(ふむ……やはり、こちらのブランドの服装は落ち着きますね)
小山田 小太郎はパトリアの夜風の中、ステージに臨んだ。
身に着けているのは
乱花万花が手掛けた僧衣風の衣装だ。
全体的な仕立ては伝統的な和裁によるものだが、ライブのステージに映えるよう、その素材や衣装に施されたデザインには現代的なアレンジが光る。
「こういった新しいブランドの衣装がこのパトリアという世界にどのような影響を与えるのか……ほんの少しの怖さと、それ以上のワクワクを感じますね」
ステージに向かいながら、小太郎はそんなことを呟く。
「そんな新たなもの対するワクワクと高揚感……それを、此度のライブでも伝えてみたいですね」
今宵は
北の王城の主ではなく一表現者、そしてプロデューサーとして地球やパトリアの観客にとっても、新たな刺激とよき時間を全身全霊で届けよう――
小太郎は空中に現れた光の鍵盤をかき鳴らす。
艶やかなサウンドを奏でる幻のオーケストラ「魔弦樂團」と共にシーケンサー“無心夢奏”で演奏するのはパトリアの伝承歌だ。
「伝統と革新の調和……今だからこそできる在り方を以て、それを示しましょう」
観客が演目にのみ集中できるよう、小太郎は会場内に静寂の無風景な空間を出現させる。
そこに展開されるのは、演武(ライブ)が音楽と感情を生み出し世界を彩っていく光景だ。
「伝統と共に、新たな一歩(よあけ)を紡ぐ……演奏演武を皆に示そう」
堀田 小十郎は三日月型の剣を手にステージに立つ。
身に着けているのは
GULOSが手掛けたパトリアの正装「シャルワニ」だ。
白を基調とし、伝統的な手法で仕立てられた衣装には小十郎の演武を引き立てるよう、現代的なデザインが取り入れられている。
(パトリアの伝統衣装にも少し慣れてきたか? 未だ着こなせているかはわからないが……パトリアの歴史や伝統に足る在りようを示せるように努めよう)
日々加わる変化を取り入れ進み、新たな伝統を積み重ねる。
地球とパトリアの交流が、そんな素晴らしいものを紡ぐきっかけになれば。
そして自分たちの演武(ライブ)もそう在るようにできれば――
小十郎にはそんな思いがあった。
ステージ上に現れたハープの奏者が幻想的な音色を奏で始めると、小太郎の背後には漆黒の闇が広がった。
そこに響くのは、夜明けを呼ぶ明るい歌声だ。
(伝統への敬意と、己で更なる伝統を紡がんとする熱き想いを込めて。演武(ライブ)を此処に示そう)
小十郎は浮遊する光の刃を伴いながら、ステージ上でステップを踏む。
さらに三日月型の剣を振るうと、その刃は複数に分かれ、彗星の軌道を描いてステージ上を飛び回った。
実体を持つ剣と幻が作り出す剣とを操る剣(つるぎ)の舞――
剣奏者に従う不可視のアンサンブルがオーケストラを奏でると、小太郎の演武はさらに激しくなった。
数を増す剣と共に小太郎が客席とステージをアクロバティックに飛び回ると、湧き上がった歓声と共に浮遊する剣の数もさらに増えていく。
(驚剣のラーガはスリリングでドラマチックなリズムを刻みながら踊るダンステクニックだ。だが、私は技の煌めきを以て皆を驚かせる演武にしたい)
剣が間近を飛ぶスリルに頼らず、飛び回る剣を操る変幻自在の演武で観客を驚かせたい。
そんな思いを込め、小十郎はステップを踏んだ。
さらに濃紺、紫、赤、金色と徐々に移り変わる夜明けの色彩の中には、
睡蓮寺 陽介が燃えるような赤い翼を広げ舞い降りる。
(どうよ、小十郎、小太郎さん。中々、イカした衣装だろ?
馬子にも衣装とは言わせねぇぜ? 地球もパトリアも惹きつけるとびっきりの演武(ライブ)……ここに示してやらぁな!)
陽介が身に着けているのは
QUATAが手掛けた衣装だ。
オールマイティな黒を基調にしたフォーマルなインナーやボトムスには、ピスキルの操る炎を思わせる真っ赤なジャケットや小物を合わせて。
全体を情熱的なカジュアルエレガンスのスタイルにまとめている。
「夜遊びができるのは平和の象徴ってね? 一緒に音楽と感情溢れる演武(ライブ)を楽しもうぜ……!!」
陽介が操るのは、弦楽器の音色を奏でる芸器「戦輪芸器<炎奏>」。
それを力強く派手にジャグリングする陽介のパフォーマンスには、サポメンのダンサーがアクロバティックなダンスで情熱的に応えた。
(さぁ、もっと盛り上げていくぜ!)
会場全体が天から降り注ぐミラーボールのような眩しく派手な光で包み込まれると、客席がわっと盛り上がった。
陽介はその上を輝くピスキルの翼で飛び回り、星屑の煌めきで派手な演出を加えていく。
(そこで見てるピスキルメンバー! こっち来て一緒に飛べ!)
上空から
プラジアと
セプタティオを見つけた陽介が2人にもステージに来るよう合図する。
呼ばれたのを理解した2人は陽介の隣まで舞い上がった。
(此度のテーマは「ファッション」と「音楽」。ならば見ても聞いてもそれらに触れ、楽しめるよう努めましょう)
郷愁の伝承歌「優し国の歌物語」に乗せて。
小太郎の演奏に合わせ、幻のオーケストラが作り出すきらびやかな五線譜のエフェクトが踊る。
かつてのパトリアはガラテアが外から来たものを拒む排他的な世界だった。
だが今は、シーケンサーの小太郎も違和感なくこの場に受け入れられている。
(色々な在りようが混ざり、されど今までの伝統を共存して更なる演武(ライブ)を)
小太郎は色鮮やかな音響波形のエフェクトをステージいっぱいに出現させ、小十郎の演武や陽介のパフォーマンスを彩り、2人の演奏に調和とメリハリを演出する。
(アゴンからやってきた子ども達の魂も、この時間を一緒に楽しんでくれたら……)
銀の鍵盤をかき鳴らす小太郎の手元で、透明なドーム状の水晶が光る。
その中には8色の虹のようなエネルギーが踊っていた。
(小十郎の夜明けを彩るのは、平和を祈りし輝きだ。演武(ライブ)のラストをド派手に彩るぜ!)
陽介がプラジア、セプタティオと共に、空中にビビットカラーで描き出すのは、小太郎の演奏する伝承歌のワンフレーズだ。
描かれたメッセージは小十郎の繰り出す剣の演武の背後で花火となって弾ける。
そして、明けの明星の歌い終わりを派手に彩った。