でそれらをすべて避け、歌い続ける。


夢を見たならもう目をさます時
見た夢をそのまま形にする時
その時は来たの!
一緒に歩み始めましょう
確かな明日へ向かって!


 するとレナトゥスの長老たちは精神攻撃をタヱ子に仕掛けてくるが、それをアブソーブで受け止め自らの力にし、スーパーアダプトギターをかき鳴らすタヱ子。それは、まるでテオドールを揺り起こすかのような音色だった。
『む、いかん!?』
『我らの精神攻撃が逆利用されている!』
『このままでは神子が!』
『やむをえん、あの小娘を落とせ!』
 有線テンタクルズの全周囲攻撃により、逃げ場を失い窮するタヱ子だが。
『グリュン隊各機、長槍を放て』
 何度もタヱ子が耳にした、沈着冷静な男の声とともに、タヱ子の動きを封じようとしていた有線テンタクルズが爆発四散する。
 そして。
 驚愕しているタヱ子の歌の隙間を埋めるように、歌声が聞こえる。
「グリュン01! エリゼも!」
『今回は援軍だ。最高のリサイタルに仕上げてみせろ』
『タヱ子さん、あなたとともに歌います』
 グリュン01とエリゼの応えを聞き、タヱ子も再び歌声を上げる。
 ふたりの合唱に狼狽する老人たち。そして”デウス・エクス・マキナ”が動きを鈍らせた。
『――ここ……は……』
 テオドールが目覚めかけているのだ。
「しっかりしてください! あなたはひとりじゃない! 助けようとするヒトも愛してくれるヒトもいる! 妄執から目覚めて下さい!」
 タヱ子はそう呼びかけた。



 皐月はタヱ子の歌で”デウス・エクス・マキナ”が揺らいだのを見て、精一杯の気持ちを込め、大声でテオドールに訴えかける。
「テオドールさん、貴方が世界中誰もが敵に回した存在だとしても、ここにひとり、貴方を愛する私がいます! どうか目を覚まして、レナトゥスの長老の支配から解き放たれて下さい!」
 すると”デウス・エクス・マキナ”から声が響く。
『俺には……愛される資格があるのか……』
 テオドールのかすかな反応に、皐月はさらに力強い声を上げた。
「愛に資格なんて関係ありません! 私が愛しているから愛しているんです! これは私のエゴです! それでも、たったひとつのかけがえのないモノなんです!」
 だが次の瞬間、皐月は強力な思念攻撃に襲われる。
『愛だと? くだらない感傷で我々の悲願を邪魔するとは』
『疾く失せろ、小娘』
 だが、その思念攻撃を、レーゲルによって増幅された精霊たちの力が防壁となって受け止める。
『そなたの思いを無駄にはさせぬ』
『そなたは訴え続けろ。この世界を救うため、そしてテオドールとやらを救うために』
「――はい」
 皐月は頷き、テオドールに対して世界の中心で愛を叫び続けた。



 馬飼 依子は、テスタメント全域にタヱ子の戦場ライヴ姿をリアルタイムで配信していた。
「まあ、タヱ子はやると決めたら頑として動かないからな。仕方がないが本当に効き目はあるのか?」
 疑う依子だったが、たしかに効果はあった。タヱ子の奮戦振りに対し、聴衆は皆感激し、中には多額のスパチャを投げてくるものまでいた。
「いやそんなスパチャ投げられてもタヱ子も困ると思うが……」
 しかし、何より大切なのは、タヱ子の奮戦に、ポラニア・フリートラント両国の人々が共感し、心をひとつにしつつあることだった。
 依子は思ったよりタヱ子の行動が反響を生んでいることに驚きつつも、それが戦況をいかに動かすかに注意を払っていた。もちろん、タヱ子には必要な戦況情報を刻一刻と送り、なおかつソルジャーデコイなどでタヱ子のスカイライダーⅡの突進を援護している。
「歌の力で世界を救えるか、人々が話し合いのテーブルに付く意思を持つか、勝負どころだぞ、おぬし」
 依子はそう呟いた。



 テオドールは目覚めた。だが”デウス・エクス・マキナ”の制御系は老人たちにオーバーライドされている。自分には何もできない。その無力感が彼を苛むが、それでも、老人たちに抗おうと神子としての精神力を発揮した。
 その結果、”デウス・エクス・マキナ”の制御系は混乱し、付け入る隙を連合艦隊やアークエネミーに与えたのである。

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