画面が切り替わり、カメラが
西の王城を映す。
ランウェイに現れたのは、この城の主
桐島 風花だ。
カメラが王城全体を映すようにズームアウトすると、振袖風の衣装に身を包んだ風花の影が長いランウェイの上に尾を引くように伸びていった。
(私が紹介するのは、
乱花万花が仕立てた衣装よ。今日は地球にはいろんな衣装があることを知って帰ってね。
さぁ、行くわよ。王城に集まってくれたみんなも、カメラの向こうで見てくれてるみんなも、今夜は一緒に楽しみましょう!)
観客の視線がウォーキングする風花の動きを追う。
ランウェイの端まで歩き切ると、風花はそこで大きく回って見せた。
この衣装の一番のポイントは、着ている風花の動きに合わせ、効果的に舞い上がるように仕立てられた裾だ。
肩から切り離されたデザインの振袖部分が軽やかに舞い上がるのと合わせ、長く翻る裾が衣擦れの音を立てる。
事前に考えた通りにショーが進行するのを確かめながら、風花はさりげなくバックヤードの方に目を遣った。
(ここまでは全部順調ね。まだ観客も誰も気づいてないわ)
風花と入れ替わるように現れたのは、乱花万花の衣装を身に着けた
プラジア、
ミイレンだった。
2人は風花とニュアンスを合わせつつ、ピスキルとセピアナ2種族の魅力を強調するような衣装を身に着けている。
それは実用性を重視した風花の衣装を引き立て、この後に控えた「本番」への予感を引き立てる演出でもあった。
(パトリアのみんな、盛り上がってるわね。だけど、西の王城のショーはランウェイだけじゃ終わらないわよ!)
バックヤードに戻った風花がちらりとランウェイを振り返ると、端まで歩き切ったプラジアとミイレンが微動だにせずポーズをとり続けていた。
歓声の中、プラジアとミイレンは「何か」を待っていた。
舞台裏の風花は胸元に忍ばせておいた「黄昏の星」をするりと引き出す。
(今日はファッションショーだけじゃないの。本番はここからよ。みんな、最後まで思い切り賑やかに盛り上がりましょう!)
真珠、色とりどりの鉱石、そして琥珀。
性質の異なる様々な物質を繋いだ小さな球体のネックレスに獅子の意匠が施された水晶のカメオがペンダントトップとして飾られたこのアトリビュートは、過去を乗り越えた「新しいパトリア」を象徴する西の王城の主の証だ。
ステージに現れた風花が低音のベースを響かせると、客席から歓喜の声が上がった。
暗い夜空に1つ残った星が夜明けの光を呼び込むように。
風花が夜のパトリアのステージに立ち明るい歌声を響かせると、徐々に明るくなっていくステージの上に現れたギターの奏者がそこにダンサブルなリズムを重ねる。
その後ろに7人のコーラスが現れると、ステージはよりいっそう明るく照らし出された。
(もしかして、少しメンバーの技量が気になるところかしら? でも、「皆違う格好でも皆良い!」が私の思う所なの。
違う皆で揃えて同じ音を楽しむのが最っ高に楽しいのはもちろんだけど、せっかくのお祭りなんだから、そういうバラつきも今回はアリよね!)
月を象った胸飾りが眩しく光を反射させる。
ライブを盛り上げるサポメン達が次々にステージに登場し、風花を含めた総勢17人で演出するのは、パトリアの世界にはない大きな大きな花畑を歌う「パトリア花吹雪」。
今日は揃いすぎていない雰囲気で、観客への親しみやすさを演出しよう――。
そんな風花の思いが観客に通じたのだろう、夜空には王城を包み込むような大きな花畑の幻影が現れた。
濃紺、紫、赤、金色と徐々に色彩を変える情景の中に花吹雪が舞う。
賑やかな夜明けの花祭りの賑わいは、パトリアだけでなく、中継を見る地球の観客も大いに沸かせたのだった。