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【テスタメント】決戦! ”デウス・エクス・マキナ”

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【テスタメント】決戦! ”デウス・エクス・マキナ”
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最後の死闘


「もはや戦闘の帰趨は決し、”デウス・エクス・マキナ”はレナトゥスとともに滅びゆく運命にありました。しかし、そこに囚われたテオドールを助けようとする、小さな、しかし尊い努力がありました」

 連合艦隊の間断ない砲撃で、もはや宇宙の藻屑と消え去ろうとしている”デウス・エクス・マキナ”に対し、高速で突入する一団があった。ユファラス・ディア・ラナフィーネスレイ・スプレイグを先鋒とした数機のメック部隊である。
「オレは、必ずテオドールを救う……!」
 ユファラスはそう心に決めていた。
 たしかに世界も人間も、テオドールの言ったように愚かで価値のない存在なのかもしれない。しかし、それは自分たちも同じだとユファラスは感じていた。さらに言えば、そんな愚かで価値がない世界と人間だとしても、本質的には自身もテオドールもそれを愛していると直感していた。愛の裏返しの憎悪がテオドールのあり方であるなら、起点は確かに愛に基づく好意なのだ。
 だから、ユファラスはテオドールを救けるに値する対象としてみなし、手を差し伸べるのだ。ひとりの人間を救うという行為に命をかける、小さな、しかし真の英雄として。
 ユファラスの友人として、その心意気に感じったスレイは、仲間を引き連れユファラスの突破を支援することとした。
 彼らに加えて、”デウス・エクス・マキナ”を倒すという使命感を抱いた信道 正義星川 潤也、レナトゥスの長老たちを倒すという目的を抱いた弥久 ウォークス、そしてフリートラント総統の恩義を返すべく”デウス・エクス・マキナ”の中心部を撃ち抜くと決めた松永 焔子が加わり、一騎当千の精鋭が”デウス・エクス・マキナ”の操縦ブロックへと突入していく。
「ユファラスくんとスレイのためにも、老人共に一泡吹かせてあげましょう」
 レジーナ・ヘルムートのプギオ【C】と【僚機】ボムキャット(紫月BC)2機、【僚機】試製プギオ早期警戒機が【小隊陣形】フルエクスプロードを撃ち放つ。メックの全火力を発揮する猛攻撃を前にした有線テンタクルズの群れは一瞬で蒸発し、有線テンタクルズの陣形に大穴が開く。
 そして、先鋒を切ってその穴に飛び込んたのはユファラスとスレイだった。ユファラスの八咫烏とスレイのストリークMk-Ⅲが、迫りくる有線テンタクルズをビームガンとミサイルランチャー、そして試製ガードブレイカーで牽制し、撃破していく。ユファラスはそのまま加速。目前の有線テンタクルズをヒートソードとなったクリカラで有線部を両断し、ひたすらに”デウス・エクス・マキナ”に接近していった。
「有線テンタクルズの数が減っている分、思ったより随分楽ですが」
 知覚拡張ゴーグルで高めた空間把握能力の最大限に利用し、四方八方から迫りくる有線テンタクルズの攻撃を螺旋機動で回避しつつ試製ガードブレイカーで撃ち抜きながら、スレイは呟いた。下手をすれば見当識失調をもたらしかねない機動だが、スレイの拡張近くとストリークMk-Ⅲの機動力がそれを可能にしていた。
「あらあらスレイちゃんったら、本当に全力全開なのね。ワタシも負けてはいられないわ」
 スレイとユファラスの護衛として付いてきていたユエ・スプレイグが、彼らの後ろから迫る有線テンタクルズをサイコスマッシャーで破壊する。そしてビーム兵器に対して防御を行うためスモークディスチャージャーを展開。スレイとユファラスに対するビーム攻撃の脅威を減ずる。更にユエはヘビーアサルトライフルで数機の有線テンタクルズを撃破し、有効な援護を行っていた。
 レジーナもまた、部隊を引き連れ、しつこく追いすがってくる有線テンタクルズに【ZOC】オフサイドトラップを仕掛けて出鼻を挫き、ユファラスとスレイ、ユエの突撃を支援しつつ、先読みで地道に撃破していく。
 そこに焔子のメタルチャリオットが加わり、ユファラス、スレイとともに突破口を拡大していく。
「一度は世界の敵になった男を救けようなんて、酔狂ですわね」
「今助けを求めている彼を、救けずして英雄を名乗るはおこがましいからな」
「――まあいいでしょう。あなたの酔狂に付き合えば、私もフリードマン総統への借りが返せます。信に応じるは信によってのみですわ」
「そちらの事情はわかった。オレの邪魔さえしなければ、後は好きにして構わない」
「もちろんですとも。野暮な真似はいたしませんわよ」
 ユファラスと焔子はそのように言い交わし、次々と迫りくる有線テンタクルズを破壊し、超高速で操縦ブロック至近までたどり着いた。
 もちろん、それはユファラスとスレイ、焔子、そしてユエの卓越した操縦技量と機体性能だけでなく、スレイの仲間たちが後方からの敵を防いでくれていたからできたことであった。
「ガンガン敵を落とすよー!」
 ルーナ・スプレイグのファイアアントが機体に搭載したホーミングミサイルランチャーを撃ち放ち、多数の火球が宇宙を彩る。レジーナの先の攻撃に匹敵する数の有線テンタクルズが爆発した証だ。しかし、それでもしつこく有線テンタクルズはルーナのファイアアントをめがけてビームを確率論的に撃ち込むが、その隙間をサイコフォーキャストで見切り、華麗にくぐり抜けてみせ、さらには機体固定武装のビームキャノンで有線テンタクルズの基部を狙い打ち、まとめて数基を撃破していた。
 そして正義は、操縦ブロックを目指す彼ら彼女らと途中で別れ、”デウス・エクス・マキナ”の表面に残る有線テンタクルズ基部を次々と破壊していた。テオドールを救い出そうという、ユファラスたちを援護するため、何より自分の手で、”デウス・エクス・マキナ”を打倒するため。
 彼がそこまで決意する理由はただひとつ。
「ここですべてを終わらせる。そのために俺はテスタメントに来た。世界を救う――救ってみせる……後のことは頼んだぞラウラ!」
 正義の脳裏にラウラたち少年兵の笑顔がよぎる。戦場で誇らしげに笑っていた彼女たちの姿。それを平和な明日へとつなげたい。正義は真摯にそう思い、”デウス・エクス・マキナ”の残り少ないとはいえ1機で挑戦するには難物な有線テンタクルズに対し、死力を尽くして戦っていた。
 正義は乗機のプギオTH【C】のリミッターをすべて切る。暴れ馬と化したプギオTH【C】を、正義はサイコアクチュエータで人機一体となって御す。だがその負担は相当なものだ。
 しかし正義はそれにも構わず、襲いかかる有線テンタクルズをダブルバレルライフルで撃ち落とし、前を横切る有線テンタクルズをビームソードでなぎ払い、有線テンタクルズ基部を次々に破壊し、小爆発を発生させる。化学火災に燃え上がる”デウス・エクス・マキナ”表面を這うようにプギオTH【C】を飛翔させながら、正義は叫ぶ。
「この闘いだけは耐えてくれよ、俺の身体……!」
 正義はこの一戦で燃え尽きる覚悟をしていた。



 戦闘ブロックの中心を【神格】アイギスによるHMフォースキャノン返しで撃ち抜かれ、赤熱している”デウス・エクス・マキナ”に特攻する艦があった。アリーチェ・ビブリオテカリオのライトクルーザー級改エアロシップだ。
 残存する有線テンタクルズの全周囲からの砲撃と斬撃を、トラストコマンダーの技量により最小限に抑えるが、それでも被害は拡大していく。
 アリーチェは相棒の星川 潤也と戦う前に交わした言葉を思い出した。
「”デウス・エクス・マキナ”に特攻だなんて、無茶だ」
「大丈夫よ、あたしだって死にたくないもの。でも、あんな奴に世界を滅ぼされるのは、死んでもごめんだわ」
「まあ、いつもアリーチェには俺の無茶に付き合ってもらってるからな……。しょうがない、たまにはアリーチェの無茶に付き合うよ。ただし、絶対に生き残れよ」
「べ、別にあんたのためにやってるわけじゃないからね!」
 アリーチェはその時のことを思い出して、どうして素直に”ありがとう”と言えなかったのか、少し悔やむ。
 しかし。
「別に礼を言う必要はないわね。潤也とあたしはずっとそうやって助け合ってきたんだから」
 気を取り直し、不退転の決意をもってライトクルーザー級改を操縦ブロックに向けルアリーチェ。
「”デウス・エクス・マキナ”……機械仕掛けの神だなんて、ご大層な名前ね。自分が神にでもなったつもりかしら? ……笑わせるんじゃないわよっ!」
 ライトクルーザー級改は攻撃のたびに鳴動するが、アリーチェは動じず、艦が自動推進するようセッティングし、自身はワラセアパックを装備して脱出する。レナトゥスの長老たちに1発食らわすのが目的であって、自決することが目的ではないからだ。
「さあ、亡霊たちは地獄に落ちる時間よ! さっさとあるべき場所に戻りなさい!」
 アリーチェがヘルメットの中で叫ぶとともに、満身創痍のライトクルーザー級改が操縦ブロックへと突き刺さる。そして大爆発とともに、操縦ブロック本体がむき出しになった。
「潤也、後はあんたに任せたわよ」
 アリーチェはデブリの漂う宇宙空間で漂流しながら、最後の決着と自らの救出を待つのだった。
 そして潤也のFFMEMk-Ⅰは、アリーチェのライトクルーザー級エアロシップの後ろから直撃直前にひらりと飛び出し、操縦ブロックをキャヴァルリィブレードによるキャヴァルリィストライクで切り裂いた。
「滅びを望む意思も、争いも……これで終わりにしてやる!」
 裂帛の気合を帯びた叫びとともに振り下ろされた剣により、操縦ブロック本体が操縦ブロックから切り離される。テオドールは老人たちの呪縛から解放された。
 潤也は、ほっと一息ついて呟いた。
「英雄、って、一体何なんだろうな?」
 それはさておき、アリーチェを救出しなければならない。潤也はテオドールをユファラスがどう救済するのか気に掛けつつも、アリーチェを探し出し、そして母艦へと帰投するのだった。



 今がまさにユファラスがテオドールを救い出す好機だった。
 だがそこに突進してくるひとつの影。柊 恭也が搭乗する試製レイピアだ。
 恭也はスレイたちの奮戦とアリーチェの特攻を見て、今こそチャンスとばかりに横合いから参戦した。
「いやぁ、やっぱ殺し損ねた奴がいると気分悪ぃんだわ。特に義体とか使ってドヤ顔されると特によぉ――だからテメエらジジィ共に、尊厳とか全部踏みにじる最高の殺し方をプレゼントしてやるぜ!」
 恭也は試製レイピアを最大出力で突貫させ、有線テンタクルズの攻撃を全てディレイアヴォイドでかわすと、冥飛剣を放った。冥飛剣は深々と操縦ブロック本体に突き刺さり、そこから冥細胞Ⅱが”デウス・エクス・マキナ”を侵食していく。
「どうだぁ? 構造知性体になって不死を手に入れたと思ってたら、その自我を侵食されて死を迎えるってのはどんな気持ちだ、あ?」
『これは、なんだ!』
『我らの構造知性が破壊されていく……意識が、闇に……』
『このままではいかん、早く脱出せねば……電脳空間へと遷移を……!』
 慌てふためくレナトゥスの長老たちを、恭也は嘲弄する。
「ジジィども、逃げ場はねぇ。この宙域は電子封鎖済みだ。じわじわ食われる恐怖を味わって死にくされ!」
 恭也は攻撃的な歪んだ笑みを浮かべると、レナトゥスの長老たちが冥細胞Ⅱに侵食されて苦悶し、悲鳴を上げる様を特等席で見つめていた。
 パニックを起こした長老たちは、すでに半ば冥細胞Ⅱに侵食されて”デウス・エクス・マキナ”のコントロールを失っている。有線テンタクルズは暴走し、あらぬ方向にビームを発射し、中には自身を焼き切ろうとするものまでいる。
『我らがここで滅びるなどありえぬ! あってはならぬ!』
『左様、悲願の達成までは……悲願? ヒガンとは何だったか……それさえもオモイダセヌ!』
『ワレらは、一体、ナニモノだ?』
『ワレらは、ナニを……』
『キエル……キエテシマウ! イヤダ! ヤメロ!』
 自身の存在意義、存在そのものの意味すら消失していく恐怖の絶叫に、恭也は一矢報いた満足心を抱いた。



 その頃ウォークスは”デウス・エクス・マキナ”艦内に入り込み、生体感知でレナトゥスの長老たちが格納されている構造知性ストレージへと迫っていた。すでに冥細胞Ⅱに侵されている操縦ブロック内部だが、ウォークスはディバインワクチンで侵食を防ぎ、そしてたどり着く。
「貴様ら特異者のおかげで、我らの数百年に渡る計画も全て瓦解した。もはや同志たる者たちも侵食され、私も余命幾ばくもない。このような形で終わるのは、とても残念だ」
「そうか! 残念か! 俺は愉快だな! 貴様たちも大人しくしていれば余生を静かに送れたろうに、いらん野心を燃やすからそういうことになる」
 ライネッケと思しき構造知性体に、ウォークスは楽しそうに告げる。
 だがライネッケは静かな怒りと妄執を込めて告げた。
「我らを神と認めぬ世界なら、滅びてしまえばいいのだ」
 ――自爆特攻か!?
 悪い直感を覚えたウォークスは冥飛剣で構造知性体ストレージの電源を破壊する。だが一瞬、軽いG――軌道遷移のためのスラスター噴射によるものだろう――を感じた。
「いかん、このままでは”デウス・エクス・マキナ”が地上へと落着する!」
 ウォークスは脱出し、それを味方に告げるのだった。



 冥細胞に侵されつつある操縦ブロックに取り付いたユファラスは、潤也の攻撃により操縦ブロックから外れた操縦ブロック中心部を、八咫烏のマニピュレーターで取り外した。内部には、茫然自失の状態のテオドールが座っていることが直感できる。
 ユファラスは、テオドールに向け、ラウム・テスタメントで強化されたファントムクライを放った。世界の平和と存続のため散っていった、無数の名もなき兵士たちの思いが、ユファラスとテオドールに宿る。それはとても真摯で純粋な感情――愛する世界を守りたい、という形に結実していた。
「さあテオドール、いつまで寝ているつもりだ? 世界は、人々は今も生きている。悔いる気持ちや少しでも生きたい気持ちがあるなら……足掻いてくれ。アンタが救われる道を……オレに導いてくれ。アンタの身柄は確保した。だが、精神だけは自分で打ち勝たなければならない。さあ、起きてくれ……手をつかんでくれ、”英雄”テオドール……!」
 すると、ユファラスの八咫烏の操縦席に、か細い声が響いた。
「みんなは、これほどまでに、この世界を愛していたのか……それを破壊しようとした俺は……英雄なんかじゃない、ただの大罪人だ……俺は、救われていいのか……?」
「救われるんじゃない。自分で自分を救うんだ。罪だと思うなら、背負ってみせろ! 必ず生かして返してやる! だから、自分をあきらめるな! 英雄に戻ってくれ、テオドール!」
 すると、僅かな逡巡の後、テオドールから応えがあった。
「すまない……君のいうとおりだ。私は……後どれだけの人生かは判らないが、すべてを背負って生きていく」
「それでこそ英雄の答えだ」
 ユファラスは、テオドールが自身の過去を背負い、自身の影に打ち勝ったことを理解した。そのまま操縦ブロック中枢部を抱え、総旗艦”フィリブス・ウニーティス”へと帰投する。ユファラスの胸には、確かな達成感が宿っていた。
 それに続き、スレイたちも撤退する。もはや抜け殻と化した”デウス・エクス・マキナ”の中心を、焔子は撃ち抜いた。
「悪夢は終わりましたわ。夜明けのときですわよ」
 爆散して3つの破片に分かれあらぬ方向へと漂っていく”デウス・エクス・マキナ”の向こうに、太陽の輝きが見えた。焔子は、それが新時代の幕開けであるかのように見えた。



 脱出するユファラスたちを見ながら、セレナ・スプレイグはぽつねんと呟いた。
「えー、この闘いの真打ちはセレナだったはずなのにー……」
 セレナは脱出時に有線テンタクルズに包囲されるであろうユファラスたちを救けるため、【小隊陣形】サイコバードで突破口を切り開く予定だった。しかし、恭也の攻撃とウォークスの奮戦で老人たちが沈黙した今、有線テンタクルズを制御するものは誰もいない。
 結果として、セレナはいいとこ取りをしようとして出遅れた形になる。
「むー」
 ふくれっ面をするセレナだが、内心ではユファラスやスレイが無事に帰ってきたことに少し安心するのだった。



 もはや抜け殻となり、大気圏へと墜ちていく”デウス・エクス・マキナ”の残骸、3つの破片。だが落着すれば地上に絶大な被害をもたらすだろう。焔子の攻撃により、そのまままとまって落ちるよりは被害は少ないとはいえ、気象変動を起こし、多数の犠牲者を生み、復興の障害となることは間違いない。それはライネッケが最後の妄念によってなした軌道変更によって生ずるであろう結果だ。
 だから、ミューレリア・ラングウェイは、その被害をなくすため、プギオSU【C】を駆って”デウス・エクス・マキナ”へと特攻した。
「この世界で活動した期間は短い。だけどそれでも、知り合いや友人がいるんだ。そいつらの顔を思い浮かべたら……命を賭けてでも守るしかないよな。私達がいる限り、世界の滅亡は阻止してみせるぜ!」
 事前にエカチェリーナ議会王とフリードマン総統に嘆願し、この闘いの意義と有様を全国民に伝えるようにした結果、世界中の人々が、今はミューレリアのために、世界のために、心をひとつにして祈っている。そのひとつひとつは小さな祈りかもしれないが、全て集めれば巨大な力となる。頑強極まる”デウス・エクス・マキナ”の残骸全てを破壊することも可能だろう。
「この世界を、人々を守って見せる! これが私のとっておきだぜ!」
 ミューレリアはメギドダッシャーを発動し、自爆覚悟でビームソードを構えて特攻する。
「全部まとめて貫け、メギドダッシャー!」
 その瞬間。
 閃光が走り、”デウス・エクス・マキナ”の残骸は爆発四散した。
 その爆発炎の中から、満身創痍のプギオSU【C】が躍り出る。ミューレリアの機体だ。
「――へへっ、やってやったぜ!」
 得意げに言い放つミューレリア。どこまでも世界の破壊を狙うレナトゥスの最後の妄執も、彼女の手によって打ち砕かれたのだ。
 こうして、世界の脅威は去り、平和が訪れようとしていた。



 だが、特異者・ポラニア連合艦隊の前に立ちふさがる1機のメックがあった。紫月 幸人のジャマダハルである。
 彼は高らかに宣言する。
「ああ、俺はアークエネミーの首魁。”デウス・エクス・マキナ”が消えた今、最後に俺が倒されないといけないだろう? だからここからはエクストラステージだ。派手に楽しんで派手に散る。この世界はこの世界のヒトに委ねられるべきだからね」
 それは世界の敵になりきれなかった幸人の、最後のケジメであり矜持であった。ジャマダハルはそのまま連合艦隊に突貫する。無数のメックと歩行戦車、そして艦砲の集中砲火を浴び、身を削り手脚を失っても進むその姿は、風車に挑むドン・キホーテのようであったが、それゆえに、まさに”世界の敵”にふさわしかった。
 そして、ジャマダハルは最後にポラニア軍のフサリアL部隊の集中射によって爆散した。しかし、その残骸のコクピットは開き、幸人の姿はどこにもなかった。まるで、”世界の敵”が必要になったら、いつだって亡霊のように現れてみせるぞ、と言わんばかりの情景だった。

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